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アクセスに恵まれない呼子
旧呼子町は呼子駅予定地周辺に住宅団地を造成するなど、呼子線を迎える準備を着々と進めていたようであるが、ついに呼子へ鉄道が来ることは無かった。博多・天神〜唐津を結んだ昭和バスのうち、一部の路線バスが呼子まで延長運転した時期もあったが、筑肥線の利便性向上によって昭和バス自体が打撃を受け、長続きしなかったようだ。
2004年に昭和バスが高速バス「よぶこ号」5往復/日の運転を開始し、博多バスターミナル・西鉄天神高速バスターミナル〜唐津大手口バスセンター〜呼子間が直結されるも、やはり長続きせず、2011年に廃止されている。
現在の博多・天神〜唐津〜呼子間のアクセスとしては、博多・天神〜唐津間の昭和バスの高速「からつ号」と、同じ昭和バスの一般路線バス「呼子線」を唐津大手口バスセンターで乗り継ぐか、JRを利用する場合は電車の終点・西唐津駅で同じく昭和バス「呼子線」に乗り継ぐことになり、どちらも所要1時間半程度。
高速バスネットワークが大いに発達している九州において、呼子は珍しく大消費地たる福岡への直通手段がないという、いささか不便な状況が続いている。また、同じ佐賀県内でありながら呼子〜伊万里間がバスで繋がっておらず、福岡⇔伊万里・有田・平戸・佐世保方面への周遊観光ルートに組み込めないのも痛いところ。現状は唐津の先のどん詰まりであり、「呼子の朝市」で全国に知られながらも、行くまでのハードルがなかなか高い。
福岡から日帰りできる手頃な観光地であるにもかかわらず、なかなかアクセスに恵まれない呼子。需要がないわけではないのだろうが、どうも呼子絡みの交通の整備は長続きせず、うまくいかないような話が目立つ。
外国人多数!昭和バス呼子線
前置きが長くなりすぎたが、いよいよ昭和バス呼子線に揺られてみよう。
松浦橋たもとのホテルから、昭和バス呼子線の始発である「宝当桟橋」バス停までは、松浦川沿いに徒歩15分。ほぼ川沿いの遊歩道を進むだけだったので、迷わずに着いた。
宝当桟橋バス停は昭和バス最大の拠点である唐津本社営業所に隣接…というか広大な営業所の中にある。2時間に1本程度の高島航路への連絡というよりも、営業所の入出庫回送ついでの営業運転という側面の方が大きいようだ。その証拠に、全ての便が宝当桟橋始発というわけではなく、3分の1程度は市街中心部の唐津大手口バスセンターで折り返す。案の定、宝当桟橋からの乗客は自分だけだった。
長崎県内の西肥バスはnimoca(西鉄系列の交通系ICカード、全国相互利用対応)が使えず、県内のみ流通する長崎スマートカードのみの対応であったが、昭和バスは福岡に隣接するからか、呼子線のような一般路線バスでもnimoca対応。整理券を取ったり降車前に両替で慌てなくていいのは助かり、これだけでも相当な不安要因の軽減に繋がる。もちろん運賃表はあるのだが、「次の○○まで○○円」といった書き方しかできないので、自分の目的地までいくらかなのは、乗務員さんに聞くか、予め携帯で調べるかしないとわからない。その点、タッチしさえすれば運賃の支払いができるICカードは、見知らぬ土地のバスであっても頼りになる。
9:39、宝当桟橋発。昭和バス呼子線呼子行き。
5分ほどで唐津市内中心部の「唐津大手口バスセンター」に至る。ここで多くの乗客を迎え、座席が埋まる。驚くのが外国人観光客の多さで、15人ほどの乗客のうち、アジア系外国人観光客が7人。残りが地元客で、日本人観光客は自分だけだった。九州はアジア系外国人観光客が抜きん出て多いと聞くが、福岡からも近く、日本の港町の風景を残す呼子は人気があるのだろうか。
唐津大手口バスセンターは昭和バス最大のターミナルで、唐津市役所やまいづる百貨店本店ショッピングプラザ(日本百貨店協会非加盟。百貨店共通商品券は使えない)に隣接し、JR唐津駅よりも中心部に近い。
ただ、JR唐津駅とは徒歩7分の距離があり、JRとの乗り継ぎには少々難がある。唐津中央商店街がこの間を結んでいるものの、この昭和バス呼子線をはじめ唐津駅前を通らないバスが大半。立派な唐津駅前広場がほぼタクシー乗り場としてしか機能していないのは、公共交通機関同士の連携という意味では明らかにマイナスだ。高速バス「からつ号」は唐津駅の近くに停車するがそれでもロータリーには入らず、停留所名も「アルピノ前」と、頑なに駅前を名乗らない。福岡─唐津間でJRと昭和バスはライバル関係にあるとはいえ、もう少し遠来の者にも配慮すべきだろう。
しばらく唐津市街地を走るうちにもう3人ほど乗せた。電車の終点かつ「JR呼子線」の起点「西唐津駅前」でも2人を乗せ、総勢20人ほどになった。余談だが、JRとバスの仲が悪い場合、単に「西唐津」とだけ名乗ったりして駅の存在を隠す例も散見されるのだが、ここはちゃんと「西唐津駅前」を名乗っている。唐津大手口バスセンターと唐津駅の仲の悪さからすると対照的だが、やはり「JR呼子線」絡みの何かがあるのかもしれない。
西唐津駅前を過ぎると山間に入っていく。昭和バス呼子線は終日1〜3本/h程度と、そこそこ運転本数も多いものの、そのうち3分の2程度は唐津と呼子をほぼ直線で結び、東松浦半島を横切る短絡ルートを採る。「JR呼子線」は半島の海沿いを辿るルートの計画であったが、そちらを通るバス(『湊経由』と案内される)は7往復/日のみの運転。要は唐津と呼子を直通する利用が大半であり、鉄道が開通したとしても「湊経由」の中間駅の利用はさほど多くなかっただろう。福岡・唐津のベッドタウンとして開発するにしても、このあたりは半島の丘陵が急に海へ落ち込む急峻な地形であり、大々的な開発は難しかったであろう。
そして、宝当桟橋から35分、唐津大手口バスセンターから30分、西唐津駅前から25分。東松浦半島の尾根を越えると、海へと転げ落ちるかのように呼子終点に到着する。今まで山の中を走っていたのに、海が見えてくるとか、観光施設の看板が目立ってくるとか、そういった前触れもなしにいきなり港町の真ん中に着くから驚く。それだけ呼子の地形が急峻であり、だからこそ古くからの天然の良港であったことがわかろうかというもの。
10:15、呼子着。
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「呼子名物「イカの活け造り」を堪能」