関東

【茨城】「関鉄レールメイト」が育む縁──関東鉄道常総線(3) #42

「まもなく、15:48発、守谷行きが到着します。ご利用のお客様は、ホームでお待ちください」

待合室に集う乗客に、制服姿のお姉さんが声をかけて回っている。しか彼女たちは駅員でもなく、関東鉄道の職員でもなく「関鉄レールメイト」の皆さん。彼女たちはローカルアイドルのような、ファンクラブ代表のような、不思議な存在。だけれども、元々は地域のために立ち上がった、普通の女の子たちなのだ。


賑わいを生む木造駅舎…騰波ノ江駅

15:06、下館発。関東鉄道常総線普通取手行き。

日曜午後の取手行きは、下館を乗客10名ほどで出発。買い物袋を提げた人もいて、衰退しているとはいえ、まだまだ下館市街地での買い物需要がある証左だ。車両は最新型のキハ5010形で、車内は気持ちいいほどピカピカだ。

この時間帯は快速の運転はなく、9:15発が出た後は17:26までない。夕方の上り快速はこの17:26発1本のみ。この快速はJR水戸線・真岡鐡道真岡もおかてつどうもおか線との接続が悪く、接続のメインとなる水戸線(上り小山行き・下り友部行きとも17:31)を受ける常総線は快速の12分後、17:38の守谷行き。ただ、水戸線から常総線への乗り継ぎは下館からさほど遠くない各駅へがメインと思われ、そうであれば快速よりも普通の方が接続相手としては適していよう。そのため、夕方に1本のみ走るこの快速は、東京方面からやってきた常総線沿線への用務客を、再びTXへスムーズにリレーするのに徹し、下館の接続は無視してしまっているのだろう。この快速守谷行きは、守谷でTX上り快速秋葉原行きに9分で接続し、下館─秋葉原をちょうど90分で結んでいる。

下館市街地は北口がメインであり、常総線が通る南側への広がりはあまりない。そのため、下館を出るとほどなく田園地帯となり、次の大田郷おおたごうまで3.8kmにわたり駅がない。その大田郷で早くも買い物帰りの3名を降ろし、入れ替わりに高校生が何人か乗り込んできた。大田郷駅近くに下館工業高があり、その生徒だろう。取材日は日曜日で授業はないが、部活帰りだろうか。

大田郷からは、西側の旧関城町せきじょうまち方面へ向かう鬼怒川線が1964年まで分岐していたはずだが、痕跡は分からなかった。鬼怒川線が向かっていた常総関本駅(旧真壁まかべ郡関城町、現筑西市)方面へは今や路線バスすらなく、地元病院の送迎バスが僅かに走るだけという、公共交通機関空白地帯となってしまった。かつての町の中心へ向かう公共交通機関が全くないという事態に、茨城県の猛烈なクルマ社会ぶりが透けて見える。

次の黒子くろごは、日中の普通30分間隔運転の際の交換駅となっており、パターンに従って普通下館行きと交換。各駅とも細かい乗り降りがあり、下館から降りる一辺倒というわけでも、或いは東京方面へ向けて乗る一辺倒というわけでもない。バスが殆ど消滅したこの地域において、30分間隔でコンスタントに普通がやってくる常総線は、クルマに頼れない乗客にとっては貴重な交通手段だ。寧ろ、茨城県西部の幹線であり、下館駅では常総線の6倍の乗降客数があるJR水戸線は日中1時間1本と、常総線の半分の本数しかない。常総線は利用者数の割に本数を多く設定している、乗客本位のダイヤだと言えよう。

途中下車したのは下館から3つ目の騰波ノ江とばのえ。快速も止まらず、一日乗降客数79人(2017年)という小さな駅。しかし、この小さな駅がにわかに注目を集めている。

田園地帯に佇む木造駅舎、という絵に描いたようなロケーションの騰波ノ江駅は、2008年まで1926年開業当時の木造駅舎が残り、その雰囲気から度々メディアに登場していた。2008年に旧駅舎の雰囲気を損なわないようなデザインの木造駅舎として改築され、今までと変わらず撮影に使われているほか、毎月第3土・日曜日には「とばのえステーションギャラリー」として、駅舎内部が一般公開されている。その「とばのえステーションギャラリー」の主役こそが、関鉄レールメイトの皆さんというわけだ。

ステーションギャラリーのメインイベントは、昔の駅務室の中で催されている鉄道模型の運転会。常総線ゆかりの気動車たちに加え、守谷で接続するTXの車両や、もと関東鉄道の一員だった旧鹿島鉄道KR500形など、周辺を走る車両もゲスト出演。取手・守谷・下館など、主要駅が再現されたジオラマの中を、精巧な鉄道模型が走行していた。

さらには、かつて関鉄の手によって運行されていた旧筑波鉄道筑波線代替バスの真壁駅停留所(現在は土浦駅─筑波山口に短縮、筑波山口─真壁─岩瀬駅は桜川市バス「ヤマザクラGO」に代替)のポール、かつて黒子駅で使用されていた旧型券売機など、関鉄の歴史を感じさせる品々も(やや無造作に)展示。特に券売機は、ゆめみ野どころか西取手と新守谷がなく、西取手開業の1979年以前のもので間違いない。かなりの年代物だ。

駅舎内には昔のままの出札窓口や待合室が設けられているが、基本的に無人駅である現在の騰波ノ江駅では営業上使用されることはなく、専ら撮影・イベント用となっているようだ。出札窓口では、子供用の制服を用いて駅員さん体験もできるんだとか。

そしてもう一つの目玉は、貨物側線を再整備した軌道自転車「とばのえ支線」。営業キロ0.07km(70m)と僅かながら、かつて現役だった線路を軌道自転車で走ることができる。訪問当時は「とばのえ支線」で遊んでいる子供はいなかったが、きっと子供には人気が出ることだろう。

「すぐ草が伸びてしまうので、月に一回はこうしてイベントを開いて使っていかないと…草刈り、結構大変なんですよね」と、スタッフの方。とばのえステーションギャラリーの管理運営をはじめ、主体となっているのは関鉄OBやファンで組織される、関鉄レールファンCLUBの方たち。関鉄レールファンCLUBのメンバーは何も関鉄沿線だけでなく、東京・神奈川方面にも多くいるそうで、沿線民にとどまらない層の厚さが特徴なんだそう。確かに、月に一度とはいえ、こうして茨城の片田舎に集まってイベントを開くには、多くの人手が必要になる。それを関鉄レールファンCLUBのメンバーだけでまかなっているのだから、その熱心な活動ぶりが窺えよう。

そして、「関鉄レールメイト」も関鉄レールファンCLUBと深くかかわりを持つ。2018年度下期で5年目(5期目)となるそうだが、毎年3人が選ばれ、それぞれ常総線南部(南線)、常総線北部(北線)、竜ヶ崎線の広告塔となり、それにちなんだセカンドネームが付けられる(=本名では活動しない)。そして驚くことに茨城県公共交通活性化会議の地域助成事業にも認定されており、県から助成を受ける、れっきとした「事業」なのだそう。クルマ社会の真っただ中であっても、関鉄は地域を支える幹であるからこそ、こうした活動が支えられているのだろう。

「まもなく、15:48発、守谷行きが到着します。ご利用のお客様は、ホームでお待ちください」

レールメイトが声をかけて回る。待合室の鉄道模型を眺めたり、貴重な収蔵品を見学したりしていると、列車一本分、30分はあっという間だ。

「ブログ、SNS、なんでもオッケーです。どんどん宣伝してくださいね」

「あっ、レールメイト号が来ましたよ!月に一回、ステーションギャラリーが開く日に、私たちのヘッドマークを付けた列車が1本だけ走るんですよ。一緒に写す?もちろんオッケーですよ!」

地域のために頑張るレールメイトの姿は、どこまでも溌溂としていた。

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「静かな重要文化財…大宝駅」

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