関西

【兵庫】ニュータウン開発に消えた渓谷をゆく鉄道──国鉄福知山線廃線跡(生瀬─武田尾) #36

サンドウィッチとベテランハイカー

廃線跡を暫く歩いたところに古枕木を積んだベンチが置いてあり、ここで「ルマン」のサンドウィッチを開くことにした。

タマゴ、野菜、カツ、ハム、そしてフルーツサンドが基本の詰め合わせ。これにハンバーグサンドを追加してみた。…文句なしにうまい。時間が経っても、味は濃すぎず、薄すぎず、野菜のシャキシャキ感もまだまだ残っている。そしてしっとりしたハンバーグがこれまたうまい。ドミグラスソースがいい具合にパンに染み込み、円熟味が増している。

「おっ、美味しそうですねぇ。羨ましい」

不意にハイカーのオッチャンに話しかけられた。彼はどうやら、武田尾駅から生瀬駅へと下っていくところのようだ。

「東京からですか…それはそれは。今回はこの廃線跡巡りで?へぇー、東京の方にも知られるようになっとるんですか。私が若い頃はまだ立入禁止で、それでも景色がいいから勝手に入っとって、ひっそり楽しんどったんですがねぇ…」

どうやらオッチャン、30年来の廃線跡ファンのようだ。彼にとっては、お散歩コースのようなものなのだろう。彼曰く「ひっそり楽しんどった」ところを、行政の手で遊歩道化され、だんだんと観光地になっていくのは、どう思っているのだろう。自分だけの園を荒らされたような気持ちなのか、或いは有名になっていって嬉しいのか。「ひっそり楽しんどった」という言葉からは、観光地化し始めた現状に対する複雑な思いを感じる。

「この先はトンネルが多いですから、明かりは持っといてください。枕木や石にも足を取られんように。先は長いですから、お気をつけて。ほな」

「ありがとうございました。お気をつけて」

オッチャンの背中が見えなくなる頃には、最後のフルーツサンドも食べ終わっていた。フルーツサンドなるものを初めて食べたが、案外パンとホイップクリームの相性っていいものなんだな。新発見。

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野を越え山越え、谷越えて

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