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【千葉】”かつてここは、豊饒の海だった”東京ディズニーリゾート開発前史:浦安物語──東京メトロ東西線・JR京葉線 #80

千葉県浦安市。東京都に隣接し、東京駅まで電車で15分の距離にある、典型的な東京のベッドタウンである。しかし、それだけでは浦安を語るには不足しすぎる。

▲整然とした街並みが広がる浦安市・新町地区。ここはかつて、豊かな漁業資源に恵まれた、豊饒の海だった

現代の浦安を象徴するものといえば、一にも二にも「東京ディズニーリゾート(TDR)」であることに疑う余地はない。浦安は「ディズニーの街」であり、それが都市のブランド力となり、ひいては街づくりの原動力としてきた。

▲東京ディズニーリゾートの玄関口、JR京葉線・舞浜駅。浦安のイメージといえば、この駅前という人も多いだろう

しかし、ディズニーがやってきたからといって、浦安市が自動的に今日のような発展を遂げられたとは思わない。東京ディズニーランド(TDL)が開園したのは1983年であり、それ以前の浦安は、お世辞にも明るい街とは言えず、どちらかと言えば暗い話題の方が多かった。そんな街を日本一豊かな地域に育てていったのは、ひとえに地元の方々の努力あってのことだ。

▲50年前の浦安を再現した一角。「ディズニーの街」など、影形すらない時代である

豊饒ほうじょうの海”を失ったかつての漁師町が、どのようにして”ディズニーの街”へ、そして”日本一豊かな街”へなっていったのか。その過程を知ることで、街づくりへの確かなヒントを得られるのではないだろうか。

我が国屈指の”金持ち市”浦安

浦安市は、人口17万人にして、財政力指数(税収÷歳出)1.52という、我が国でも屈指の金持ち自治体の一つである。

▲浦安市役所。2016年に竣工したばかりの庁舎は、一言でいえば”重厚感がある”

財政力指数が1.0を上回っていれば、地方交付税交付金に頼らずとも税収のみで財政支出を賄えている状態となるが、税収が財政支出の1.5倍以上ということになる。ちなみに、浦安市の1.52以上を記録する自治体は、以下の7自治体しかない(出典:総務省 平成29年度地方公共団体の主要財政指標一覧 http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/H28_chiho_00001.html )。

  • 北海道古宇ふるう郡泊村(1.66)
  • 青森県上北郡六ケ所村(1.64)
  • 福島県双葉郡大熊町(1.70)
  • 長野県北佐久郡軽井沢町(1.53)
  • 愛知県みよし市(1.53)
  • 愛知県豊田市(1.52)
  • 愛知県海部あま郡飛島村(2.15)

いずれも、原子力関連の施設立地により電源三法交付金等の補助金が多額に入ってきたり(泊村、六ケ所村、大熊町)、観光地でありホテル等からの法人税が入ってきたり(軽井沢町)、製造業の大きな拠点が立地し多額の法人税が入ってきたり(みよし市、豊田市、飛島村)と、ユニークな自治体ばかりである。しかし、どれも基本的には経済がその自治体内で完結しているものばかり。愛知県内の3自治体が一応名古屋市との結びつきがあるものの、名古屋市への通勤率は10〜20%程度で、みよし市は豊田市への通勤率の方が高いくらいだ。

その中で、浦安市は東京23区への通勤・通学率が51.9%と抜きん出て高く、市民の半数以上が東京都内で就業ないし通学しているということになる。財政力指数ランキング上位の中で、これほど隣県と密接な繋がりを持つ市はない。つまり、市内に市民生活すべてを背負って立つような産業がなく、東京のベッドタウンとして浦安市に住まいを構えた市民が多いというわけ。財政力指数上位の自治体は基本的に経済が域内で完結している自治体が多いなか、浦安市は異色の存在と言えよう。

▲東京都総務局より( http://www.soumu.metro.tokyo.jp/05gyousei/arikata/1108.pdf ) 浦安市の特異な実態がわかる

その豊かな財政力の基盤となっているのは、もちろんTDRおよび関連するホテル群からもたらされる観光業であるのだが、浦安市には首都圏随一の鉄鋼業の集積地「鉄鋼団地」があるなど、観光・住宅に留まらない地域性を持っている。近年こそ重工業の海外シフトが進み、浦安鉄鋼団地も空き地が出始めるなどかつてほどの勢いはないが、それでも鉄鋼団地内の遊休地をTDRの運営元、オリエンタルランド(OLC)が取得し続けていたりと、新たな動きが出始めている。

▲浦安市鉄鋼通り。東京ディズニーリゾートのすぐ隣には、知られざる産業地帯が広がっている

ともかく、「ディズニーの街」だけでなく、様々な顔を持っているのも、浦安市という街の強さなのである。

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漁業の町から近代都市へ走る!!

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