復活からの落日
西鉄の一員となって以降、苦しい状況が続いていた宮地岳線にようやく光が差したのは1986年、福岡の中心・天神へ直結する福岡市地下鉄箱崎線が貝塚まで延伸したこと。宮地岳線は再び福岡市街へのアクセスを獲得し、これを契機に終日全線13分間隔の運転を行い、フリークエントサービスの提供に舵を切った。福岡市末端となる三苫(みとま)駅に折り返し設備を設け、全線単線ながらラッシュ時には貝塚─三苫の福岡市内区間で6〜7分間隔の高頻度運転を行った。
しかし、どん底から復活した宮地岳線の前に立ちはだかったのは、同じくどん底から復活したJR鹿児島本線だった。国鉄破綻というどん底から民営化し、再生したJR九州は福岡近郊区間の利便性向上に注力。駅が多く天神方面へのアクセスが良い宮地岳線と、幹線ゆえ駅が少なく博多方面へ向かう鹿児島本線とで、並行しながらも役割を分担していた。しかし、JR九州は九産大前(香椎花園前から1km・1989年)、千鳥(花見から1.4km・1991年)と、宮地岳線の駅と競合する新駅を相次いで開設し、もとから競合関係にあった香椎、古賀、福間を含め、宮地岳線の乗客を奪いにかかった。結果、地下鉄と接続したとはいえ旧型車両のままで、旧態依然とした宮地岳線から、新型車両の導入が進み、便利になった鹿児島本線への乗客流出が顕著になってしまった。
2006年に西鉄香椎駅が高架化するなど、一部では改善も見られた宮地岳線であるが、津屋崎方の末端区間ではその後も乗客流出が止まらなかった。末端区間の輸送密度(利用者数を路線1kmあたりで割った数)は2,201人と、旧国鉄の廃止基準(4,000人)の約半分にまで乗客が減少。ついに西鉄は撤退を決断し、地元自治体も第三セクター化による引き受けを断念したことで廃止が確定。2007年に廃止され、この区間は82年の歴史に幕を下ろしたのである。
残る貝塚─西鉄新宮間は、路線名の由来であった宮地岳駅が廃止されたことで「貝塚線」に改称。かつてのラッシュ時6〜7分・昼間13分間隔運転はラッシュ時10分・昼間15分間隔に減便、一部3両編成もあった車両は全車2両編成に減車と、残る区間もスリム化が進み、利便性が低下している。ただ、毎時の発車時刻が安定しない13分間隔運転を15分間隔運転に改めたことで、元から15分間隔運転だった地下鉄箱崎線〜空港線直通電車との運転間隔が揃い、貝塚での地下鉄接続が改善したのは数少ない改善点である。
皮肉なことに、宮地岳線廃止後もかつての沿線は鹿児島本線沿線のベッドタウンとして開発が進み、新宮中央(西鉄新宮から1.4km・2016年)、ししぶ(古賀ゴルフ場前から600m・2016年)の2つの新駅が開業している。これによって廃止区間で唯一代替駅が無かった古賀ゴルフ場前駅近くにも鹿児島本線の新駅が開業し、末端で鹿児島本線が並行しない宮地岳駅・津屋崎駅を除いた全ての駅を、鹿児島本線が代替するに至っている。
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「福北本線」になり損ねた貝塚線