高速バスより遅い…JR直通快速
しばらくカフェで時間を潰し、発車20分前に河口湖駅へ戻った。私鉄らしい2面3線のホームいっぱいにE257-500系が止まっており、乗客を迎えている。5両編成でホームはいっぱいで、最大の6両編成が走る際は1両がドアカットとなるようだ。
臨時列車ではあるが、恒常的に運転されるため、ホームには「快速山梨富士」と書かれた乗車位置が描かれている。しかし肝心の行先表示は「臨時」だけで、観光列車にしては素っ気ないものだ。せめて列車名くらい表示してほしいもの。座席は進行方向と逆向きにセットされているが、これは2駅先の富士山駅でスイッチバックとなり、そこからは前向きとなるようになっているためだ。逆向きで走るのは僅か6分ほどなので、態々回転させる乗客もいなかった。
17:29、河口湖発。富士急行線快速山梨富士4号新宿行き。
この快速山梨富士4号(以下『山梨富士4号』とする)は多客期の土休日のみ運転の臨時列車であり、毎土休日運転のホリデー快速富士山2号(以下『富士山2号』とする)と比べ、運転日が少ない。そのため乗客への周知もいまひとつのようで、全車指定席ながら1両に10人も乗っておらず、空席多数のまま発車。河口湖17:29→新宿19:51という時刻設定も、朝早い代わり、日の高いうちに終わるハイキングやトレッキングの帰路としては、いささか遅い。自由席を設定し、線内のみの乗客などの区間利用者にも開放してはどうかと思うくらいだ。
しかし、どの列車もガラガラなのかといえばそうではなく、一本前の富士山2号はその混雑ぶりが知られるところ。富士山2号は山梨富士4号と同じE257-500系5両編成ながら、指定席2両・自由席3両の構成となっているうえ、河口湖16:00→新宿18:04という時刻設定もちょうど良い。また、富士山2号は相模湖にも停車するため、富士五湖帰りだけではなく、相模湖帰りの行楽客も利用する。このため、特に朝の下り1号は八王子で乗り切れない人が出る事態になるという。
よって富士山2号は、指定席が山梨富士4号の4割の座席数しか設定がない上、山梨富士は通過する相模湖にも停車するために指定が取りにくく、3両しかない自由席が猛烈に混雑するという事態を引き起こしている。
山梨富士4号が敬遠される理由として、出発時刻が遅いことに加え、もう一つには足が遅いことがある。山梨富士4号は河口湖─新宿間に2時間22分を要しており、富士山2号の2時間4分と比べて、同じ快速ながら18分も遅い。特急料金がかかるものの、河口湖─新宿を1時間50分で結ぶ最速の特急成田エクスプレスと比較すると、30分以上も遅い。
これは、途中の相模湖で運転停車し(ドアは開かない)、後続の特急スーパーあずさ28号新宿行きの通過待ちをすること、高尾を3分前に出た中央特快を新宿まで抜かない(それどころか新宿到着時点では5分差に開いており中央特快の方が速い)等の理由によるもの。しかし、昼間の中央特快と富士急行線普通を乗り継いでも2時間30分前後であり、立川〜河口湖間各駅停車かつ大月で乗り換えを要する列車と10分も変わらないというのは、いかにも遅い。
なぜそんなダイヤになっているのかというと、富士山2号だけでは対応しきれない観光シーズンにしか走らない臨時列車ゆえ、他の列車を追い抜くような速達ダイヤを引きにくかったという背景があるためだ。しかし乗客の立場からすると、いくら快速とはいえ見た目は特急列車そのものであり、指定席券510円を払っていて、同じような特急列車に追い越されるというのは、あまりいい気分ではない。
以上のことから、山梨富士4号は、富士山2号の指定席の少なさを補う救済列車としての側面が強く、指定席が供給過剰なのを承知で、全車指定席としているのだろう。スピードは二の次でよいから、とにかく乗り換えなしで八王子・立川・新宿まで座って帰りたい…という乗客向けの列車といえる。
相模湖で特急スーパーあずさ28号に道を譲り、高尾からずっと中央特快の後追いとなるため、始終ゆっくりとしたペースで走った。それでも高尾、八王子、立川での下車はほとんどなく、3分の2以上の乗客は終点・新宿までの2時間22分を乗り通した。
現行の新宿終点では、高速バスと比較してのメリットがあまりなく、渋滞に引っかからないくらいしかない。特急「富士回遊」に置き換えられれば、もう30分早く新宿に到着するので、そういった意味では特急に置き換えられるのは必然かもしれない。
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世界文化遺産・富士山のふもとを走る、小さな鉄道と小さなバス。華やかなムードに飲まれがちな地域ではあるが、地元に眠るローカル交通にも、しなやかな目線を投げかけたい。そのこと自体を通し、地域を見る目がより養われるように思うから。
(山梨編 おわり)