九州・沖縄

【沖縄】昔はフェリー、今はバス――共和バス【7】伊良部佐良浜平良線(2) #57

目次

伊良部島のメインストリート

「徳洲会病院前」まで来ると台地の上となり、地形の険しさは全くなくなる。平坦な土地にサトウキビ畑がどこまでも広がるという、宮古島に似た景色の中を、減ったとはいえ満席近いマイクロバスは走ってゆく。

このあたりがちょうど島の中央部となり、県立伊良部高校が立地している。しかし、2019年度から募集停止となるとあっては、バスを待つ高校生の姿はなかった。特に平良港方面の停留所は赤瓦を乗せた立派なものなのだが、役目を終える日は近い。ここから終点・佐和田車庫までは、海岸線に向かって極めてなだらかな斜面が広がるばかりで、自転車通学も容易い。しかし佐良浜方面は前述した険しい地形であるため、佐良浜→伊良部高校のバス通学はあっても、佐和田→伊良部高校はいない。このため、高校から帰宅する学生がバスを待つ上り平良港行きだけ・・、立派な停留所が整備されているのだろう。

サトウキビ畑が尽きると、伊良部・仲地なかち国仲くになか・長浜といった集落が約3kmにわたって連なる、島のメインストリートとも言うべき一帯に入っていく。かつての宮古郡伊良部町役場・現宮古島市伊良部支所もこの周辺に位置し、まさに伊良部島の中心部。単に「伊良部」とか「伊良部地区」といった場合は概ねこの辺りを指し、東部の「佐良浜」と対になる。

「渡口の浜」最寄りとなる「ダキフガー」停留所を右折すると、県道204号に入る。先述した通り、【7】から【9】に乗り換え、下地島空港へ向かうには、現状ではここで降り、「渡口の浜入口」まで950mを徒歩連絡しなければならない。

ここからの県道204号はクルマ通りだけでなく人通りも少しばかりあり、小規模ながらロードサイド店舗も現れる。「ファミリー渡久山前」停留所はその名の通り「ファミリーショップ渡久山」に隣接しており、要は島の酒屋というか何でも屋のようだ。

「国仲公民館前」停留所は、島には珍しい信号機を備えた四つ角のところにあり、ここを左折するとみやこ下地島空港へ至る、まさに交通の要衝。「伊良部小学校前」は宮古島市伊良部支所の最寄りであり、JAおきなわ伊良部支店、保育所、ガソリンスタンドなどの公共施設が集積する。停留所もほぼ300m間隔で連なり、ここまで残っていた高校生や高齢者が、三々五々降りていく。

ちなみに、アナウンスは無いながらも降車ボタンは備えられているため、乗客は目的の停留所が近づいたら降車ボタンを押している。停留所の位置関係がわかっていないと成立しない運用であり、観光客の利用がないことがよくわかる。

終点・佐和田車庫の1つ手前「スーパーみなみ前」で最後の高校生が降りてしまい、最後の1区間・約100mだけは貸切に。マイクロバスを埋めていた高校生は、だいたい3分の1が佐良浜地区、もう3分の2が伊良部地区までの利用だった。ほか、JA佐良浜店前からの乗車や、伊良部地区内のみの島内利用も僅かながら見られ、伊良部大橋開通前からの姿に近い利用も残っている様子が窺えた。

そうして、平良港から約18km・50分を経て、終点・佐和田車庫へ到着。平良港からの運賃は630円と、地方のバス路線にしては低廉に抑えられている。経営環境が厳しい中でこの運賃を維持しているのは素晴らしいと言えるだろう。

空港までの3kmを延伸できない理由

佐和田車庫は、バス3台が待機するだけの小さな車庫だった。

今乗ってきたマイクロバスが1台、道中ですれ違ったマイクロバスがもう1台、中型ノンステップバスが1台、観光車が1台。伊良部島唯一のバス会社ながら実働4台と、その規模は小さい。

他にかなり古い観光車がもう1台あったが、タイヤが取り外されていた上に、車内は物置と化していたため、実際に動くことはないものと思われる。

メインストリートの県道204号は、佐和田車庫の手前で右に曲がって佐良浜方面へ向かってしまうため、佐和田車庫より先、佐和田の浜へと続く道はかなり狭い。この佐和田集落が伊良部島最北の集落と言え、これより先は農地が広がるばかり。路線バスの運転が佐和田までであるというのも道理。

しかし、観光スポットである佐和田の浜へは、佐和田車庫から徒歩10分ほどを要する。佐和田の浜の周辺には小規模ながらホテルやコテージも何件かあり、さらにその先には下地島空港がある。佐和田車庫から下地島空港まではわずか3km・バスなら10~15分ほどの間にホテルや観光地が集まっており、さらにその先に空港ができるという、これ以上ないくらい有望な区間なのだが、共和バスの路線延長はなされず、今後も佐和田車庫が終点で変わらない。

共和バスにとってはこれ以上ないチャンスのように見えるのだが、先述の通り稼働車両数が4台しかなく、おまけに佐良浜周辺に狭隘区間も多数抱えているために、マイクロバス以外での運行も難しいとあっては、とても航空客を受け入れる余裕がないのだろう。

確かに、空港連絡バスに適していそうな中型ノンステップバスも1台あり、狭隘区間をバイパスする「上里商店前経由」なら運行できそうに見える。下地島空港から佐和田の浜を経由し、伊良部小学校前(宮古島市役所伊良部支所前)、佐良浜港を経て伊良部大橋を渡り、宮古島の平良港まではおよそ50~60分といったところだろう。ほぼ直行ルートとなる宮古共栄バス【9】みやこ下地島空港リゾート線は22分となっており、伊良部島を巡ってから山越えを要する佐良浜港経由であるため、どうしても遠回りになり、遅くなってしまうのは致し方ないところ。

▲1台在籍する中型ノンステップバス。これだけの収容力があれば空港アクセスバスへ充当しても十分だろう

下地島空港からのバスは、2社とも宮古島への最短ルートを採るため、伊良部島内の停留所がかなり限られる。中央交通「みやこ下地島エアポートライナー」は下地島空港を出たら平良港までノンストップだし、島内に4停留所が設けられる宮古共栄バス【9】みやこ下地島空港リゾート線にしても、共和バスのテリトリーを荒らさないようにするためか、共和バス【7】と一部経路が重複するにもかかわらず、両社が接続する停留所は設けられない。このため、空港から伊良部島内へのバスが実質的に設定されず、下地島空港から伊良部島内へのアクセスがタクシーに限られるという事態になっている。

しかし、このままでは、せっかく近所にできる空港と、伊良部島内の各地がスムーズに結ばれないために、観光客をみすみす宮古島へとスルーパスしてしまうことになりはしないだろうか。下地島空港を利用する観光客を伊良部島各地へ送り届けるためにも、1台在籍するノンステップ車を活用し、共和バスの空港乗り入れを実現すべきだ。

現在のルートはそのままとし、航空便発着時間帯の1往復を、佐和田車庫ー下地島空港間延長とすればよい。関連して、送り込み・送り返し運用となる前後1往復もノンステップ車とせざるを得ないため、以下のような運用となるだろう。

  1. 上り第2便:佐和田車庫7:30平良港8:20(上里商店前経由へ変更)
  2. 下り第2便:平良港9:00発→下地島空港10:05着
  3. 上り第4便:下地島空港11:15平良港12:20(30分繰り上げ・上里商店前経由へ変更)
  4. 下り第4便:平良港13:00→佐和田車庫13:50着(入庫)

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「静かな町と静かな浜…佐和田車庫」

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