目次
1.我孫子市とは
千葉県北西部の街、我孫子市。東京から約40kmに位置し、市の中心・JR我孫子駅へは東京駅から常磐線で約45分。東京都特別区への通勤率は36.5%(H12)と典型的な東京のベッドタウンであるが、近年は都心回帰志向により、市の人口は2010年の134,000人をピークに微減傾向にあり、直近(2020年)では132,000人。千葉県内の常磐線沿線で最小である。
我孫子にはただのベッドタウンに留まらない、多彩な資源が眠っている。その筆頭となるのは、なんといっても手賀沼だ。”沼”といっても”湖”と呼べるほど広い。澄んだ景観とも相俟って我孫子市民憩いの場となっており、夏場には柏市と合同で「手賀沼花火大会」が催され、市民に広く親しまれる存在だ。
しかしながら手賀沼は、後述する経緯もあり、都市近郊の行楽地として意識されているとは言い難い。
手賀沼の知名度向上と、手賀沼を活用した我孫子市の活性化を図るべく、「あびこ手賀沼駅」を設置してはどうかというのが、今回の提案である。
2.我孫子市を取り巻く鉄道網
我孫子市は東西に長く、JR常磐線我孫子駅・天王台駅のほか、我孫子駅からJR成田線が分岐し、東我孫子・湖北・新木・布佐の4駅があり、合計6駅が設置されている。また、西寄りの一部地域は、柏市内の北柏駅を最寄りとする。
このうち、最も利便性が高いのはやはり中心たる我孫子駅だ。常磐線快速(日中6本/h)が停車するほか、常磐線各駅停車(地下鉄千代田線直通、日中10分間隔・6本/h)の大多数が我孫子始発終着となるため、各駅停車は朝でも着席が容易だ。ただ、特急ひたち・ときわ(合わせて2本/h)の他、日中に運行される特別快速(10〜15時台のみ1本/h)は通過となる。
その他の駅であるが、まず天王台は常磐線快速が停車するものの、各駅停車の殆どは我孫子で折り返してしまうため、実質的に快速のみとなる(日中5本/h)。また、成田線は日中30分間隔(うち常磐線直通上野発着1本/h、成田線内折り返し1本/hの計2本/h)と、常磐線よりも大幅に本数が少ない。このため、市内の鉄道利便性は我孫子駅が突出して高く、次いで天王台、成田線沿線の順という状況にある。
乗車人員も利便性にほぼ比例しており、我孫子駅はコロナ前2019年で31,590人/日(ピーク時1996年:32,599人)と、ピーク時に比べ約1,000人の減少と、時折持ち直すものの、最近は微減傾向にある。 天王台は19,271人(ピーク時1996年:26,751人)で我孫子の6割。成田線に至っては1桁少なく、湖北3,987人(ピーク時1991年:6,670人)で4割減、布佐3,156人(ピーク時1993年:8,126人)で6割減と、常磐線沿線よりも元々の数が多くない上に、落ち込み方が激しい。
ただし、新木だけは2,871人(ピーク時2008年:3,006人)とほぼ横這いを維持している。他駅がピークを迎えた1990年代は2,200〜2,400人程度と、現在より少ない。これは、新木駅周辺の開発が比較的近年で、宅地開発が現在も進行中であるため。実際1998年まで無人駅であったほど。また、東我孫子は現在も無人駅であり、乗車人員の公表はなされていない。
新木の横這いが意味するところは、新規開発が続くところは、全体として人口が微減傾向にある我孫子市であっても、人口の流入が続くということ。長らく空地であった駅前ロータリー隣接地へカスミフードスクエアが開店する(2017年)など、成熟した住宅地が広がる我孫子市においてなお、新木は駅を中心とした開発が続く稀有なエリア。成田線は日中30分間隔(2本/h)とお世辞にも便利とは言えないダイヤであるものの、それが原因で乗車人員が減っているとは言いきれないのだ。
3.手賀沼とは 3-1.我孫子市と手賀沼
我孫子市は手賀沼と共に歩んできたと言っても過言ではないだろう。我孫子は水戸街道の宿場町に端を発し、この頃の手賀沼はコイやフナなど、淡水魚の水産資源が豊富であった。現在でも我孫子には淡水魚を扱う料理屋が多く、漁業の沼であった面影が残っている。その後、明治に入り、1896年の常磐線開通と同時に駅が設けられたことで、東京からの交通利便性が劇的に向上。手賀沼の風光明媚な景観と、その良好な環境が文人たちの目に留まった。柳宗悦、志賀直哉、武者小路実篤ほか「白樺派」の面々が次々と我孫子へ移住。文芸活動が活発な別荘地として、「東の鎌倉」の異名をとったほどだ。
戦後はベッドタウン開発の波に飲み込まれ、人口の急増と共に文化の香りが薄れてゆくと共に手賀沼は生活排水の流入により、急速に水質が悪化していった。それを背景に、手賀沼は埋め立て・干拓による宅地や水田の造成が進み、面積は半分ほどへ縮小している。1974〜2001年までは全国の湖沼ワースト1の水質汚濁レベルとなり、この時期の手賀沼は恩恵というより、むしろ地域のお荷物と化していた。
しかしながら、この時期でも手賀沼は見捨てられたわけではなく、1964年東京五輪のボート競技誘致や、干拓地へのディズニーランド誘致(当時の我孫子市広報にも記載されている)など、観光地としての手賀沼の再生が試みられていた。ただ、ボート競技や「水辺の憩いの場」としての活用が難しいほどに当時の手賀沼の置かれた状況は厳しく、いずれも頓挫してしまった。ディズニーランド誘致失敗で宙に浮いた造成地は、住宅地へと転用されてしまった(現在の若松地区)。我孫子市にとって、かつて文人たちを魅了した風光明媚な手賀沼がどんどん小さくなり、残った水辺も「水質汚濁ワースト1」の不名誉な面で有名になる…などという有様は、見るに堪えないものであったことだろう。
その後、利根川から手賀沼を経由して江戸川を結ぶ「北千葉導水路」が2000年に完成し、汚濁した水が江戸川へ徐々に流されるなどの効果が出始めたこともあり、かつての猛烈な汚濁は見られなくなったものの、依然として汚濁レベルは全国的にも上位にあり続けている(県内の印旛沼に続く全国2位)。都市部に残った希少な湖沼ゆえに、なかなか汚名返上とはならないのかもしれない。それでも、今の手賀沼は水鳥が憩い、子供たちが遊び場とするくらい、人や生き物たちが帰ってくる水辺になった。手賀沼浄化への取り組みは、今なお途上であるものの、徐々に実を結びつつある。
3-2.手賀沼と鳥類
我孫子市と手賀沼の関係を象徴するものとして、鳥類の存在が挙げられる。1984年に手賀沼を望む高台へ「山階鳥類研究所」が渋谷区南平台より移転したのを契機に、1990年には鳥類研と連動した「我孫子市立鳥の博物館」が開館、2001年からは手賀沼公園で「ジャパンバードフェスティバル(JBF)」が毎年開催されるに至っている(2020・2021年はコロナ禍のためオンライン開催)。
特に鳥類研は、創立者(山階芳麿)が旧皇族(山階宮)ということもあり、紀宮清子内親王(黒田清子氏)がかつて大学卒業後に勤務したという経緯を持つ。渋谷区から我孫子市へ移転した背景には、建物の老朽化や敷地の狭隘といった問題を抱え、移転を検討していた鳥類研に対し、我孫子市が「手賀沼浄化のために市民の環境意識を向上すべく、鳥類研を誘致したい」という申し出をしたことにあるという。
2020年には鳥の博物館開館30周年を迎え、「鳥」は我孫子市を象徴するキーワードとなりつつある。その中でも主役は、やはり市の鳥であるオオバン(大鷭)だろう。やや大柄な水鳥であるオオバンは、水生植物中心の雑食性であるために手賀沼の環境に順応しており、市のマンホールにも描かれるなど、市民に愛される存在であり、これほど「市の鳥」が市民に定着している街も珍しい。
JBFは単なる市民の秋祭りの域を超え、市民に加え鳥類愛好家も多く集める。JBF期間中は我孫子駅〜鳥類研〜鳥の博物館〜手賀沼公園を巡回するシャトルバスが運行、広場には我孫子駅名物、弥生軒の「唐揚げ蕎麦」の屋台が出るなど、市の知名度向上ならびに、市民への環境意識高揚に大きく寄与する、大切なイベントへと成長している。今や手賀沼は関東有数の野鳥の飛来地となるまでに蘇った。「鳥の街」我孫子市にとって、水鳥・オオバンの住処となる手賀沼は、無くてはならない存在なのだ。
3-3.手賀沼へのメインルート「我孫子市のシンボルロード」公園坂通り
ただ、肝心の手賀沼へのアクセスが、残念ながらあまりよくない。
我孫子駅から手賀沼公園へは徒歩10分(800m)、園内の我孫子市生涯学習センター・アビスタ(我孫子市民図書館を併設)へは徒歩11分(900m)と、ここまでは十分徒歩圏内である。我孫子駅のメインとなる南口に降り立つと、歩道も広く、良く整備された道が真っ直ぐ手賀沼へ向かって伸びている。我孫子市の玄関口・我孫子駅から、我孫子市のシンボル・手賀沼を結ぶ公園坂通りは、我孫子市のシンボルロードと位置付けられている。
しかしながら、広くて綺麗な道は国道356号(利根水郷ライン)に突き当たる「我孫子駅入口交差点」までの、ほんの150mほどで途切れてしまう。そこから先は人がすれ違うのにも難儀するほどに歩道が狭くなる上、高台上の駅から水平面の手賀沼への急な下り坂を、そろそろと下りていかねばならなくなる。また、道幅が狭いにも関わらず、手賀沼北岸を東西に結ぶ幹線道路「都市計画道路3・5・15号根戸新田・布佐下線(手賀沼ふれあいライン)」(我孫子市旧市街を蛇行する国道356号のバイパスの機能も担う)から我孫子駅への最短ルートであるため、マイカーの通行も多い上、バス通りでもある。歩道が狭いために、車道へ張り出した歩行者とスレスレになるようなことも珍しくなく、この古くて狭い道がシンボルロードとは、看板倒れもいいところだ。
ただ、公園坂通りの東側に新たな幹線ルートとなる「都市計画道路3・4・14号手賀沼公園・久寺家線(以下『新道』)」を整備中で、2022年春の供用開始を控えている。新道の供用開始後は公園坂通りから手賀沼ふれあいラインへの進入が不可能になる(逆は可能)上、バスルートも新道に移行することから、少なくとも交通量に関しては減少が見込まれる。公園坂通りの問題は我孫子市政の長年の懸案であり、新道の開通は大きな転換点になるだろう。
しかし、当初は一方通行化によって交通量の大幅な減少を見込んでいたところ、公園坂通りは生活道路でもあるため、沿道の住民には一方通行化で不便を強いることになってしまう。このため、「一方通行化を前提としない通過交通減少策を検討する」ことで沿道と妥結し、新道開通後も相互通行が維持されることとなってしまった。相互通行が維持される以上は歩道の道幅が変わらないということになり、公園坂通りのシンボルロード化という方向性からすると、大きく後退してしまったと言わざるを得ない。
我孫子市としては、新道開通後の状況を見極めつつ、公園坂通りの整備の方向性を考えていきたいとしており、元町ショッピングストリート(横浜市)や、時の鐘通り(川越市)などが「自動車通行を規制せず歩行環境を改善した」イメージとして挙げられている。これらは、居住者・商店主などの関係者以外の通行が緩やかに制限され、歩行者中心の道になっている。我孫子市もこれに倣い、道路交通法の制限によらない通過交通の抑制(最大9割減としている)を目指しているようだ。
ただ、せっかく新道が開通しても、手賀沼ふれあいライン→我孫子駅へは引き続き公園坂通り経由が最短ルートとして維持されるため、交通がやや分散される程度の効果しか得られないのではないか。それどころか、やや遠回りになる新道には広い歩道が併設されており、歩行環境としては新道の方がよほど快適かつ安全であるため、実質的に歩行者へ遠回りを強いることになってしまう。これでは、公園坂通りがシンボルロードと言っても看板倒れも甚だしく、クルマ優先の前時代的な発想とすら言えよう。市によるアンケート結果を見てみても、道幅の狭さによる危険性や、相互通行を維持することへの不満を訴えるものが多く見られた。
生活道路となっているがために一方通行化への沿道の理解を得られなかったのは、沿道住民の立場を思えば致し方ないものの、理解が進まない背景には「我孫子市が手賀沼をどう活かすのか」のイメージが伝わりづらいことがある。市は今後のビジョンをもっと明確に示し、理解を得やすい環境づくりに取り組むべきだ。
3-4.鳥の博物館・水の館へのわかりにくいアクセス
また、手賀沼公園と並ぶ存在である「我孫子市立鳥の博物館」「手賀沼親水広場・水の館」へのアクセスは、手賀沼公園以上によくない。
鳥の博物館は、手賀沼ふれあいラインと、県道8号(船橋我孫子線、船取県道)の交点(若松交差点)近くに位置している。我孫子市役所や県立我孫子高校もこの近くだ。船取県道は若松交差点の南、「手賀大橋」で手賀沼を渡り、柏市(旧・沼南町)や国道16号線方面に至る。柏市方向にはセブンパークアリオ柏などの大規模商業施設が立地し、また「手賀の杜ニュータウン」などの開発も進みつつあることから、交通量は終日にわたり多く、交通の要衝となっている。つまり、鳥の博物館や我孫子市役所は「車で来るには便利な場所」である。
手賀沼公園からは手賀沼北岸の遊歩道を歩いて25分ほどだが、我孫子駅からだと30〜40分を要する。散歩がてらなら良いが、特に小さい子連れには無理だろう。
このため、駅から離れた市役所や鳥の博物館周辺へは、我孫子駅からの阪東バスがアクセスの中心となっている。鳥の博物館へ徒歩7分の「市役所」バス停へは【8】車庫我孫子線:我孫子駅─東我孫子車庫(若松経由)が10〜20分毎、【42】手賀の杜ニュータウン線:我孫子駅─手賀の杜ニュータウン(第一小学校経由)が15〜25分毎など、複数の系統が経由することから合計7〜10本/hほど停車し、利便性は高い。ただ、手賀沼ふれあいラインを経由する「若松経由」、国道356号(利根水郷ライン)を経由する「第一小学校経由」が絡み合うように市役所を経由するため、道路を挟んで双方に「我孫子駅行き」が到着するなど、本数は多いものの、わかりにくい点は否めない。
この他、鳥の博物館の目の前にも阪東バス【9】鳥の博物館線(我孫子駅─若松─鳥の博物館─天王台駅)「鳥の博物館」停留所、およびアイバス(天王台駅〜市役所循環)「水の館」停留所が位置しているが、阪東バスは土休日日中のみ1本/h、アイバスは平日のみ1日5本と、いずれも本数は少ない。特にアイバスは天王台駅周辺のコミュニティバスとしての性格が強く、交通系ICカードにも対応していないことから、一見の観光客には取っ付きにくい。また、コロナ禍による需要減退から、阪東バス鳥の博物館線は2021年9月から運休となっており、土休日は市役所バス停からの徒歩のみとなっている。
それにしても、阪東バスは我孫子駅・天王台駅両方から乗れるがアイバスは天王台駅からしか乗れない、阪東バスとアイバスで停留所名が違う、我孫子駅行きが2種類ある、どれも運行間隔が不揃いなど、わかりにくい面が多い。市役所バス停への本数が多いのだけが救いだが、これも若松経由と第一小学校経由が同時〜3分差程度で続行したりすることも多く(所要時間に大差はない)、市役所バス停では我孫子駅行き同士で乗り場が違うため「来たバスに乗る」ことができない(交通量が多いため、特に遅延時はバスを見つけてから道路を渡って乗り場を移動するのは至難の業)など、不便な点がやはり多い。
4.「あびこ手賀沼駅」の設置を考える 4-1.「あびこ手賀沼駅」のロケーション
そこで、これらの課題を一挙に解決すべく提案したいのが、JR成田線「あびこ手賀沼駅」の新設である。新駅候補地は我孫子市役所の北側、国道356号(利根水郷ライン)と県道8号(船取県道)の交点、並塚交差点(ならびづか─)付近。ここは地平の成田線を県道8号が陸橋で跨ぎ越すところで、踏切渋滞などの心配はない。
新駅候補地周辺には我孫子市役所(南600m、徒歩8分)、鳥の博物館・水の館(南950m、徒歩12分)の他、我孫子東邦病院(南200m)、名戸ヶ谷あびこ病院(南400m)、県立我孫子高校(南700m)など、需要源となる施設が多数立地しており、新駅の需要としては申し分ない(だからこそ阪東バスの本数が多い)。市役所・手賀沼・鳥の博物館方面へは県道8号沿いに広い並木道が整備されており、歩行環境も(現状の)公園坂通りよりもよほど良い。手賀沼に向かって下り坂となるが、その分歩いて行くと徐々に湖面が見えるようになってくるのも気分が良い。
阪東バス「並塚」バス停も近く、先述の若松経由・第一小学校経由双方とも経由する。新駅開設後は、位置はそのままで「あびこ手賀沼駅前」に改称してもらえばよいだろう。
4-2.「あびこ手賀沼駅」の設計
ホーム設置場所をもう少し考えてみよう。候補地は我孫子駅1.6km、東我孫子駅1.8kmとほぼ中間地点。船取県道直下は北側に向かって傾斜地となっている。このため、陸橋への取り付け勾配は、南側からは緩勾配なのに対し、北側からは7%とややきつい勾配になっている。このため、線路は斜面の途中に段をつけ、中腹の等高線に沿うような形で通っている。現状は緩勾配の盛土であり、擁壁などではないことから、盛土がそのまま斜面になっているのみだ。つまり、この盛土斜面がそのまま未利用地となっているためにホーム設置の用地確保は容易で、かつ陸橋から直接スロープか階段を渡せば駅北側へのアプローチも容易と、駅設置にはおあつらえ向きの立地なのだ。
なぜこのような土地が余っていたかといえば、おそらく複線化用地だろう。成田線は本数が少ないために「成田線複線化促進期成会」が1979年、「成田線複線化委員会」が1996年から陳情などの活動を続けており、1998年には成田線100周年を記念して愛称を公募、「水空ライン」を発表するなどの動きがあるものの、複線化どころか増発にもなかなか結びついていない(ただし近年は成田線我孫子折り返しが常磐線上野、または上野東京ライン直通品川発着に延長される傾向にあり、地元でも一定の評価を得ている様子)。我孫子市内でも、我孫子駅東方の常磐線を跨ぐ鉄橋が複線対応で建設されているほか、東我孫子─湖北間、新木─布佐間など、点々と複線化用地が確保されており、多くは防草シートに覆われた土地が持て余されている。ここの線路脇の土地も防草シートに覆われたもので、一部盛土の斜面ではあるものの、複線化用地の可能性は高い。
もっとも、成田線は単線ではあるが全駅に交換設備が設置されているためにダイヤ設定の自由度は比較的高く、全列車普通列車なのでダイヤも単純だ。日中こそ30分間隔だが、現状でもピーク時は15分間隔程度で運行できているので、複線化の必要性は薄い。今後も複線化用地が活用されることはないだろうし、ここの複線化用地を新駅用地に転用しても、問題はないだろう。
ホームは成田線の10両編成が停車可能な延長210m、1面1線、無人駅、駅舎なしと、最低限の設備でよい。隣の東我孫子駅がほぼ同等の設備で運用できているので、自動改札機も置かず、簡易Suica改札機のみで十分だろう。
ホームの位置としては、陸橋の直下に中心を置き、陸橋の歩道へ階段を掛け(こちらがメインルート)、バリアフリールートとして東我孫子方の踏切脇に出られるスロープを設ければ、エレベーターなどの高額な設備も必要なくなる。両隣の我孫子・東我孫子で行き違い可能なため、交換設備も必要ない。運賃も当初の小田栄駅と同じく、隣の東我孫子駅と同一駅扱いで良いだろう。こうすることで、システム改修にかかる費用を削減することができる(この扱いとすると、東我孫子~あびこ手賀沼の1駅利用の場合はICカード利用ができなくなるが、そもそも東我孫子駅自体の利用が多くないので、そのようなケースはあまりないだろう)。
加えて、この程度の設備であれば、民地を買収する必要もない。設置目的としては我孫子市役所・手賀沼・鳥の博物館方面への徒歩アクセスの改善が主であるため、駅までクルマで乗り付けるための一般車乗降場や、バスターミナル等は必要ないと想定される(バス乗り場は既存の並塚バス停をそのまま流用すれば足りる)。それら機能は引き続き、幹線で本数が多く、ロータリーなどの受け入れ態勢が整っている我孫子駅・天王台駅が担うべきだからだ。また、近隣には住宅が多いため自転車置き場の必要性も高いと思われるが、自転車置き場程度であれば、東我孫子方の踏切を挟んだ先に複線化用地がまだ続いているため、こちらに十分設置可能だ。
ただし、駅前広場を確保しようとすると、民地の買収は避けて通れなくなる。交差点周辺にはセブンイレブン我孫子寿2丁目店、民家1軒を挟んですき家我孫子寿店、国道を挟んで我孫子市消防本部などが立地している。特にセブンイレブンは交差点の角かつ陸橋からすぐの位置にあり、面積も概ね1,000㎡と、北柏駅北口ロータリーと同程度になり、駅前広場としてはうってつけのように見える。成田線との間には民家1軒を挟むが、広場とホームの間に陸橋を介しても問題は少ないだろう。
4-3.「あびこ手賀沼駅」設置で期待できる効果
- ①主要施設へのアクセス改善
これはロケーションの頁でも述べたとおりだ。新駅周辺の徒歩圏内に集客施設が集積している割に、既存の我孫子・天王台・東我孫子いずれも1.5km以上離れており、アクセスを阪東バスに頼っている。また、その阪東バスにしても、周辺の渋滞に阻まれて定時運行ができないことも多い。
- ②手賀沼回遊観光ルートの形成
現状、手賀沼周辺を散策、観光しようとしても、土休日日中のみ1本/hの阪東バス【9】鳥の博物館線(我孫子駅~天王台駅)を利用しない限り、我孫子駅から同じ道を行って戻るしかなく、回遊性が悪い。ここに新駅を設置することで、[我孫子駅]↔[手賀沼公園]↔[鳥の博物館/水の館]↔[あびこ手賀沼駅]という、一本の人の流れを創出することができる。駅から歩いて完結する観光ルートというと、吉祥寺駅~井の頭恩賜公園のようになり、週末のお出かけにはぴったりだ。歩いて我孫子を巡る観光客が増加することで、手賀沼に限らず、白樺文学館や杉村楚人冠記念館、また手賀沼周辺に点在する喫茶・カフェなどへの来訪者も増えよう。
- ③成田線の利用促進
期成同盟会が長年活動しても増発が実らないのは、増発するほど需要が無いと見做されているからだ。そこで、新駅を設置して需要を創出することで、減少傾向にある乗客数の増加を図り、成田線の活性化を目指すべきではないだろうか。新駅周辺は、南側は病院・市役所などの公共施設、北側は住宅地であり開発の余地はあまり無いが、駅から離れたエリアに新駅を設置することで、再開発を誘導することはできる。また、船取県道に面してはいるが用地が少ないのでパークアンドライド等には向かないが、手賀大橋を渡る阪東バス【42】手賀の杜ニュータウン線との結節(渋滞の恐れがある我孫子駅乗り換えでなく、定時性を高められる新駅での乗り換え)なども想定され、特に湖北・成田方面へは大きく時間短縮になる。小さな駅であったとしても、ポテンシャルはかなり高いと言えるのではないか。
新駅を成田線に造る理由は、需要創出による成田線の利用促進を狙うというのもあるし、単純に手賀沼や鳥の博物館・水の館に近いというのもある。常磐線側に造ってしまうと、成田線より利便性は高くとも、手賀沼やその周辺の活性化に繋がらない上、幹線故に建設費がかなり嵩んでしまうだろう。
- ④ 手賀沼ふれあいラインの渋滞緩和・駅ロータリーの混雑緩和
手賀沼北岸の「手賀沼ふれあいライン」は、当初国道356号(利根水郷ライン)のバイパスとしての役割も期待されたものの、国道356号と違い(片側一車線ながら)直線的で整った新道であったため、我孫子市生涯学習センター(アビスタ)などの公共施設ばかりでなく、ロードサイド店舗の出店が相次いだ。手賀沼公園から若松交差点(手賀大橋北詰、我孫子市役所付近)の僅か1.2kmの間に、サンドラッグ、ダイソー、松屋、ウエルシア、はま寿司、AOKI、ケーズデンキ、フードスクエアカスミ(ファッションセンターしまむら)、ココスなどが密集し、これらロードサイド店舗に出入りするクルマが、本線の流れを淀ませ、渋滞の原因になっている。また、周辺に駅が無いために、周辺の住宅地から我孫子駅や天王台駅へのマイカー送迎が多く、駅のロータリーは一般車で混雑することも多い。このため、特に平日夕方の手賀沼ふれあいラインは、我孫子駅や天王台駅へのマイカー送迎と、ロードサイド店舗への買物客のクルマが入り乱れて混沌とした状況になっており、若松経由のバスも定時性を欠く。新駅設置でマイカー送迎が減少すれば、手賀沼ふれあいラインの渋滞緩和ならびに我孫子・天王台駅ロータリーの混雑緩和が十分に見込める。
▲手賀大橋から見た若松交差点。交通量はかなり多く、渋滞している様子が窺える。
- ⑤新駅名の浸透による我孫子市および手賀沼の知名度向上
千代田線に「我孫子行き」が多数設定されているおかげで、常磐線沿線以外でも案外と読み方だけは知られているが、それでも難読地名であることに変わりはなく、読み方そのものを知らないと読みようがない。また手賀沼にしても、霞ヶ浦のように地理で扱われるような大湖沼というわけでもないので、やはり地元以外への知名度は低い。そのため、東京都心から最も近い天然の湖沼であり、かつて文士たちを惹きつけた素晴らしい景観であるにも関わらず、行楽地として認識されているとは言い難い。
そこで、新駅の名は「読みやすく」「我孫子市および手賀沼のPRにつながる」名であることが求められよう。例えば、我孫子市役所前、手賀大橋、中我孫子、新我孫子(これは天王台駅の仮称だった)といったような、安直な名では効果が薄れてしまう。また、単に「手賀沼駅」としてしまうと、今度は手賀沼の南岸・西岸に位置する柏市への配慮に欠ける上、手賀沼と我孫子駅・我孫子市との関連性がわかりにくくなってしまう。
そこで提案したいのが「あびこ手賀沼駅」だ。JRの路線図や、一般の地図に「あびこ手賀沼」の文字を登場させ、「我孫子」駅の隣にひらがな「あびこ」の駅があることで「我孫子」を類推で読みやすくさせ(大阪メトロ御堂筋線にも我孫子駅があるが、こちらは『あびこ駅』とひらがなで案内されている)、かつ「手賀沼」を冠することで、手賀沼の玄関口であることをPRできる名ではないだろうか。また、「我孫子市内に位置する手賀沼に近い駅」の意とすることで、柏市への配慮にもなる。成田線は常磐線ばかりでなく、上野東京ラインへ乗り入れ、東京・新橋・品川へ直通する列車も設定されている。停車駅の案内や路線図、放送など、これら都心3駅で「あびこ手賀沼」の名が案内される宣伝効果も見込めるだろう。単なる「千代田線の終点」以上のPRに繋がるはずだ。
4-4.「あびこ手賀沼駅」・成田線と阪東バスの役割分担
さて、これまで良いことづくめのようなことを述べてきたが、新駅開業でマイナスの影響を被りかねないのが、阪東バス(阪東自動車株式会社)である。
阪東バスは、本稿にたびたび登場する【8】車庫我孫子線:我孫子駅─東我孫子車庫(若松経由)の終点、東我孫子車庫に隣接して本社を構え、我孫子市内一円および柏市の一部に路線網を張る、我孫子市にとって無くてはならない交通機関である。この阪東バスの路線網の中で、最大の本数となっているのが、我孫子駅~市役所(【8】車庫我孫子線:我孫子駅─東我孫子車庫(若松経由)・【42】手賀の杜ニュータウン線:我孫子駅―手賀の杜ニュータウン(第一小学校経由)の2ルート合計)である。仮に新駅が開業すれば、阪東バスの乗客は恐らく減少するだろう。
しかしながら、阪東バスの路線網は「成田線の本数の少なさ」に乗じている面が大きい。例えば、阪東バスのうち、単一ルートで最も本数が多いのは、【16】車庫湖北線:東我孫子車庫―天王台駅―湖北駅南口など常磐線天王台駅と成田線湖北駅を結ぶルートであり、日中でも8~15分間隔(4~7本/h)と、ざっと成田線の2~3倍の本数である。湖北駅周辺にはUR湖北台団地が広がっており、団地内をきめ細かく回ってから、常磐線快速停車駅である天王台駅に直行する経路であり、30分間隔の成田線よりも利便性が高い。【8】車庫我孫子線:我孫子駅―東我孫子車庫の本数が多い(4~5本/h)のも、市役所その他の需要が高いことに加え、成田線東我孫子駅の本数の少なさに助けられている面があるだろう。
ただ、こうした鉄道並行系統に力点が置かれているせいで、それ以外の系統にしわ寄せがいっているのに加え、その鉄道並行系統も運行間隔が不揃いで使いにくいといった点は見過ごせない。例えば、先ほどから何度も登場する【42】手賀の杜ニュータウン線:我孫子駅―手賀の杜ニュータウン(第一小学校経由)にしても、日中は概ね3本/hながらきっちり20分間隔ではなく、日中14~25分間隔とかなりバラつきがある。25分も開いてしまうと、感覚としては30分間隔に近くなってくる。加えて、常磐線快速は特急も混在するだけに日中8~14分間隔とやはりバラつきがあるものの、千代田線直通の各駅停車はきっちり10分間隔なので、我孫子~柏など短距離の利用であれば、各駅停車の方が向いている。その各駅停車へ我孫子駅で乗り継ごうにも、間隔が一定でないのは利用しにくい。
このため、新駅開業に合わせて多少の本数減を行いつつ、利便性を損なわない工夫をすれば、成田線と阪東バスは共存共栄が図れるのではないだろうか。例えば、【8】車庫我孫子線:我孫子駅―東我孫子車庫(若松経由)と、【42】手賀の杜ニュータウン線:我孫子駅―手賀の杜ニュータウン(第一小学校経由)は各20分間隔(3本/h)とし、我孫子駅を10分毎に発車するように再編する、といった具合だ。現状、常磐線各駅停車の我孫子駅着は09・19・29・39・49・59分、快速電車は07・16(成田行)・27・42・46(成田行接続)・59分なので、02・22・45分を【8】東我孫子車庫行き、12・32・52分を【42】手賀の杜ニュータウン行きのように振り分ければ、我孫子駅~市役所間の10分間隔を維持しつつ、新駅と被る面が多い【8】の合理化が図れるだろう。近年はバス運転手の慢性的不足に加えてコロナ禍が追い打ちをかけるなど、路線バスを巡る環境は厳しさを増しており、電車とバスの役割分担による協調が求められる状況になりつつある。これまで電車・バスは競合の面が強かった我孫子市内においても、今後は協調が強く意識されるべきだろう。
4-5.「あびこ手賀沼駅」設置のコスト
最後に、新駅設置にかかるコストを見てみたいと思う。先例となるのは、JR東日本の「戦略的新駅」として設置された南武支線「小田栄駅」(川崎市)、および両毛線「あしかがフラワーパーク駅」(栃木県足利市)である。
まず、南武支線小田栄駅は、人口が急増していたにも関わらず駅が離れていた(川崎新町駅0.7km、浜川崎駅1.4km)ところへ、2016年に開業。民地の買収を殆ど要さない形で行われたため、設置コストは約5.5億円(JRと市が折半)と、通常(約20億円)に比べてかなり圧縮できたという(神奈川新聞)。複線の線路に対し踏切を挟む形で上下ホームが全く別個に設けられる構造(変則相対式2面2線)とし、上下ホームを繋ぐ跨線橋や、付随するエレベーターなどを設けていないのが大きい。地平からスロープで上がるだけなので、バリアフリー化も自然と達成できている。「あびこ手賀沼駅」のイメージは、小田栄駅が最も近いものだ。
次に、両毛線あしかがフラワーパーク駅は、観光シーズン(特に”足利大藤まつり”期間中)の道路混雑を緩和し、かつ隣の富田駅からパークへ徒歩13分(0.9km)であったところを徒歩1分とするPR効果を狙って、2018年に開業。8.19億円の整備費(駅本体のみ、広場や駐車場を含めると約15億円)は、足利市3.96億、JR3.23億円、県1億円と分担している(下野新聞)。ただ、あしかがフラワーパーク駅は著名観光地へのアクセス改善という目的が大きいため、単線1面1線ではあるものの、多くの観光客を捌くために有人駅かつ施設が大柄であり、周辺の住宅地への利用などはあまり考慮されていない(駅と反対側の北側へは西側300mほどの踏切まで迂回しなければならない)などの事情が異なる。
あびこ手賀沼駅は小田栄駅並みの低コスト設備で十分であり、また小田栄駅と違って1面1線なのでホームも1本少なくて済む。ただし、陸橋に階段を掛けること、長い10両編成に対応する必要があること、盛土に位置するために土木工事を若干要することを考慮すると、小田栄駅以上、あしかがフラワーパーク駅以下程度の建設費がかかると推測されよう。
我孫子市にとって、6~8億円がどれほどの規模になるかは予算などから想像するしかないが、例えばJR我孫子駅のエレベーター設置には5.6億円の予算が付けられている(我孫子市HP)。また、過去には成田線新木駅の橋上駅舎化(2014~2017年)が15.3億円(うち3億円が国庫補助:千葉日報)で行われている。こうした例はいずれも既存設備の改修・改良であり、新規整備に際してどれほどのハードルがあるかは未知数だが、先に示したような改善効果が、新木駅橋上駅舎化よりも低い程度の費用で実現できるのであれば、決して過大な投資とは言えないのではないかと考える。
5.「あびこ手賀沼駅」で叶う「手賀沼のほとり心輝くまち~人・鳥・文化のハーモニー~」
「ボートや探鳥も楽しめる都心から一番近い天然湖沼」とは、我孫子駅に掲げられている観光案内版で手賀沼を紹介するフレーズであるが、手賀沼をもっとも端的に表現した秀逸なフレーズだと思う。手賀沼公園からの水辺へ沈みゆく夕陽の眺めは、湖面に戯れるオオバンやカモ、ハクチョウの優美な姿と相俟って、我孫子が東京から1時間足らずのベッドタウンであることを忘れさせてくれるものだ。
しかしながら、その手賀沼の豊かさは一般に知られていないし、その知名度の無さは、我孫子市の今後に影を落としかねない。「東京に近い」だけで住民が増加し続けた時代はとうに終わっているし、柏市などとの合併をやめ、単独市制を継続していくことを選んだからには、我孫子市ならではの生存戦略が求められる。それに際し、最も有用となる資源は、市のキャッチフレーズにもある通り「手賀沼」「鳥」「文化」であることに疑いはない。それらを最も効果的に市外へPRし、かつ将来の市民獲得へ繋げていく方策として、「あびこ手賀沼駅」の設置が最良なのではないかと考える。
まずは一度、アーバンリゾートとしての手賀沼に来てもらい、手賀沼の美しい景観と、それに魅了された文人たちが築いた豊かな文化、そして東京都心からほど近い利便性とを両立した、我孫子という街を一人でも多くの方に知ってもらうことだ。近年、手賀沼のほとりには、その美しい景観を活かしたカフェ等が増えてきており、手賀沼一周ランなどを楽しむ人々の姿も見られるようになってきた。そこに、かつての水質汚濁ワーストワンに泣いた、哀れな沼の姿はどこにもない。
その輝きを取り戻した手賀沼をさらに活かし、これからの街づくりにつなげていく方策として、小さいけれども大きく「あびこ手賀沼」の名を冠した新駅の誕生は、必ずやプラスに働くはずだ。我孫子は単なる東京のベッドタウン以上の存在たりうる資源は豊富に持っているし、「レイクサイド・アーバンリゾート”我孫子”」として街を位置づけることもやぶさかでない。ひとつの小さな新駅の誕生が、これからの我孫子を創っていくといっても過言ではないだろう。
(以上)
※作図は筆者にて作成。鉄道アイコンのみ「駅旅・ゆけむり研究室」より引用 http://www.trainfrontview.net/f-sozai.htm
※航空写真およびホーム設置イメージはGoogle Map・Google streatviewより引用・加筆。