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【山梨】試される「道をゆく志」──富士急行線・富士急山梨バス河口湖─御殿場線 #47

富士急行線で富士山駅へ

改札口を抜けていく高校生に対し、こちらは富士急行線へ乗り換え、富士山駅へ向かう。次の富士急行線普通河口湖行きへの接続時間は4分と、跨線橋が渋滞しているなかではそこまで余裕はない。

JRと富士急行線の間には中間改札口があり、富士急の駅員さんがJRからの乗り換え客の波を捌く。ただ、自動改札の設置はなく、簡易ICカード改札と有人改札があるだけ。おまけに、「ICカードでお乗り換えの方はタッチせずそのままお通りください」と、しきりに案内をしている。これは、JR─富士急行線の直通列車もあることから、直通列車の乗客は当然大月でのタッチなしで大月を跨いでいくため、ここでタッチさせる意味がないからだろう。また、ただでさえ接続時間が短いのに、残額不足でチャージされていては、列車が遅れる原因となってしまうということもあるだろう。

JR大月までの乗車券しか持たない向きには精算所もあるのだが、接続時間が短いため、「きっぷをお待ちでないお客様は車内でご精算ください」とも案内されている。富士急行線はワンマン運転は実施されておらず、無人駅も介在することから、普通列車でも車掌が乗務している。そのため、車内精算でも十分対応できるのだ。

自分はPASMOだったので、中間改札を素通りしてそのままホームへ。追い立てられるようにして元JR205系の6000系3両編成に乗り、ほどなく出発。車内は3両編成のロングシートが埋まり、立客もいる。7:52発とあっては高校の始業には厳しく、ここまで来ると高校生の姿は殆ど見られない。富士急ハイランドへの若者か、富士五湖へトレッキングの中高年といった、観光客ばかりだ。もっとも、自分もその観光客のひとりなのだが。

7:52、大月発。富士急行線普通河口湖行き。

▲富士急ハイランドのいちエリア・トーマスランドをPRする「トーマスランド号」。かつて東京都心で通勤客を運んでいた元JR205系も、いまやすっかり観光列車の装いとなった(写真は富士山駅にて)

途中駅での乗客の入れ替わりはごく少なく、主要駅であるが特急は通過する都留市、谷村町で多少降車があるくらい。特急停車駅の都留文科大学前つるぶんかだいがくまえでは、学生の下車も見られた。

都留文科大学前は2004年開業の新駅で、開業と同時に特急停車駅の座も都留市から移り、乗降客数も都留市内で最も多い駅となったことで、名実ともに都留市の代表駅となった感がある。旧市街に位置し、クルマを留め置くスペースが限られる都留市・谷村町に対し、都留文科大学前は山梨県全域に展開する大型スーパー・オギノ都留店も隣接しており、駐車場も広い。加えて特急停車の利便性もあり、パークアンドライドの利用も多いだろう。言わば、クルマ社会に対応する形で市の代表駅を郊外の新駅に移したといえる。旧市街の古い駅が代表駅であり続け、クルマ社会に対応できていないところが多いなかで、都留市のこの柔軟な姿勢は評価できよう。

都留文科大学前を出るといよいよ勾配がきつくなってきて、普通河口湖行きはギリギリと音を立ててカーブを曲がり、勾配を稼いでいく。

富士吉田市街の外縁に位置する下吉田しもよしだでは下車だけでなく乗車もあり、富士吉田市街の足としても使われている様子がわかる。下吉田、月江寺げっこうじ、そして富士山(旧・富士吉田駅)の3駅が富士吉田市街を囲むように立地しているため、どの駅で降りても市街地へは近い。ただ、富士山から大月へ向かってほぼ一方的な下り勾配となっているため、標高は下吉田が一番低い。「北吉田」とか「吉田口」でなく「下吉田」なのも道理。実際、標高809mの富士山駅に対し、月江寺は776m、下吉田は753mと、このなかでいちばん下なのだ。

ちなみに始発の大月は359m、終着の河口湖は860m。26.6kmで実に500mを登っている計算になり、平均勾配は18.8‰(1.8%)となる。一般に20‰を超えると急勾配とされるなかで、路線全体の平均勾配が18.8‰にもおよぶ富士急行線は、平地の鉄道とは一線を画する山岳鉄道と言えるだろう。

そして8:37、富士山駅へ到着。富士山駅はかつて「富士吉田駅」を名乗り、その名の通り富士吉田市の代表駅として機能していたが、富士登山の玄関口であることをアピールすべく、2011年に改称。当初、富士山への玄関口は富士吉田ばかりでなく、御殿場や富士宮など他にもあるのに…と、釈然としない思いがあったが、いざ切符に「富士山→新宿」などと書かれると、否が応でも気分が上がるもの。富士吉田の名を捨ててでも改称した狙いは、このアピール効果にあるのだろう。

富士山駅で降りたのは全体の半分ほど、50名くらい。もう半分は富士急ハイランド・河口湖まで行くようだ。富士山駅は行き止まりのスイッチバック構造となっているため、河口湖行きは方向転換して出発していく。スイッチバックを挟むものの停車時間は僅か2分。大月方の区間列車と河口湖方の区間列車を接続させ、乗客に乗り換えさせるといったこともなく、富士山駅を挟む全列車が大月─河口湖の全線通し運転となっているあたりは好ましい。

ICカードには対応しているが、ここでもやはり自動改札はなく、列車到着の度に駅員さんが「舟」に立つ。殆どはICカード利用のようで、地方鉄道ながらも、さすがは観光客を多く迎える富士急行ならでは。これでもしICカード非対応だったら、たちまち出札口に精算の行列ができてしまうだろう。このストレスを感じさせないあたりは、観光地の評価にも関わってくるところ。

2011年の富士山駅への改称に合わせ、水戸岡鋭治みとおかえいじデザインの駅舎に改装された富士山駅。建物はそのままながら、モダンな印象に変わっているあたりはさすがだ。かつてはイトーヨーカドー富士吉田店が駅ビルのテナントに入っていたが2005年に撤退、現在は富士急直営の「Q-STAキュースタ」に転換し、盛業中である。

改札の傍らには出札窓口もあり、みどりの窓口に準じた機能を持つ。ここで明日・帰りの「快速山梨富士4号」の指定券を買い求め、新宿まで立ち通しということがないようにしておく。土産物や軽食も豊富に取り揃える駅のキヨスクで山日さんにち(山梨日日新聞)を買い求め、地域の情報を収集。こうしたキヨスクがキヨスクとして現役である駅も、コンビニや自販機への転換が進んできた現代では、珍しくなってきた。富士山駅は、現代風に装いは改まっても、地域の中心駅としての風格を保っている。

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山中湖で出会えた”道志行き”

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