S駅が考える沖縄のバス問題解決のための私案。二週にわたり投稿していきます。
目次
・輻輳を極める沖縄のバス
沖縄のバスは大きく二つの問題を抱えている。一つは多系統少本数であり路線が複雑すぎること、もう一つは交通渋滞等による定時性の喪失である。つまり、「わかりにくい上に時間通りに来ない」という状態になっているというわけだ。
組んず解れつしながら那覇へ向かう(国道58号-宜野湾市宇地泊-那覇向け)
沖縄のバスは再頻発系統でも15分間隔程度であり、これより需要が多い区間は複数系統が束になって対応する形となっている。しかしながら、那覇市付近の国道58号や、コザ付近の国道330号はバスが団子状態になって走るのが恒常化している。このためバス同士の渋滞による遅延も多く、今来たのが一体どの時刻のバスなのかわからないといったこともしばしば。
さらにいえば、那覇バスターミナルなどの始発バス停において途中まで同じ経路のバス同士であっても、乗車バス停が異なることが珍しくない。例えば、那覇市上之屋(うえのや)から宜野湾市伊佐までは国道58号を通るバスが集中する区間で、ほぼ待ち時間なしでバスを利用できる。しかし、那覇側の起終点が若干異なったり、似たような方向を目指すバス同士であっても系統番号が異なったりして、もはや地元民でも理解できないのではないかというほど、複雑を通り越して難解な状況となっている。以下に、那覇市上之屋から宜野湾市宇地泊まで国道58号を経由するバスの一覧を示す。大体の共通性は見られるものの、どれだけ輻輳した状況になっているのかがわかるだろう。
※那覇バスターミナル建替工事に伴い、那覇バスターミナル始発・終着系統は一部バスターミナル周辺での発着に変更されているが、本表では那覇BT表記で統一した。※色分けはバスマップ沖縄の分類による。
大体の傾向はつかめるが、これを正確に把握している利用者など県民でもほぼいないのではないだろうか。
特にひどいのがコンベンションセンター行きで、運行会社が【26】は琉球バス交通、【32】は沖縄バスで違うために、那覇市内とコンベンションセンターを結ぶというほぼ同じ役割を担っているにも関わらず、起終点の位置が違う上に、【120】名護西空港線のように共同運行ではないために間隔調整等もされておらず、それぞれ毎時1~2本なのに2分続行で固まって来たりする始末。コンベンションセンターはその性質上県外からの訪問者も多いだろうに、こんな状況ではいくらバスの利用を呼び掛けても限界がある。
名護行きと読谷行きは途中まで同じ国道58号を北上するが、同じ場所から方向が全く異なる糸満行きも出るのはなんともわかりにくい(那覇バスターミナル)
・沖縄のバスの問題は「新潟方式」で解決するか
沖縄のバスの諸問題と似たような課題を抱えていたのが新潟市だ。新潟市は人口80万人を抱える政令指定都市であるが、JR以外の鉄道がない(1999年まで私鉄が1路線のみあったが廃止)。JR以外の鉄道がないのは政令指定都市のなかで新潟市のみであり、公共交通機関が不便な状況にある。新潟市は広大な新潟平野に位置するために市街地が面に広がっており、線でしか対応できない鉄道・バスはどうしても不便になってしまう。加えて新潟市は冬季の積雪といった問題もあり、除雪された雪が溜まって道幅が狭くなったり、視界が悪くなって減速運転せざるを得なかったりと、冬季は定時性が阻害される環境にある。これらの理由からバス利用者は長いこと減少傾向にあり、ネットワークが崩壊する危機を迎えていた。
そこで、新潟市が打ち出した方策は、いくつもの支線バスが都心部へ直通する形態を、幹線バスと支線バスを乗り換え地点で乗り継ぐ形態に改めるというものだった。新潟市が作成した資料に簡潔にまとめられているので、それをご覧いただこう。
「直通だったのが途中で乗り換えになる」というとマイナスの印象を受けるが、実はこのようにメリットも多い。ポイントは以下の4つだ。
1.連接バス導入で収容力向上+ICカードで精算の手間を省く
複数の支線バスの乗客を幹線バス1台で受け入れる関係上、従来のバスでは収容力が不足する。そこで、2台連結の連接バス「ツインくる」を導入して収容力不足を解決したのだ。併せて幹線バスのうち一部の便を快速とし、需要が高い主要停留所を快速の連接バス、それ以外の停留所を各停の一般バスに分担させ、適正化を図った。
新潟交通の連節バス「ツインくる」。後ろの一般バスとの収容力の差は歴然だ(新潟駅万代口)
また、乗り換えを前提とする仕組みに改めるに際し、乗り換える度に小銭をジャラジャラ精算するのでは面倒だし、停留所でのタイムロスも大きい。そこでICカード「りゅーと」を導入して精算の手間を軽減した。りゅーとはSuica、PASMOなど全国ICカードの利用にも対応しており(但しりゅーとではJRには乗れない)、来街者もICカードを使えるようになっているのはありがたい。
2.新潟駅↔都心部の往来が単純明快になった
新潟駅と都心部の古町(ふるまち)・市役所は2~3km離れているため、この間を移動する乗客は多かったが、従来は新潟駅前のバスターミナルにズラリと13番まで並ぶバスの中から、先に発車するバスはどれなのか、またそのバスは都心部を通るのか(一部経由しないものがある)を、瞬時に判断しなければならなかった。新潟駅前バスターミナルではこの手間があるため、一つ先の「駅前通」まで歩き、最初に来たバスに乗るという人も多かったようだ。わかりにくい上、乗客によっては一つ先のバス停まで歩かせていたわけで、特に積雪時にはかなりの負担になっていた。
しかし、新潟駅前~都心部が幹線バスに集約されたことで、都心部までの乗客はどれに乗ればいいのかを考える必要がなくなった。遠来からの来街者はほぼ幹線バスの区間で用が足りるため、「幹線バスに乗ればいい」という、これ以上ないほどわかりやすくなったわけだ。また、幹線バスの乗り場は駅に一番近い所になったため、場合によっては遠くの乗り場まで歩かされるといったことも無くなった。積雪時でも駅から屋根続きのままバスに乗れるようになり、これも相当な改善である。
新潟駅前の一番便利な場所が幹線バス乗り場になり、JRとの乗り換え利便性が劇的に向上した(新潟駅万代口)
3.支線バスの増発・定時性向上につながった
支線バスが都心部の手前で折り返しとなり、都心部で団子状態になっていたものを支線へ振り向けた。このため増発になったばかりでなく、道路が混雑する都心部の渋滞に巻き込まれることがなくなったために定時性が向上したことも大きなメリットとして挙げられる。
乗継地点の主要停留所に設置されたディスプレイ。幹線バス・支線バスだけでなく新潟駅からのJR乗り継ぎも案内(青山)
4.朝夕ラッシュ時は直行便を存置
乗継地点とされた拠点バス停には待合室が整備されたり、隣接するショッピングセンターがフードコートをバス待合所として開放するなど、乗り換えの抵抗感を軽減するように努められてはいるものの、それでも高齢者、障害者、子供連れなど、乗り換えに大きな負担を伴う乗客もいる。こうした乗客に対応するため、朝夕のラッシュ時には幹線バスだけでは本数が不足することから、一部の便を都心部直通で存置している。杓子定規に分断しない配慮も必要だろう。
乗継地点の青山バスターミナルに隣接するイオン新潟青山店。店内のフードコートがバス乗り換え待ち客向けに解放され、ICカードチャージ機や案内ディスプレイも設置された(青山)
以上、先進事例として新潟市の取り組みを紹介した。これら取り組みの奏功によって、長きにわたり減少し続けていたバス利用客が増加し始めており、結果が出ているのだ(平成27年→29年で2.5%増、出典:新潟市HP)。
新潟市も那覇市と同様、中心市街地でバスが団子になり、郊外では本数が少ない上になかなか来ないという状況だったのが、乗継システムを整備し直したことで問題解決を図った。今後はより都市軸を強化すべく、連節バスよりも定時性や収容力に優れたLRT(次世代形路面電車)の導入を目指すという。
LRTは富山市が2006年に日本の先陣を切って導入し、宇都宮市が2022年の開業を目指して整備を進めるなど、各地で導入に向けた検討が進んでいる。しかし新潟市はまず既存のバスの利便性を向上させ、基礎を固めてからという方針にしたようだ。沖縄でも計画が進む那覇〜名護間鉄道の規格として候補に入っているが、どう転ぶかはまだわからない。
次回は、新潟市の事例を踏まえた、那覇のバス問題解決のための私案を提示したい。沖縄県庁も交通戦略プランを立案しているものの、あくまでバス単体の改善策に留まっている。自分としては、バスの改善ももちろんではあるが、那覇市内では渋滞の影響を受けない既存のモノレールを活用すべきだと思う。今年秋の旭橋・那覇バスターミナルの完成、そして来年に迫った首里〜てだこ浦西間の延伸は、その一つの起爆剤になるはずだ。
建替工事が佳境を迎えている那覇バスターミナル。完成はもうすぐだ(那覇バスターミナル)
以下に私案のバス・モノレール乗継システムの地図を示す。モノレール開業当時に模索されたものの頓挫してしまったおもろまち駅乗り継ぎの反省、県庁作成の交通戦略プランの絵解きも踏まえ、現時点でまとめられるだけの提案をしたいと思っている。
S駅私案のバス・モノレール乗継システム
(つづく)