九州・沖縄

【沖縄】航空の未来を占う羽田空港深夜便の素顔 – ANA羽田=那覇線ギャラクシーフライト(NH999) #32

減光される機内

「無人島に行きましょう。ギャラクシーフライトで」

無人島。それを聞いて、何を連想するだろうか。心理テストに出てくるような、白い砂浜にヤシの木が1〜2本生えているだけの、小さい島。そんな所に辿り着いたら、何を思うことだろうか。そんな島での生活など困難を極めるだろうけど、「ちょっと行って帰ってこれる無人島」なんて、冒険心をくすぐってくれるではないか。

そして、そんな島へ「ギャラクシーフライト」なる飛行機で行くのだという。「銀河」「天の川」の名を冠したフライトなんて、なかなかロマンチックではないか。

ギャラクシーフライト保安検査場の案内

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・那覇到着はAM1:35! ANA”ギャラクシーフライト”とは

このブログにも何度か登場した沖縄通のO君。スケジュールとしては、金曜日の深夜便で羽田を発ち、翌・土曜日は朝から無人島へ。そして日曜日の最終便で羽田へ帰ってくるという、なんとも強行軍なもの。しかし、夏のうちに沖縄へ行きたいという思いが彼には強く、自分としても国内線の深夜便などという特異な存在に心惹かれるものがあった。

出発日は金曜日だったため、この日は自分もO君も仕事。通常運行便では羽田20:00発→那覇22:30着のANA(NH479)が最終。JALではさらに早く、羽田19:35発→那覇22:05着(JL925)が最終となる。ANA便に乗るにしても、チェックインを考えると遅くも都心を18:30頃には出発しなければならない。しかし、これに乗るには旅支度を会社へと持っていかなければならないし、沖縄にスラックス姿で降り立つのも観光気分が興ざめである。

そこで役に立つのが、夏休み期間にだけ運航する「ANAギャラクシーフライト」。2018年度は7/13〜8/31の運航で、羽田22:55発→那覇25:35着(NH999)・那覇3:35発→羽田5:55着(NH1000)という、下りは強烈に遅く、上りは強烈に早い設定である。

ギャラクシーフライト案内

東京から仕事終わりに沖縄へ直行できるのはもちろん、「下り便は国内各地から羽田への最終便に乗れば沖縄へその日のうちに行ける」「上り便は羽田から国内各地への始発に間に合う」こともセールスポイントとして挙げられていた。特に東北・北海道←→那覇は仙台と新千歳に1日1便が飛ぶのみで、選択肢が少ない。出発地によっては羽田をハブとする乗り継ぎが有効になるし、東京への飛行機が少ない南東北であっても新幹線に乗り継ぐことで、8〜9時頃には辿り着ける。羽田空港が文字通り日本のハブとして機能しているからこそ、ギャラクシーフライトのような便が成立すると言えるだろう。

しかし、羽田も那覇も24時間運用が可能にもかかわらず、ギャラクシーフライトでさえも季節運航の域を出ていない。「夏の沖縄」という国内最大のリゾート需要を背景にしないと、国内線の深夜便という特異な便は成立しないようだ。「仕事終わりに羽田へ直行、沖縄で思い切り遊んで翌朝そのまま羽田から出勤」なんて需要は結構あるのではないかと思うし、昨今の夜行バスの盛況を見るに、夜行そのものの需要が無いわけではないように思う。しかし、それが沖縄や北海道でも成立するかといえば、そこまでの需要量があるわけではないらしい。

・深夜便受け入れ態勢の不備

時刻の設定や深夜便の受け入れ態勢も、まだまだ不十分な点が目立つ。ANAは季節運航ゆえに1機でのシャトル運航となっており、本来であれば羽田の駐機場で滞泊する機体を使い、1機が羽田→那覇→羽田と1往復すれば済む運用になっている。このため、羽田発は理想よりも若干早く、羽田着が理想よりも若干遅くなるという結果になっている。2機使用にして上空で上下のギャラクシーフライトがすれ違う運用にすれば、時刻設定の問題は何とかなる。しかし、運航経費は2倍とまではいかないまでも嵩んでしまう。

上り便は那覇3:35→羽田5:55と、宿代がなんとか浮かせそうな設定ではあるものの、羽田からの始発電車には間に合わない(東京モノレール:5:11発区間快速浜松町行き、京急:5:23発エアポート急行印旛日本医大行き)。そして、ゆいレールの最終電車は那覇空港23:58到着。ゆいレールで空港に着いても、3時間ほど待ち時間が生じてしまう。出発を若干早め、那覇1:00→羽田4:00着くらいの設定が望ましいところだ。

下り便も、羽田2:00発→那覇5:00着であれば、京急や東京モノレールの最終電車で羽田空港へ到着でき、翌朝は始発のモノレールやバスに乗って効率的に沖縄本島内を移動できる。しかし、羽田22:55→那覇1:35の設定では、遅くも21:30頃には東京都心を出発しなければならないし、那覇に着いてもホテルかネットカフェ、赤嶺駅前のマクドナルド等へ、ギャラクシーフライトの到着に向けて大量に空港へ集まってくるタクシーで移動せざるを得ない。宿代やネカフェ代が節約できるのは夜行のメリットなのだが、現行のギャラクシーフライトの設定では昼行と同様にかかってしまうのだ。

羽田へ向かう最終電車は、京急も東京モノレールも羽田0:30頃到着であり、さしものギャラクシーフライトといえど最終電車では間に合わない。また、那覇空港からの公共交通機関は、那覇市内へのゆいレールも、本島北部の名護へ向かう111番高速バスも、6:00が始発。4時間ほど待ち時間が生じるうえ、ターミナル内での待機はできない。そして、24時間営業のレンタカーも沖縄では殆ど無く、ギャラクシーフライトで到着して夜のうちに出発!というわけには、なかなかいかない。

結果として、午前2時のターミナルビルから放り出されたら、大量に待機しているタクシーで那覇市街へ向かうしかない。このように、受け入れ態勢が整っているとは言い切れないものの、それでもこのユニークなフライトに乗ってみたい!という思いが強かった。ある意味、これからの国内航空を占うかのような存在でもある。かくして、僕とO君はその実態を確かめるべく、およそ半年ぶりに沖縄へ向かうことにした。

ただ、ANA以外にスカイマーク(SKY)も羽田─那覇の深夜便を運航しており、こちらは下りが羽田2:40発→那覇5:15着(BC527)、上りが那覇2:40→羽田4:55着(BC528)と、上空ですれ違う2機体制のため、理想に近い時刻で運航されている。上り下りどちらも公共交通機関の最終から搭乗でき、到着後の始発に間に合う設定で、夜行の概念に最も近いと言える。運航期間も7月から9月とANAより長い。その代わりに運賃はANAよりも若干高く、棲み分けがなされていると言えよう。

・ほぼ無人の羽田空港第2ターミナル

さて、いくらギャラクシーフライトとはいえ、あまりギリギリに羽田へ向かうのは心中穏やかでないので、出発1時間前の22:00頃には保安検査場に到着しておいた。

夜の羽田空港ターミナルビル殆どの施設がクローズされたターミナルビル

ラウンジ利用も最も長いところで21:30までとなっているため、ラウンジで出発を待つことはかなわない。

22時以降、羽田空港第2ターミナルからの出発便はこのANA999便だけで、第1ターミナルを含めても22:00発SFJ(スターフライヤー)93便北九州行き、22:55発SFJ95便北九州行き、そして前述の2:40発SKY527便那覇行きの4便しかない。こういった状況では保安検査場Aだけ、最低限の1ヶ所しか開いておらず、他のレーンは警備員ががっちりとガードしている。

フライトインフォメーション残る第2ターミナルからの出発はANA999便だけ
フライトインフォメーション第1ターミナルからはSFJ北九州行き、SKY那覇行きが残る

第2ターミナルからの出発便はANA999便しかないため、京急やモノレールから第2ターミナルへ流れてくる乗客も、必然的にANA999便の乗客ということになる。脇道への分岐点をことごとくブロックされているため、トイレ以外は保安検査場Aへ向かうほかなく、細いながらも乗客の流れができていた。

保安検査場前ここしか開いていないにも関わらず閑散とした保安検査場

つつがなく保安検査場Aを抜けると、Aにほど近い59番ゲートの前だけがロープで囲われた待合スペースとして解放されており、その他はやはりロープと警備員がガードしているという、少々風変わりな光景が広がっていた。59番の周りを除けば、掃除が行き届いた清潔なターミナルビルが、どこまでも広がっているばかり。照明は全部点いているし、空調も動いているのに、人の気配だけが綺麗さっぱり存在しない。まるで人類が突然地球から居なくなったかのようだ。

深夜のターミナルビル深夜のターミナルビル深夜のターミナルビル深夜のターミナルビル

言い換えれば、このANA999便以外に第2ターミナルからの出発はなく、ANA999便のためだけに第2ターミナルの設備が稼働しているという、何とも贅沢な状況。大阪や札幌、福岡といった大消費地を差し置いて、東京から最も遠い県である沖縄への便だけが残っているというのも、沖縄が置かれた環境の特異さを象徴している。

・満席で飛んだANA999便

機材繰りの関係か、出発が10分遅れる旨が案内されるも、もとより出発遅れを気にしている乗客などそういない。それよりも、空席待ちの案内状況がしきりに繰り返し放送されるあたり、「今日中に那覇へ着けるかもしれない」という一縷の望みをかける人が案外多いことに驚かされる。彼らは空席が無ければ羽田空港で夜を明かすほかないのだが、翌朝までどう過ごすつもりなのか。24時間解放されている国際線ターミナルのベンチにでも行くのか、それとも第2ターミナル隣接の羽田エクセルホテル東急でも既に抑えてあるのか、或いはこれから抑えるのか。

59番ゲート

しかしながら彼らの望みも虚しく、キャンセルは出なかった。キャンセルを待っていた8人ほどの旅人は、果たしてどこへ向かったのかはわからない。いずれにせよ、おおらかにして、何と無鉄砲な旅だろう。そんな旅人が一人でなく何人もいるのは、やはり沖縄ならでは。

そうこうしているうち、定刻22:55→繰り下げ後23:05の15分前、22:50頃には優先搭乗が始まった。旅行客ばかりかと思ったら、意外にもスラックス姿の出張帰りと思しき乗客の姿もある。疲れた顔で東京ばな奈の袋を提げ、一人で淡々と飛行機を待っているあたり、「仕事帰りに沖縄へ直行!」という浮ついた気持ちは感じられない。何も観光需要ばかりでなく、この時期限定の最終繰り下げ便という側面もあるわけで、「普段は懇親会までいられないけど、ギャラクシーフライトがある時期なら一次会なら参加できる」という人もいるだろう。那覇空港からの帰宅の足も、クルマ社会の沖縄であれば自分で運転して帰るか、家族に迎えに来てもらうなどは容易い。ギャラクシーフライトの新たな一面を見た。

誰もいないターミナルビル誰もいないターミナルビル

 

しかし機内に入れば、そこはもうリゾートの空気。大学生グループはテンションMAXだし、家族連れの子どもの顔は晴れやかだ。はじめての飛行機におっかなびっくりなのか、離陸を前に不安な顔をしている子どもの顔もあるが。深夜便とはいえ、小さい子連れの姿もあるのは、現代の特徴なんだろう。23時過ぎなど、一昔前であれば、とっくに子どもはおやすみの時間である。

ギャラクシーフライト機内の様子

「お待たせ致しました。お飲み物はいかがでしょうか」

深夜便であっても、ドリンクサービスは提供される。JTAだったらさんぴん茶があるらしいが、メニューは一般便と変わらない。ここはANA自慢のアイスコーヒーにしておこうか。うーん、酸味が喉に抜けてさわやか。まだまだ先は長く、寝てしまうわけにはいかない。

流石にドリンクサービスが終わると0時過ぎということもあり、眠りに落ちる乗客もちらほら。その雰囲気に合わせるかのように、減光がなされた。長くても3時間程度な上、運行時間帯が深夜になる便も限られる国内線での減光は、かなり珍しいのではないだろうか。通路付近のみ明るい間接照明が照らしているので、客席のあたりは暗くなっている。眠りを妨げない、じつに優しい光り方だ。LEDが一般的となり、調光がしやすくなったというのも、この快適な機内環境に寄与しているだろう。

減光される機内

・静まり返っていた那覇空港

ドリンクサービスから約一時間で降機体制に入った。眠りに落ちていた乗客も目を覚まし、シートベルトを締める。しかしながら、先ほどまで眠りに落ちていたとは思えないほど、乗客の顔は晴れ晴れとしているのは、やはり沖縄への期待感がなせるものだろう。一度は眠りこけていた大学生グループも、またテンションMAXに戻っている。

そして1:45、定刻から10分遅れのまま那覇空港へランディング。もうこの時間では到着便が重なるはずもなく、静々とボーディングブリッジへ向かっていく。

到着後のANA999便羽を休めたANA999便。折り返し準備が早速始まる

那覇空港は到着フロアと出発フロアが同じで、南国らしくとても天井の高い開放感のあるつくりが印象的であるが、こうも遅い時間ではANA999便を迎えるだけ。一部の観光客は写真を撮ったりして沖縄の雰囲気に浸っているが、大多数は感慨もそこそこに到着フロアへ向かっていく。ANA999便は折り返し那覇空港3:35発ANA1000便となって折り返すが、ゲート前のベンチには早くも搭乗を待つ客の姿がちらほらある。最終のゆいレールで来たのであれば到着は23:58であり、この時点で既に一時間半ほど待っていることになる。搭乗まではもう一時間半ほどあり、彼らにとっては我慢我慢のフライトである。

那覇空港ゲート前開放感のある那覇空港ゲート前
那覇空港のフライトインフォメーション深夜便の出発が控えている
モノレール・京急の券売機この時間では羽田発のモノレール・京急の券売機の電源が落とされていた
めんそーれのウェルカムボードこの言葉を見ると沖縄に来た気がするというもの
那覇空港内の水槽美ら海水族館から出張してきた魚たちも眠りに就いていた
那覇空港内の水槽那覇空港内の水槽

・深夜のタクシー大行列とモラルの高さ

流れに乗ってターミナルビルを出ると、そこには何十台、いや百台は超えるタクシーが大挙して待っていた。ターミナルビル前の道路は停車レーンを含めて3車線あるが、殆どがタクシーで埋まっており、自家用車による送迎はごく少ないよう。大半は県外からの観光客のようだ。

那覇市内などの近距離と、那覇市外への遠距離で乗車位置を分け、それぞれに列を作らせる誘導になっているのは好ましい。自分は那覇市内のホテルへ向かうので近距離の列に並ぶ。何十人が列を作っていたのでかなりの待ちを覚悟したが、10分ほどで乗車できた。

那覇空港のタクシー大行列 那覇空港のタクシー大行列

ただ、マナーの悪い観光客というものはどこにでもいるもので、タクシーの待機列に並ばず、車線と車線の間にスーツケースをいくつも並べて障害物を作り、びゅんびゅん通り過ぎてゆくタクシーを強引に止めて乗ろうとする者がいた。あまりに危険かつ非常識な行為であり、注意しに行く側も危険な状況だったために、タクシー整理員の注意が入ることもなかったが、ただ一台のタクシーも扉を開けることは無かった。最終的にその者は別に待機列に並んでいた同行者に呼び戻され、結果的に順番通りの待ち時間を経てタクシーに乗っていた。

どの空車タクシーもちゃんと車列に並び、通り過ぎてゆくタクシーは賃走か回送だけ。あのような横入りを許すことは観光客のモラル・マナーの低下に繋がり、観光客同士でのタクシー呼び止め合戦に発展しかねない。そうしたマナーの悪い観光客を乗せないことでルールを守らせ、ちゃんと列に並んでいた観光客に悪い印象を残さない。そうした積み重ねが沖縄ブランドを守っているのだ。沖縄のタクシーの高いモラルと、古くからの観光立県である沖縄の歴史を感じさせてくれる出来事であった。

順番が来てタクシーに乗ると、流れに乗って猛烈な勢いで市内へと飛ばした。こんな深夜では走っていないが、ゆいレールの60km/hなど比較にならない勢いだ。タクシーだけが飛ばしているのではなく、周り中がこの勢い。深夜で車が少ないからこそ飛ばせるのだろうが、クルマ社会ならではの現象とも思う。

明治橋で国場川を渡ると、もう那覇の都心部。空港からホテルまで10分程度で着いてしまった。夜中のホテル前に自分らを降ろすと、やはり猛烈な勢いで空港へと戻ってゆく。これは何も乗客へのサービスという側面だけではなく、寧ろ少しでも早く乗客を市内へ送り届け、少しでも早く空港へ戻ることが、一人でも多くの乗客を獲得することに繋がっているのだろう。上手くすれば3ターンはできるかもしれない。

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時は午前2時。タクシーが去った旭橋駅前は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

(つづく)