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【栃木】【福島】期待を背負う特急リバティ会津──野岩鉄道会津鬼怒川線・会津鉄道会津線 #65

野岩鉄道の車掌さんの激務に思う

次の鬼怒川公園にはもはや温泉地の空気はなく、山間の静かな町といった風情。鬼怒川温泉唯一の公衆浴場である日光市営の「鬼怒川公園岩風呂」が隣接している。鉄道で鬼怒川温泉の立ち寄り入浴をするのであれば、鬼怒川温泉駅でなく鬼怒川公園駅へとなるため、要注意。ただ、こんな時間では入浴客などいるはずもなく、わずかに地元客が3名程度降りていっただけだった。

▲東武鉄道と野岩鉄道の境界となる新藤原駅で発車を待つ、かつての区間快速浅草行き。区間快速時代は下今市と並び分割併合が行われる駅でもあった

新藤原は東武鬼怒川線と野岩鉄道会津鬼怒川線の境界駅であるが、境界駅というだけで特段の市街地や観光地があるわけでもないため、殆ど車内に動きはなく、いち途中駅と大差ない。ただ、ここから先はPASMO等ICカードが使えなくなるため、「ICカードのお客様は現金精算が必要となります」という放送が繰り返し入った。8:44、新藤原発。1分停車で出発。

新藤原を出ると途端にスピードが上がる。自然の地形に沿って軌道線由来の急カーブが続く鬼怒川線に対し、1986年開通の野岩線はトンネルを多用して極力直線ルートを採る近代的な設計であるためだ。40km/h前後でノロノロと走っていた新藤原までと景色は変わらないのに、いきなり最高80km/hの運転が始まるものだから、その違いに面食らう。

新藤原を出てすぐトンネルへ突入しつつ、「お手持ちの乗車券を拝見します。これより先はICカードがご利用いただけませんので、東武線から引き続きご利用のお客様は、車掌より新藤原より先全区間の乗車券を現金にてお求めください」と放送が入り、すぐに検札が始まった。新藤原から次の龍王峡まではわずか3分。たった3両とはいえ全体で80名程度の乗客がいるため、まさにタイムアタックである。予想通り(?)3分の1程度はICカードであり、その都度車掌さんが乗客へ説明し、現金で新藤原から先への乗車券を発売していた。中には東武線との区別がつかない乗客もいて、手こずる場面もあった。そうとあっては3両のうち最も車掌室に近い最後尾1両の検札すら終わらず、僕が乗っていた2両目までは辿り着かなかった。

最初の駅、龍王峡ではトレッキングへ向かう中高年が20名程度降りていった。新藤原から1駅だが、鬼怒川温泉に次ぐ多さだった。検札が終わっていない1・2両目からも多くの乗客が降りていったが、1名しかいない駅員さんと、車掌室から駆け寄っていく車掌さんとで、改札口が大わらわになっていた。乗車券を持っていた乗客は車掌さんが対応したようだが、ICカード含めそうでない乗客の方が多く、改札口に行列ができていた。行列を横目に車掌さんが駆け足で車掌室へ戻り、扉を閉めて出発。

次の川治温泉までは4分。僕が乗る2両目にもようやく検札が来たが、1両目へ進んでいったきり車掌さんは戻って来ず、そのまま川治温泉へ着いてしまった。停車して10秒くらいそのままだったが、ようやく扉が開いたと思ったら「大変お待たせ致しました。川治温泉です」と、車掌さんの声ではないアナウンスが入った。検札が終わりきらず、車掌室へ車掌さんが戻れなかったことを運転士さんが察し、扉を開けたということなのだろう。車掌さんがホームに降りて数名の降車客から乗車券を回収していた。1面2線で列車交換ができる川治温泉では、上り快速AIZUマウントエクスプレス2号と交換するため2分停車。車掌さんがホームを走って車掌室へと戻るのが見えた。

野岩鉄道の車掌さんは斯様に激務である。通常の扉の開閉・安全監視、車内放送だけでなく、野岩線には無人駅も多いために切符を持たない乗客へ乗車券を発券する業務もあり、それに加えて東武線からICカードで直通してきてしまった乗客の対応にあたらなければならない。無人駅が多い上に、どの駅も乗降客数が数十名という状況では、終日にわたる駅員配置も難しい。こんな状況では車掌さんどころか検札要員を要してもおかしくなく、ワンマン化は困難だ。ICカードへの対応は車掌さんを余計に激務にしていて、見ていて気の毒になるほどだった。

野岩鉄道へICカードを導入するのは一つの解決策ではあるが、会津鉄道への直通客も多いなかでは、会津鉄道と同時に導入しなければ境目を移すだけになってしまうし、何より費用も高くなる。ここは、駅へ導入せずとも、ICカードを車内で決済できるよう、コンビニ等にもあるような、携帯用のICカード決済機を車掌さんに持たせるのが一番ではないかと思う。東武線の入場状態を維持したまま、野岩鉄道・会津鉄道分だけの運賃を収受するというわけ。こうすれば、表向きにはICカード非対応を貫きながら(野岩鉄道→東武線では乗車券の購入が必須になる)、東武線→野岩線のICカード対応ができるようになる。

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「山を越えて会津鉄道へ」

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