メラルドグリーンの美しい海を渡るバス。病院帰りのオジイと、町へ出る島の子どもと、島々を巡る旅人を乗せ、小さなノンステップバスは軽やかに橋を駆けてゆく。
1路線のみを運行する八千代バス
宮古島と伊良部島を結ぶ共和バスの旅の翌日・2/17(日)、八千代バスの「平良」停留所に降り立った。
八千代バス【6】池間一周線はここを始発とし、宮古島北部の狩俣集落や、秘境・大神島へのフェリーが出る島尻港、最南端の国立ハンセン病療養所・宮古南静園などを経由し、宮古島の北西1.5kmに浮かぶ池間島を結び、1日8往復が走っている。経由違いを含め全て【6】の系統番号が振られ、ほぼ2時間おきの運行となっている。
ここは平良停留所とはいっても、宮古協栄バスの平良(車庫)停留所とは相当離れており、最寄りは徒歩6分の宮古協栄バス:市役所前停留所となる。各路線の結節点となる平良港バスターミナルからも徒歩12分ほどを要し、市街中心部の下里通り・西里通りからも6~7分ほど離れており、孤立した立地となっている。
これは、平良港バスターミナルが整備されるまで、宮古協栄バスとは全く別個の運用がなされてきた名残だ。この(八千代)平良停留所は小規模なバス待機場を併設しており、時間調整のため15分程度停車する便が多く、中には1時間程度停車する便もある。待機場から300mほど離れた場所には八千代バスの本社・営業所が立地しており、この待機場と本社・営業所は密接な関係にある。
運行形態もかなり特殊で、下り池間島ゆきは(八千代)平良を始発として池間島の「漁協前」終点へ向かうのに対し、上り平良ゆきは漁協前を始発とするが(八千代)平良を通り越して平良港バスターミナルへ向かい、再度来た道を引き返して(八千代)平良を終点とする、というもの。このため、上り平良ゆきであれば池間島から平良港バスターミナルまでそのまま乗り通せるが、平良港バスターミナルから池間島へ行く場合、あくまで「上り(八千代)平良ゆき」と「下り漁協前ゆき」という別運行のバスを乗り継ぐ必要があり、通し利用はできないということになっている。
このような状況であるため、せっかく平良市街の中心部を経由して平良港バスターミナルへ乗り入れているにもかかわらず、池間島→(八千代)平良→平良港間はまだ池間島方面から通し利用の乗客がいるものの、平良港→(八千代)平良間は回送同然となっている上、平良市街からの乗客をやや街はずれの(八千代)平良まで歩かせていることになり、明らかなサービス低下である。
このように、バスターミナル(平良港)と待機場(八千代:平良)が離れている場合は、バスターミナルから待機場までを回送としたり、入出庫系統としてバスターミナル~待機場間を別建ての運行とする場合が多いように思う。八千代バスのこの運行形態は回送距離を減らせるといった合理性はあるが、始発停留所が街はずれに立地しているというのはいかにも不便だ。また、15分程度の待機であれば、平良港バスターミナルにそのまま停車していても大して他のバスの邪魔にはならない。現に、平良市街に待機場を持たない伊良部島の共和バスは、バスターミナル内で15~20分程度待機しているので、八千代バスがもう1台待機するくらいの余裕は十分にある。現行の(八千代)平良停留所併設の待機場は廃止するか、単なる車庫へ変更してもよいだろう。街はずれとはいえ平良市街には変わりないので、ホテルか何かを建ててしまってもよいかもしれない。
さて、少々問題を抱えた(八千代)平良停留所へは、市街中心部に位置する宮古共栄バス・共和バスの「公設市場前」停留所から徒歩8分。平良港バスターミナルから(八千代)平良停留所まで折り返してくるバスも、徒歩ルートと全く同じであるため、停留所の脇を歩いていくのがもどかしい。宮古島市役所の脇を通り過ぎたところに、八千代バスにおいては宮古島市役所最寄りとなる「宮古第一ホテル前」がある。宮古共栄バス:市役所前までは徒歩3分と至近距離にも関わらず、市役所の名を避けるあたりに、共栄バスとの差別化というか、独自性が見て取れる。
(八千代)平良停留所は、老舗(?)スーパー「なかそね」を目印にするとわかりやすい。ちらりと覗いてみたが、かなり年季を重ねたスーパーで、沖縄らしい総菜が並んでいたのが印象的。(八千代)平良停留所でのバス待ちの間、買い物の用を足す人もいるだろうし、相互関係にあるのだろう。
定刻15:24に、平良港バスターミナルを折り返してきた(八千代)平良止まりのバスがやってきた。方向幕は「池間一周」となっており、八千代バスはこの【6】池間一周線しか運行しない今となっては、固定表示のよう。かつては池間島に渡らず、池間大橋の手前・狩俣集落で折り返す「狩俣一周線」もあったため、その区別に使っていたものと思われる。
ちなみに、どちらも「一周線」を名乗るが、起点:平良、終点:(池間)漁協前なのは同じであり、途中の経路がやや異なるだけで、基本的には往復運行である。池間島を一周するかのようなイメージを想起させる名前だが、池間島内には「学校裏」と「漁協前」の2停留所しかなく、島内をバスで一周することはできない。もっとも、海岸線長10.1kmの島であり、道路を一周しても8km程度。季節が良ければ、トレッキングにはちょうどいい距離かもしれない。
狭い待機場で何度か切り返して転回、扉を開けてしばし停車。ご丁寧に、ダッシュボードへ「池間行 15:40発」とのボードを掲げており、始発停留所ならではの配慮がなされている。これを見て、スーパーなかそねへ買い物に出る時間があるかどうかを判断する乗客もいるだろう。
セオリー通り、15分程度停車して乗客を待ったが、自分以外の乗客は現れなかった。せっかくであれば池間島をひとまわりしたいところだが、15時台発ではそのまま引き返さざるを得ない。乗務員さんにもそのまま折り返す旨を告げ、前がよく見える特等席に落ち着いた。
八千代バスは一般路線車の全車両をノンステップバスへと取り換えており、また宮古島の3事業者のうち唯一運賃箱の両替機が稼働している(でも整理券は相変わらず不使用)など、サービスが良い。また、「15:40発ですから、それまでに戻ってきてくださいねー」など、乗務員さんによる声掛けも積極的にしていたり、(八千代)平良停留所の発車時刻もなるべくキリの良い時間に統一されているなど、「わかりやすく、単純」になるように努められているあたり、好印象だ。
15:40、(八千代)平良発。八千代バス【6】池間一周線・野田経由:漁協前行き。
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「最北端でようやく迎えた初乗客」