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【山梨】試される「道をゆく志」──富士急行線・富士急山梨バス河口湖─御殿場線 #47

山中湖で出会えた”道志行き”

富士山駅のバスターミナルは、富士山駅改札口を出て左側に回り込んだところにある。「1番線」「5番線」といった、鉄道風の表現が面白い。全ての乗り場は屋根で繋がっており、雨に濡れることがないのは好ましい。

富士五湖エリアの路線バスがターミナルとするほか、東京・新宿行きを中心とした高速バスも乗り入れてくる。というか、富士山駅バスターミナルの主役は高速バスだ。空席状況が張り出されており、1時間に1本がコンスタントに出ている。ちょうど、8:59発の新宿行きの1号車から3号車までが一斉に到着し、長い列を飲み込んでいった。定員40人にしても、3号車まであれば100人以上乗ったことになる。鉄道であれば、2両分が満席になるくらいか。

ローカル路線バスのメインは、籠坂かごさか峠を越える御殿場駅行き(A-Line)と、御坂みさか峠を越える甲府駅行き。御殿場行きは30分間隔、甲府行きは概ね60分間隔。この日は土曜日のために富士山駅から道志小学校への直行はなく、1日2便しかない道志小学校行きに乗るには、まず御殿場行きに乗り、途中の山中湖旭日丘で乗り換えとなる。次の御殿場行きは9:00ちょうどであり、しばし待機。

1日4往復しかない9:00発の新富士駅行きが出て行き、立ち客を出して出発。富士吉田から東海道新幹線新富士駅へ…とはいまいち土地勘がわかないが、富士山北麓の本栖湖もとすこを経由して下部しもべ温泉に出て、そこから身延みのぶ線と並行して富士宮、新富士駅へ至るルートと聞いて納得。静岡・名古屋方面へは御殿場へ出るよりも早く、隠れた短絡ルートと言えるだろう。

同じ9:00発の御殿場行きは5分遅れで到着。この系統は河口湖駅始発で、既に多くの立客を乗せていた。この河口湖駅─富士山駅間は、間に富士急ハイランドやホテルなど、富士急グループの観光施設が多数立地するため、電車だけでなく路線バスも多くが経由していく。そのため、山中湖・御殿場方面へ向かうバスは河口湖駅を始発として富士山駅を経由し、反対に甲府・本栖湖方面へ向かうバスは富士山駅を始発として河口湖駅を経由するように設定されており、河口湖駅─富士山駅間からであれば、どちらの方向へ向かっても乗り換えなしとなるように配慮されている。

ある意味、多くのバスに加え、電車までもが河口湖駅─富士山駅間を重複運行していて効率が悪いのであるが、富士急グループはそれを承知で、富士山麓を回遊する観光客の便を図っている。この地域の交通を一手に担う、富士急グループならではの手厚い施策と言えるだろう。

多くの観光客で賑わう御殿場駅行きへ、中扉から乗車し、PASMOをタッチ。やはり5分遅れで出発した。

9:05、富士山駅発。富士急山梨バスA-Line御殿場駅行き。

駅を出るとすぐに「金鳥居かなどりい」があり、バスも鳥居をくぐって、富士山へ向かう坂道を登っていく。この鳥居は、言うまでもなく富士山自体を祀るためのものであり、富士山頂に至るまでの一の鳥居にあたる。この坂道に沿って市街地が形成されており、しばらくは富士吉田の市街地を走っていく。市街地区間らしく乗り降りともに見られ、富士吉田・御殿場をむすぶ幹線としての機能のみならず、富士吉田市街の足としての機能を併せ持っていることがわかる。

この御殿場駅行きは「忍野八海おしのはっかい経由」であり、忍野おしの村の中心部を経由する「内野経由」とは明確に区分されている。どちらも国道138号の本線からは外れた南都留郡忍野村を経由していくが、中には本線を直進し、短絡ルートを辿る「北富士駐屯地入口経由」もある。日中は「忍野八海経由」と「内野経由」が交互に運行され、合わせて30分間隔。「北富士駐屯地入口経由」は観光客がいなくなる早朝・夜間のみで、例の富士山駅─道志小学校直通便も短絡ルートを採るため、これに該当する。

富士山駅を出て25分ほどで「ファナック前」に至る。この忍野八海経由、名前に反して、その主たる目的は「ファナック経由」といってもいいだろう。ファナックとは富士通に端を発する産業用ロボットのトップメーカーのひとつで、社名は「Fuji Automatic NUmerical Control」の略である。「ファナック前」「ファナック東」の2つの停留所を持ち、広大なファナック本社・本社工場を経由してゆく。訪問当日は土曜日だったのでどこも静まり返っていたが、平日であればファナックへの用務客がここで乗り降りすることだろう。コーポレートカラーの黄色で彩られた各種施設が富士山麓の森の中に点在している様子は、ファナックを知らない観光客でも、一種独特の景観に映るようだ。

ファナックの森を過ぎると、目の前に水を湛えた山中湖の景色が広がる。

御殿場行きは山中湖の西から南にかけて湖岸を通る。この山中湖西岸から南岸にかけてが南都留郡山中湖村の中心部にあたり、山中湖村役場や大型スーパー・オギノ山中湖店もこの一帯に集積する。観光客の目は、滔々と水を湛えた山中湖に釘付けだ。

…しかし、僕は山中湖に見とれている場合ではなかった。この時点で定刻から10分以上遅れており、山中湖旭日丘バスターミナルで12分接続となる道志小学校行きに間に合うか、またも怪しくなってきたのだ。山中湖まで来て道志小学校行きに置いていかれたのでは、もはや打つ手なしになってしまう。となれば、取るべき行動はもはやひとつ。

「すみません、山中湖旭日丘で道志小学校行きに乗り継ぎたいんですが、接続は取ってもらえるのでしょうか」

「道志小学校行きですか…わかりました。少々お待ちください」

そう言うと、御殿場行きの乗務員さんは、無線で道志小学校行きの乗務員さんに連絡を取ってくれた。この乗り継ぎをする乗客は多くはないだろう。連絡を取ってもらって正解だった。やがて、道志小学校行きの乗務員さんから応答があった。

「こちら、道志行き。はいはい、待ちますよ。どうぞ」

なんともほんわかする応答だった。乗務員さんの人柄が知れるようだ。ともかく、これで一安心。最後の数分ではあったが、僕も山中湖の景色を楽しむことができた。

そして定刻9:38から遅れること10分、道志小学校行きが待ち受ける山中湖旭日丘バスターミナルへ到着。

「道志小学校行きは道路を渡って向こうです。乗り換えが終わるまで発車しませんから、走らなくても大丈夫ですよ。お気をつけて」

「ありがとうございます。助かりました」

御殿場行きはバスターミナルへ入らず、国道上のバス停に到着するため、丁寧な案内を添えてくれた。この気遣いがありがたい。

新宿を出て4時間弱。トラブルを乗り越えて、ようやく、ようやく、道志小学校行きに出会えた。

(つづく)

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