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【山梨】「道志バスみち」と特急「富士回遊」の行く未来――富士急山梨バス道志線・富士急行線 #49

特急「富士回遊」に生まれ変わる快速「山梨富士」

行きの富士急行線は大月からの普通を利用したが、帰りは新宿直通の臨時快速「山梨富士4号」新宿行きを利用することにした。この山梨富士4号に限らず、富士急行線からJRへ直通する列車は特急でなく、快速として運行されるものが多い。自由席がある列車なら普通運賃だけで新宿まで利用できるし、全車指定席であっても指定席料金510円のみ買えばよいので、非常に気軽だ。

▲発車を待つ快速山梨富士4号。もと房総特急用のため塗装は房総色のまま

東京からの直通列車が特急でなく快速を主体としているのは、首都圏の観光路線としては珍しい。似たような路線としては、浅草からの快速が1〜2時間に1本運転されていた東武日光線・鬼怒川線系統があったが、こちらは2017年4月で廃止となり、「特急リバティ」に置き換えられてしまった。他には、西武池袋線池袋と秩父鉄道三峰口・長瀞までを結ぶ快速急行(土休日のみ)があるくらいだが、こちらも上り池袋行きが快速急行→急行へ変更されて停車駅が増えたりと、先行きは明るくない。そうした中で、河口湖─新宿直通の快速は土休日運転ながら安定した運行を続けており、元気な存在といえよう。

土休日の富士急行線は、線内運転の普通・JR直通快速1〜2本のほか、線内運転の特急5本に加え、新宿はおろか渋谷・東京、果ては成田空港まで直通する特急「成田エクスプレス」1本も走る。以下、線内運転の特急「フジサン特急」「富士山ビュー特急」と、大月で接続する中央線特急「かいじ」を含めた時刻表を掲げる。

この中で、やはり出色なのは特急成田エクスプレス。成田空港へ降り立つ外国人観光客目当ての列車なのは間違いないが、河口湖─新宿間を1時間49分で結ぶ速さも備えており、これは他の特急・快速はおろか、富士急行自慢の高速バスよりも速く、最速の交通手段となっている。線内運転の「フジサン特急」「富士山ビュー特急」と「かいじ」を乗り継いでも河口湖→新宿で2時間~2時間16分、乗り継ぎなしのホリデー快速富士山2号でも2時間4分を要するところ、成田エクスプレスの1時間49分は極めつけに速い。

ただし、成田発の航空ダイヤに合わせているのと、午前中に河口湖に到着した下り列車がそのまま折り返すダイヤとなっているために、河口湖発は14:20と、観光の帰りにしてはかなり早い設定となっている。しかしながら、2014年7月の運転開始当初は臨時列車であったところ、その後は毎土休日運転の定期列車となったあたり、好調な利用が窺えよう。そして、この成田エクスプレスの河口湖延長が、2019年3月ダイヤ改正から走り始める、毎日運転の特急「富士回遊」に発展していくのである。

▲特急富士回遊に使われるE353系。これからの中央線を担う存在

特急「富士回遊」は1日2往復が運転され、上り列車は平日・土休日とも以下の時刻で運転される。富士急行線の特急が、平日・土休日問わずJRへの直通運転を行うのは、史上初のこと。それほどにまで、インバウンド需要が旺盛であることが窺えよう。

・特急富士回遊16号 河口湖15:05→新宿16:58
・特急富士回遊20号 河口湖17:35→新宿19:27

甲府発着の「かいじ」と連結するため、大月で停車時間が取られていることもあり、所要時間は成田エクスプレスの1時間49分に対して1時間52~53分とわずかに及ばないが、それでも成田エクスプレスと違い、観光に適した時間帯に、毎日運転となることが大きい。この時間帯は中央道が混みやすく、高速バスが遅れやすいだけに、その間隙を突く設定になっている。定時性への対価ということなのか、特急料金は富士急行線内600円、新宿まで通算1,600円と、線内折り返しの「フジサン特急」「富士山ビュー特急」の400円と比べて高く設定されているということにも、強気の思いが汲み取れる。

ただ、特急富士回遊の設定と引き換えに、時刻が近接している特急成田エクスプレス41号と、快速山梨富士4号はおそらく廃止となるだろう。今までのJR直通運転は、高速バスとの運賃差が開きすぎるために、ある意味仕方なく快速としていたところ、これからは「高速バスよりも速く、正確に走る」ことの対価として特急料金を収受する方向へ向かうのだろう。

富士急行にとって、新宿―富士五湖線の高速バスは大黒柱であることに変わりはなく、富士急行線は地域のローカル需要と、高速バスでは溢れる分の需要を受け入れるという、「バスを補完する鉄道」としての意味合いを持たされている。福岡・天神直行の西鉄バスと、地下鉄へのリレー役に徹する西鉄貝塚線と似たような図式だ(第30・31回参照)。その中にあって、「バスよりも速く、正確な鉄道」としての新たな意味合いが付与されることは、富士急行線にとって、インバウンドを背景とした明るい材料と言えよう。

▲観光輸送とローカル輸送を両立する富士急行線普通

その他、平日の観光客向けの直通列車としては、以下の列車が臨時列車として走る。

・快速富士山(金曜運転)河口湖16:26→新宿18:27

このほか、河口湖5:49発・6:19発の快速東京行き(河口湖から中野まで各駅停車)、10:37発の普通高尾行き(土休日は10:43発)が走るが、これらはいずれも時間帯からして観光客を意識したものではなく、富士急行線とJRを跨ぐ通勤・通学に対応するものだ。

中央線の高尾―大月間は東京行きの直通列車も多く、富士急行線沿線と一体となって「郡内地方」を形成しているのに対し、甲府方面の「国中地方」へは、大月のすぐ先に笹子峠が横たわっていることもあり、人の流れは笹子峠を境に途切れている。このため、人の流れはそこまで多くなく、2019年3月のダイヤ改正では、笹子峠を通り抜ける普通列車は1~2本/h→1本/hと減便されるほどだ。自社線の中央線ではなく、他社線の富士急行線への接続を強く意識したダイヤとなっているあたり、現実の人の流れを反映したダイヤとなっていると言える。

▲高尾駅で東京方面の快速電車と接続を取る中央本線普通電車

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高速バスより遅い…JR直通快速

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