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【山梨】【神奈川】水で繋がる神秘の村──富士急山梨バス道志線・神奈川中央交通[三56]三ケ木─月夜野線 #46

「道」に「志」と書いて「道志村」。志を持って道を進むかの如し、道志村へ辿り着くには、その名の通り、大いなる「志」が要る。

甲府よりも横浜と繋がる村

山梨県南都留みなみつる道志村どうしむら。人口1,600人の、山あいの村である。急峻な地形のために農耕には適しておらず、主要産業は古来からの林業と、キャンプ地・ペンションなどの観光業。特にキャンプが盛んな地であり、村内には30以上のキャンプ場が点在している。これほどキャンプ場が密集するのは全国でも珍しく、「キャンプ場銀座」とまで呼ばれるほどだ。それほどの豊かな水と緑に恵まれた地であり、その自然環境の癒しを求める、多くの観光客を魅了している。

道志村の集落は、村内に源流を持ち、西から東へと流れる道志川に沿って形成されている。この道志川に沿って国道413号「道志みち」がやはり村を東西に貫いており、村役場、小中学校、村営温泉「道志の湯」など、ほぼすべての施設が「道志みち」沿いに立地している。

道志村唯一にして最重要幹線と言える道志みちであるが、富士五湖エリアと首都圏を結ぶ裏街道でもあり、特に中央道が渋滞している行楽期であれば、道志みち経由で東京方面を目指してもそう変わらないため、渋滞回避ルートとしても知られている。裏街道であったのは今に始まったことではなく、甲州街道に対する裏街道として、古くから「道志七里」と呼ばれてきたのだという。

また、道志川は下流の津久井湖で相模川へ合流し、相模川は茅ヶ崎・平塚で相模灘へと注いでおり、古く道志村から産出される木材は、道志川〜相模川を下り、小田原へと運ばれたという。小田原は「箱根の寄木細工よせぎざいく」に代表される木工の町であり、現在に至るまで小田原の木工業者と道志村の林業の関係は深いものであるという。

そして、現在の道志村を語る上で欠かせないのが、遠く離れた横浜市との関係である。村内を貫流する道志川は、山梨・神奈川県境を越えた先、相模原市で横浜市水道局による取水が行われており、横浜市民350万人を潤す水源となっているのだ。これが縁で、道志村には「横浜市水源涵養かんよう林」が点在している。道志村の豊かな自然を守り育てることは、横浜市民のための水道の安定供給に繋がるというわけだ。村内のキャンプ場や温泉施設には、一般料金とは別に「横浜市民料金」が設定されており、道志村民とほぼ同額という優待ぶりである。横浜市民に対する自然体験イベントなども多い。

このため、2003年の平成の大合併の折には、大真面目に「道志村の横浜市への合併」を申し入れたという経緯すらある。村民の3割におよぶ賛同を集めたというが、70km以上離れている上に越県合併とあっては如何ともし難く、実現はしなかった。しかし、そうした動きが村民の側から出るということに、道志村と横浜市の繋がりの深さを感じることができるだろう。東京にとっての奥多摩が、横浜にとっては道志村であるというわけだ。

このように、道志川を通じた神奈川県側との繋がりが深いのに対し、山梨県に属しながらも山梨県側の、特に県庁所在地・甲府との繋がりは薄い。まず、地勢的な問題として、神奈川県へ向かうには道志川を下るだけでよいが、甲府へ向かうには山伏やまぶし峠を越えて富士吉田へ向かい、それから御坂みさか峠を越えてようやく甲府盆地へ…という、二回の峠越えが避けられない。

それだけ甲府へ至る道が険しいのであり、従って人の流れも細い。道志村から公共交通機関で甲府へ向かうには、かつての峠越えと同様、まずはバスで富士山駅(富士吉田市)へ出て、それから甲府駅行きのバスへ乗り換えとなる。具体的には、道志小学校6:45→富士山駅7:59(乗り継ぎ)/8:00→甲府駅南口9:30到着となり、2時間45分を要する。東京・横浜から道志村を目指しても3時間程度を要する。道志村にとって、甲府は「東京・横浜並みに遠い県庁所在地」なのだ。東京・横浜へ行くのも、甲府へ行くのも似たようなものとあらば、どちらを目指すようになるかは、言わずもがな。

山梨県は県土の広さがさほどでもなく、かつ県境がすべて山に囲まれているために、県土のほぼ中央に位置する甲府へのアクセスは、概ねどこからも悪くはない。そのような山梨県にありながら、道志村は県都・甲府へのアクセスが悪いという点で、特異な存在であると言えよう。

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道志村へ繋がる3つのバス

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