関東

【千葉】流山線を取り巻く新しい鉄道たち──流鉄流山線・つくばエクスプレス(TX) #62

近くて遠い…南流山と鰭ヶ崎

南流山駅を少し離れると、中低層アパートと戸建住宅が建ち並ぶ、いかにもなごく普通の住宅地になる。流山平和台と大して開発年代に差はないのだが、こちらは主導的なデベロッパーが入らずにスプロール的な開発が進んでいったということなのか、街並みに統一感がない。

ただ、TX開通を機に建ったであろう中規模マンションも散発的にいくつか存在し、古い住宅地が新しい鉄道の開通を機に新陳代謝が進みつつある様子も窺える。現在はお世辞にも美しい街並みとは言えず、雑多な市街地が広がるばかりの南流山であるが、新陳代謝と共に綺麗な街並みを取り戻してゆくのか、それともTX沿線にあって唯一と言っていい既成市街地という特徴を活かして、西川口的なカオスな街並みへとなってゆくのか。どちらの方向へ進んでゆくのか、気になるところだ。

さて、南流山駅から流山線鰭ヶ崎駅へは、北口を出て850m、徒歩11分。なんとか徒歩圏内ではあるが、これだけ離れていては乗り換え駅としての機能は持っておらず、JR南流山駅の出口案内に控えめに書いてあるだけだ。ただ、流山線と武蔵野線を乗り換えるなら隣の新松戸なら駅が隣接していてよほど便利だし、流山線とTXはそもそも競合関係にあるために乗り換えの需要はほぼ存在しないと言え、離れていても問題ないのであるが。

駅前通りを進んでいくと、交通量の多い県道280号にぶつかる。ここが「南流山駅入口」交差点で、松戸市八柱方面と埼玉県三郷市とを結ぶ主要道路と交差するのだが、どの方向も右折車線はあるが片側1車線であり、夕刻とあって渋滞気味であった。

少しでも車の流れを良くするためか、4つ角のうち1つを除いて横断歩道がなく、その代わりに階段のみの歩道橋で結ばれていた。特に八柱方面〜三郷方面の道路は交通量が多いだけあって平面横断できる箇所が少なく、南流山駅と鰭ヶ崎駅を行き来するには、この歩道橋を渡るか、400mほど西側、次の信号の横断歩道まで迂回しなければならない。自転車のために自転車横断帯だけ引かれているが、自転車横断帯を突っ切ってしまう歩行者もいて、却って危ない。

このバリアフリー時代にクルマ優先のバリアブルな構造が残っているとも言えるが、さりとて単純に歩道橋を撤去してしまえば、この交通量の多さでは渋滞を悪化させてしまうだろう。常時左折可とするように道路を引き直し、左折車を信号制御から分離するのがいいかもしれない。

さて、「南流山駅入口」の歩道橋を越え、「千葉愛友会記念病院」の案内標識(これは県道を曲がれという意味であり病院も県道沿いにある)を目印に右斜めに入ってゆくと、約400mで鰭ヶ崎駅である。

これといった目印もなく、案内標識もない。本当に住宅街のど真ん中に唐突に現れる駅であり、駅前商店のようなものもない。「この先に本当に駅があるのだろうか」という疑念と戦いながら、ようやくたどり着いたという感じだ。駅前にはコンビニ一つなく、営業しているのかどうかわからない古びたパン屋が隣にあるだけだ。

駅の周囲は戸建住宅に埋め尽くされているが、鰭ヶ崎駅徒歩8分の位置には東洋学園大学流山キャンパスがあり、大学のHPでも鰭ヶ崎駅が最寄駅として案内されている。1967年に設置され、流山キャンパスには人間科学部が置かれていたものの、2016年には全ての学部が東京・本郷キャンパスに移転し、流山は「流山スポーツ施設」となってしまった。

このため、2015年度には1,260名/日あった乗降客数が、2017年度には1,190名/日へと落ち込んでいる。ピーク時の1992年には4,290名/日の乗降客数があったというから、TX開通、東洋学園大学の縮小、そして近隣住宅地の高齢化による通勤客の減少が重なり、ピーク時のほぼ4分の1にまで減ってしまったことになる。

自動改札がないため駅員の常駐はあり、一日券を提示し、ひと気がないホームで電車を待った。これだけ乗降客が少ない駅ながら駅員がいるというのは、昨今ではむしろ珍しいと言えるかもしれない。それでも、上り馬橋行きが来る頃には、4人家族と3名の単独客、計7名がホームへやってきた。

馬橋行きの乗客は7名か、と思っていると、お母さん(?)らしき人が駅へ駆け寄ってきた。

「すいません、あと3人乗ります!踏切が開いたら走ってきますから、待ってくれませんか」「ああ、いいですよ」と駅員さん。この電車が行ってしまうと、次の馬橋行きは15分後だから、結構間延びしてしまう。夕方だけあって、データイムの20分間隔から、15分間隔へと増発されているのだが。15分間隔とはいえ、まるでローカル鉄道そのもののやりとりに、思わず心がほっこりする。こうしたやりとりは、無人駅ではできないものだ。

馬橋行きが流山方の踏切を通過して駅に滑り込んで踏切が開くと、踏切からお父さん、息子、娘の3人が駅へ全力で駆けてきた。お母さんだけは切符を買う余裕があったため、「降りる駅でご精算ください」と促されるまま、4人家族は無事馬橋行きに収まった。

完全な駆け込み乗車なうえ、おそらくお母さんだけは踏切が閉まりきる前になんとか通り抜け、電車を止められたからこそできた行動であり、危険は危険である。しかし、無人駅ではないからこそ現場の柔軟な判断で対応ができるという面もある。

鰭ヶ崎は流山線で最も乗降客数が少ない駅なのではあるが、減少したのは定期客であり、こうして定期券を持たない乗客が多く見られる駅であるように思う。日常の通勤通学は南流山駅であっても、平和台のイトーヨーカドーへ行くときは鰭ヶ崎駅を利用する、といった人もいることだろう。地平駅であり、階段を数段上るだけでスッと電車に乗れるのも小気味良い。市民のための小さな電車として、鰭ヶ崎駅もまた利用されている様子が窺えた。

18:03、鰭ヶ崎発。流鉄流山線、馬橋行き。

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「なぜ別駅?流鉄幸谷・JR新松戸」

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