関東

【茨城】現代に生きるミニ鉄道──関東鉄道竜ヶ崎線 #43

玄関口は無人…佐貫駅

竜ヶ崎線の旅に出るべく、佐貫駅に降り立った。

▲龍ケ崎市街を向く佐貫駅東口。中心市街地とは距離があるため、龍ケ崎市唯一の常磐線駅ながら駅前は静かだ

佐貫駅は龍ケ崎市唯一の常磐線の駅であり、事実上の龍ケ崎市の中心駅。JR佐貫駅は約26,000人/日の乗降客数があり、竜ヶ崎駅(2,400人)の10倍以上に上る。そして、竜ヶ崎線は90%以上が佐貫―竜ヶ崎間の利用で、そのうち佐貫で常磐線に乗り継ぐ乗客が90%以上に上る。要は、龍ケ崎市民77,000人のうち、佐貫駅は利用しても、竜ヶ崎線や竜ヶ崎駅は利用しない、関係ないという市民が大多数に上るのである。

▲駅舎と屋根続きで結ばれるバスターミナル。竜ヶ崎ニュータウン行きは終日20分間隔運転と、竜ヶ崎線列車よりも本数が多い

龍ケ崎市の人口は今や半分以上が1970年代以降に開発された竜ヶ崎ニュータウンの住民であり、ニュータウン住民は佐貫駅からの関東鉄道バスでニュータウンの各地へアクセスするため、彼らにとって竜ヶ崎線は関係ない。また、竜ヶ崎駅徒歩20分程度の場所にある流通経済大学龍ケ崎キャンパスも、アクセスの主体は佐貫駅発着の大学直行バス(運賃340円)であり、ここでも竜ヶ崎線の出る幕はない。加えて、竜ヶ崎駅周辺の旧市街地は御多分に漏れずシャッター通りとなっており、かつては竜ヶ崎よりも先、稲敷いなしき江戸崎えどさき方面からも関東鉄道バスなどで買い物客を集客していた中心商店街は、見る影もなくなっている。

▲竜ヶ崎線のラッピング車両にも流通経済大学は描かれているのだが、竜ヶ崎線を利用して通学する学生は殆どいないだろう

こうして、竜ヶ崎線に関係しないニュータウン住民が増加したこと、大学生の利用を取り込めないこと、および中心市街地の衰退といった3つの要因が重なり、市民の中での竜ヶ崎線は地位が低下してしまっている。現在はギリギリ黒字で踏みとどまっているものの、営業係数は96(100円の収入を得るためにかかる経費。100を超えると赤字)と、危うい状況である。

中心市街地の竜ヶ崎駅でなく、市域外れの佐貫駅がもはや龍ケ崎市の中心となっているという現状は、2020年に「佐貫駅が龍ケ崎市駅へ改称する」ことが象徴していると言える。これは、常磐線沿線のなかで、唯一龍ケ崎市だけが市名を冠する駅が常磐線にない(取手市→取手駅、龍ケ崎市佐貫駅、牛久市→牛久駅、土浦市→土浦駅、石岡市→石岡駅…)ことで、常磐線沿線の中でも龍ケ崎市の知名度が低いことが理由という。

ただ、現状で竜ヶ崎線佐貫駅には改称の予定はなく、改称は常磐線駅のみとなるそう。これは、竜ヶ崎線佐貫駅まで一緒に改称してしまうと、下り列車は「龍ケ崎市発竜ヶ崎行き」、上り列車は「竜ヶ崎発龍ケ崎市行き」というようになってしまい、あまりに紛らわしくなってしまうためだろう。

▲龍ケ崎市駅への改称をPRする横断幕。だが駅前に高い建物はなく、とても市街中心部とは言えない

橋上駅舎の上に構えるJR佐貫駅東口を降りると、そこは龍ケ崎市の表玄関と言える場所。目の前には竜ヶ崎ニュータウンへのバスが集結するバスターミナルがあり、日中でも10~20分間隔でバスが走る。日中の常磐線は4本/hの運転だが、うち1本/hは後続の特別快速に追い抜かれるため、日暮里・上野・東京方面先着となるのは3本/hであり、常磐線の電車とはほぼ確実な接続が取られていると言える。対して、竜ヶ崎線の運転は2本/hであり、ニュータウンへ向かうバスよりも少ない。

▲龍ケ崎市の人口は佐貫駅から2〜3km離れた竜ヶ崎ニュータウンが中心であるため、駅前の景色は静かなものだ

竜ヶ崎線の佐貫駅は、JRの橋上駅舎を降り、駅前広場に面して建つホテルの裏手のような場所を回り込んだ先に、ひっそりと佇んでいた。駅舎は新しめのホテルと一体化しており、地方によくある「JRはきれいになっているが私鉄の方はうらぶれた木造駅舎…」というわけではないが、ホテルの軒先のような狭い通路を辿った先に、小さな窓口と券売機があるだけで、あまり明るい印象はない。もっとも、あまり立派な改札口を設けたところで、今度はそれに見合う利用者がおらず、閑散とした印象を与えるだけになるから、この程度で良いのかもしれない。

▲竜ヶ崎線乗り場が入居する駅ビル。ホテルや居酒屋は目立つが竜ヶ崎線の存在はここからだとほぼわからない
▲ホテルの軒先のような通路を辿ると改札口がある

「竜鉄コロッケ☆フリーきっぷ」を買い求めるべく窓口の前に立ったら、なんとカーテンが閉まっていた。驚くことに昼間は無人で、「竜鉄コロッケ☆フリーきっぷをお求めの方はそのままご乗車いただき、竜ヶ崎駅でお買い求めください」とある。

▲フリーきっぷをお求めの方は竜ヶ崎駅で…とある。戸惑う人も多いのだろう

先述したように、竜ヶ崎線の利用者は90%以上が佐貫─竜ヶ崎間の全線利用であり、車庫や営業所が所在する竜ヶ崎にさえ駅員を配置しておけば、佐貫の駅員はさほど必要ではないのだ。ただ、通勤通学時間帯は駅員が配置され、降車客のICカードや乗車券をチェックしている。日中はそこまで乗客がいないので、佐貫が無人でも対応できるというわけだ。佐貫─入地のみの利用者に対しては、佐貫に自動券売機も置いてあるし、無札客がいたとしても、入地での降車客は滅多にいないためかなり目立つことから、ワンマンの運転士が声をかければ十分対応できる。佐貫、入地、竜ヶ崎の3駅しかなく、かつ佐貫─竜ヶ崎の全線利用が90%以上という特殊な環境だからこそ、ここまで徹底した省力化が可能といえるだろう。

そういうわけで、乗車券を買うこともなく、整理券を取ることもなく、何も持たず竜ヶ崎線の改札口を抜ける。簡易ICカード改札機が立っているが、光っているだけで脇を通っても無反応。慣れていないと、ちょっと面食らう。

改札を素通りしてホームへ立つと、キハ2000形2002号「まいりゅう号」が待っていた。常総線のキハ2100形系列と瓜二つのデザインで、デビューは1997年と、キハ2100形の4年後。2001号と2002号の2両が在籍するうち、2002号は龍ケ崎市のキャラクター「まいりゅう」のラッピングトレインで、龍ケ崎市の名所をPRしている。訪問当日は日曜日で、日曜日はこの「まいりゅう号」の限定運用だ。

特筆すべき点としては、ホームの柱には一応細いタイプのものが取り付けられていたが、いわゆる駅名標が1枚もなかったこと。常磐線の駅がすぐ隣に隣接しており、そんなもの無くたってここが佐貫駅であることは自明なのだが、1枚もないというのは珍しい。

ホームの配置は常磐線と並行でなく若干ハの字になっており、開いていく部分は駐車場として活用されている。元は貨物ヤードだったのだろう。しかし、単純にヤード部分を駐車場に転用しただけで、地続きになった常磐線上りホームとは、相変わらずフェンスで隔てられているだけなのがもどかしい。連絡改札があれば、竜ヶ崎線→常磐線の乗り換えは1分もあればできるようになるのに、現状ではいったん駅前広場に出て、橋上駅舎の2階に上がってから改札を通り、また地平のホームに降りなければならないため、最低でも2~3分はかかる(標準接続時間は4分)。フェンスを撤去し、ICカード専用でもいいので改札を設けるべきだろう。有人改札へ用がある向きには、現行通り橋上駅舎の改札へと案内すればよい。

▲常磐線と竜ヶ崎線を隔てるフェンス。ここに簡易改札でもあれば乗り換えが非常に便利になるのだが

12:51に常磐線下り特別快速土浦行きが出ていくと、土浦行きからの乗り換え客が10名ほど竜ヶ崎線ホームへ移ってきた。日中帯に東京方面→竜ヶ崎へ向かうには、この特別快速からの乗り継ぎが東京駅から59分と最速となる(普通からの乗り継ぎだと66分)。竜ヶ崎線が接続する特別快速・普通はいずれも上野東京ライン直通の品川発着であり、上野・日暮里だけでなく、品川・新橋・東京からも乗り換え1回となるのは便利だ。特別快速からの乗り継ぎ客が来ると乗客は15名ほどとなり、やはり土浦・水戸方面からよりも東京方面からの乗り継ぎの方が多い。

12:55、佐貫発。関東鉄道竜ヶ崎線普通竜ヶ崎行き。

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「全線1閉塞のミニ路線」

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