沖縄編8回目にして、漸く当ブログのタイトルでもある「駅」が登場(まだゆいレールには乗らない)。このブログは基本的に鉄道旅行記を目指しているが、第1回からずっと沖縄バス旅を綴っていたため、なかなか鉄道が登場しなかったが、満を持して鉄道(の要素)が登場。しかし、今回はかなり濃厚なバス回です。
目次
・複雑怪奇な那覇市内バス事情
前日までに宜野湾市宇地泊まで移動していたため、まずはバスで那覇市内へ。
宜野湾市と浦添市の境にあたる宇地泊。社会実験で走る那覇〜コザ間急行バスも停車する主要バス停の一つ。沖縄本島最北端の国頭郡国頭村、その名も奥(おく)集落までは112kmとある
「どうせ時刻表通りに来ないので、来たバスに適当に乗る」という乗り方にも慣れてきた。那覇市内の宿をゆいレール旭橋駅近くに取っていたため、まずは旭橋駅まで行く。旭橋駅は那覇バスターミナルに隣接しており、連絡通路で直結しているという関係。
一本目に来たバスは「牧志経由 那覇バスターミナル行き」だったが、二本目に「久茂地経由 那覇バスターミナル行き」が続行してきた。ここで選んだのは二本目の久茂地経由。
一本目の牧志経由=即ち国際通り経由は、観光客で賑わう国際通りを、東端の牧志から西端の県庁前まで縦断していくため、どうしても国際通りを抜けるのに時間がかかる。二本目の久茂地経由は、県庁前まで道幅の広い国道58号を経由していく上にバス停の数も少ないため、県庁前・旭橋方面へ直行するのであれば、久茂地経由の方が早く着くからだ。
参考までに、牧志経由と久茂地経由の関係、および市内線と市外線、ゆいレールの関係を簡潔に示した図がこちら。
「牧志」を名乗るバス停はあるが、「久茂地」というバス停は無い。これは、バス停名でいう若松入口、農林中金前辺りが久茂地川に沿ったビジネス街となっていることから、単に「久茂地」と言えばその辺りを指す地名として十分通用するためだ。
ややこしいことに、リウボウ百貨店が入る複合商業施設「パレットくもじ」は、久茂地経由だけでなく牧志経由も両方通る「県庁北口」が最寄り。
また、国際通り上の牧志(市外線)/てんぶす前(市内線)、松尾(市外線)/松尾一丁目(市内線)はほぼ同じ位置にありながら名称が違ったり、バス停の「安里」はゆいレールでは「牧志」が最寄りだったりと、もはやここまで来るとややこしいを通り越して難解でしかない。せめて、バスの「安里」はゆいレールに合わせ、「牧志駅前」に改称すべきだろう。
このように、行き先は同じでも経由地が異なるというややこしさをカバーするため、沖縄本島の路線バスはフロントガラスに経由地を示した副標を掲出する。「牧志経由」は青、「久茂地経由」は黄の副標が必ず掲出されるため、遠目でも副標の色を見れば経由地がわかるようになっている。他にも、ゆいレールおもろまち駅前を経由するものは「おもろまち(赤)」、開南経由(白)などの種類もあるが、詳細は割愛する。
牧志経由(青)
久茂地経由・おもろまち経由(黄+赤) 複数掲出する場合もある
同じ系統でも、時間帯によって牧志経由と久茂地経由が入れ替わる系統もある。例えば、往路で乗った120番は、朝夕の通勤時間帯は久茂地経由、日中は牧志経由となる。朝夕は県庁や久茂地川沿いのビジネス街へ直行する需要が多いため久茂地経由、日中は買い物客や観光客が国際通り沿いのバス停を多く利用するため牧志経由と、需要に合わせて柔軟に経由地を変える。
また、日曜日の日中は国際通りが歩行者天国となるため、ごく一部を除いて牧志経由は久茂地経由に変更される。これも注意が必要だ。
同じ番号でも経由地が違うのを区別するには、行き先に小さく添えるだけではわかりにくい。そこで、経由地を色で示した副標が生きてくるのだ。
この副標掲出は那覇市内に乗り入れる全ての路線バスに共通した取り組みであり、会社の違いが案内の違いになっていないのは評価すべきだとは思う。
しかしながら、前述したように問題点が少なくない上に、外国人向けの案内は、特に副標には全くない等、十分でない。
定時運行率の向上、Suica、ICOCA等の全国交通系ICカード対応などのハード面の改善もさることながら、停留所名の統一、ゆいレールとの連携強化、副標への英字併記など、ソフト面での改善も進めていってもらいたい。
また、市外線が前乗り前降り(中扉は使わない)、市内線が中乗り前降りと乗降方法が違うことも、特に那覇市内では非常にわかりにくい。市内線か市外線かを区別する方法は系統番号を見るしかなく、20未満なら市内線、20以上なら市外線となるものの、実質的にはバスの扉が開くまでわからないと言って良い。
これら問題に対する私見については、沖縄編の最終回でまとめたい。
読めないシリーズ
まさに沖縄の大動脈
・「那覇駅」を偲ぶ
往路の120番は牧志経由だったため、賑やかな国際通りをそろそろと通り抜けていったが、復路の32番は久茂地経由のため、ビジネス街でもある那覇市内の国道58号を、スピードを上げて走り抜けてゆく。国際通りの裏手にあたる若松入口、農林中金前などは久茂地経由しか通らないため、ぽつぽつと乗客が降りていく。120番や77番では殆ど見なかったOKICA利用者も、さすがに那覇市内ともなれば割と見かける。
琉銀本店前で国道58号から分かれ、国際通り西端の県庁北口を過ぎれば、ほどなく終点、那覇バスターミナルに至る。
パレットくもじとゆいレール県庁前駅
那覇バスターミナルは訪問時点で建て替えが佳境を迎えており、躯体が姿を現していたものの、路上の降車場で降ろされてしまった。路上故、乗客を降ろしたバスはすぐに回送となって走り去っていった。
那覇BTは、戦中まで本島中南部を走った軽便鉄道、沖縄県営鉄道の那覇駅跡地に位置する。戦後、米軍占領下にバス交通の拠点となるべく駅施設が撤去され、急ごしらえのバスターミナルが設置されて以降、基本的にはその時代の施設を引き継いできたが、現在は旧施設は全て解体され、「国際通りの賑わいを旭橋まで導く」ことを目標に、目下建て替え・再開発が進められている。新バスターミナルのオープンは2018年秋、商業施設を含めたグランドオープンはその1年後を予定しているそうだ。
那覇BTは戦前から那覇の交通の起点となる場所だっただけあって、今でも数多のバスが起終点とする要衝ではあるものの、現代の那覇の中心地は国際通りの辺りに移動しており、那覇BTはやや南西にはずれた場所となってしまった。しかし、かつては那覇BTから海側の通堂(とんどう)にかけてが最も賑やかな場所であり、沖縄軽便鉄道と同時期に走った路面電車、沖縄電気軌道もこの通堂を起点に首里までを結んでいた。その通堂から久茂地川を隔てた場所にかつての那覇駅があり、そこに架かっていた橋が「旭橋」であった。この橋から名を取ったのが、ゆいレールの「旭橋駅」というわけだ。
ペデストリアンデッキが伸びる旭橋駅。隣では那覇BTが建築中
終戦から58年を経た2003年、再びこの地にゆいレールという鉄道が復活し、沖縄電気軌道と同じように首里へ向かって走り出したということに、感慨を抱かずにはいられない。同じような感慨を頂いた沖縄県民も多いことだろう。解体前の旧BTには那覇駅の遺構も一部残存していたというが、建て替え工事中とあっては偲ぶべくもない。鉄道のターミナル駅らしい、頭端部に向けて膨らんでいく三角形の敷地に、かつての駅らしさを窺えるくらいだ。
そのような歴史を持つ旭橋駅からゆいレールに乗り、まずは首里を目指した。ゆいレールの模様は次回にまとめる。
・モノレール⇔バスの連携を模索する【7】首里城下町線
ゆいレールの終点・首里駅から【7】首里城下町線に乗り換え、首里城を目指した。
南国らしい色使いの改札口
道路を跨ぐ首里駅舎。バス停は駅舎の真下にある
【7】【8】首里城下町線は、徒歩15分ほどかかる首里城前とゆいレール首里駅を結ぶコミュニティバスとして運航を開始した経緯があるため、モノレールの一日乗車券等を提示すると20円の割引を受けられる。【7】はおもろまち駅前・久茂地経由那覇バスターミナル発着、【8】はおもろまち駅前折り返しで、首里方の終点はゆいレール延伸区間の「石嶺駅」(首里駅の次)に近い「石嶺団地東」となる。同じように首里地区と那覇市中心部を結ぶ系統とルートも若干異なり、こちらは首里城を構成する施設でありながら首里城公園を若干外れた「寒川水樋川前(すんがーひーじゃーまえ)」や「石畳入口」を経由していく。
しかしながら運行本数は1時間1~2本と、那覇市内でもっとも有名な観光地へのアクセスとしては本数が少ないために観光客の利用は多くなく、運賃割引の認知も低い。「首里城前」の一つ手前、「首里城公園入口」までなら他系統を併せ1時間4~5本に増えるが、間隔は一定でなく20分程度待ち時間が発生する場合があり、また【7】【8】の運賃は150円(乗継割引で130円)なのに対し、それ以外(【14】【17】【46】など)では那覇市内均一運賃の230円が適用される上、【7】【8】以外ではゆいレールとの乗継割引もない。
バスがこのような錯綜した状況であるため、首里城へのアクセスは、ゆいレール首里駅から交通量が多く、歩道も狭い龍潭通り(りゅうたん―)を15分程度歩くのがメインとなっており、世界遺産・首里城への観光ルートとしては不十分な状況と言わざるを得ない。
どの系統も本数は多くない
首里駅のエスカレーターを降りたところにバス停があるが、駅構内からして十分な案内はない。首里城方面と石嶺方面では降りる階段が異なるが、その案内もない。バス停のポールに貼られた時刻表を覗き込んで初めて、5分後くらいにバスが来ることがわかる程度だ。
始発の石嶺団地東から2kmも離れていない為、ほぼ定刻に【7】首里城下町線・那覇バスターミナル行きはやってきた。市内線なので中扉が開いた。沖縄に来て初めて中扉から整理券を手に乗り込んだが、市外線の前乗り前降りに馴染んでいただけに新鮮な感覚だ。首里駅前から乗り込んだのは、僕とO君以外にもう1人。
土日にしては観光客の利用はやはり少ない。首里駅前から首里城前までは徒歩15分の距離だけに乗ってしまえばあっという間で、5分足らずで到着。降りたのは僕らだけだった。
首里城前のバス乗り場。タクシーが屯する
首里駅前から首里城前を通り抜けていく乗客は他に5人ほど居た。石嶺方面から那覇市街方面へと乗りとおしていく利用と思われるが、首里城近辺の観光地を経由した上でおもろまち駅へ寄り、さらに久茂地経由なので市街の外側を回ってようやく那覇BTに至るという大迂回経路になるが、乗客は目的地に着きさえすればいいのか、それともおもろまちへの需要が思ったよりもあるのか…。乗り通せばわかることだが、真相は分からない。
ともあれ、バスに乗れば、守礼の門の目の前で降ろしてくれるのはありがたい。守礼の門の前は小さなバス・タクシー乗り場になっていて、タクシー程度であれば十分転回もできる。バスの本数が少ない上に、首里駅までは起伏が激しく交通量も多い道を歩くことになるため、タクシーの需要は高いようだ。
このような状況であれば、8分間隔のモノレールに接続して、モノレール利用者は運賃100円程度の首里駅前~首里城前のシャトルバスを、観光シーズンに運行するだけでも、だいぶ首里付近のクルマを減らすことができるように思うが、どうだろう。
本数こそ少ないが、バスを降りれば目の前は守礼の門だ
少なくとも、【7】【8】の首里駅前~石嶺団地東と、おもろまち駅~那覇BTの区間は既存系統の付け足し程度の役割しかないため、削減しても問題ないように思われる。既存系統で代替可能な区間を減らし、おもろまち駅~寒川水樋川前~首里城前~首里駅前の区間に本数を集中させた方が、よほど観光の足として活躍できるだろう。おもろまち駅は沖縄県立博物館・美術館(『万国津梁の鐘』の本物がある)の最寄りでもあり、回遊性も高まるはずだ。
しかしながら、バス・モノレールの運賃割引を行ったり、寒川水樋川前など既存系統が立ち寄らない観光スポット最寄りの独自区間を持つ【7】【8】は、数多の系統が入り乱れる那覇市内にあって、先進的な試みが多く見られるのは評価すべきところ。
特にバス・モノレールの割引は他の系統の都心直行を削減し、より効率的な交通体系の構築を図る上で不可欠な施策になる。那覇市も福岡市や新潟市のように、都心直行のバスを減らし、駅での電車乗継や幹線バス乗継にシフトしなければならない時期に来ていると思う。ただでさえ混雑する国際通りを、数人の乗客しかいないバスが何台も連なって走る今の状況が最善とは思えないし、おもろまち駅前広場も当初の見込みほどには活用されていない。しかしながら、ゆいレールの延伸区間ではバスとの連携が積極的にはかられる予定になっている。特に終点・てだこ浦西駅における沖縄自動車道経由の高速バスとの連携は、自分も大いに気になるところ。
沖縄のシンボル
首里城下町線の取り組みは、その試金石なのかもしれない。
(つづく)