竜ヶ崎線の活用で渋滞緩和を
現在の龍ケ崎市街地で最も多くの交通需要を集めるのは、言わずもがな流通経済大学龍ケ崎キャンパスである。龍ケ崎のほかに新松戸にもキャンパスを有し、全学で約5,000人の学生数を持つ。竜ヶ崎駅から1.7km、徒歩20分の場所に立地しているが、アクセスの主役をなすのはここでも佐貫駅発着の関東鉄道バスで、やはり竜ヶ崎線の出る幕はない。
バスの運行は竜ヶ崎線とほぼ同等の2~3本/h(下り10時台・上り16時台のみ5本)で、所要約15分。佐貫駅―流経大間の運賃は340円と、佐貫―竜ヶ崎間の鉄道運賃(220円)に比べて120円高い。
しかしながら、バスの運行体制にも少々問題があるように思う。佐貫駅へのメインルートとなる茨城県道271号(佐貫停車場線)は、朝夕の交通量がかなり多く、集中して走るバスが交通量の増加に拍車をかけている。このため、特に帰宅時間帯の佐貫駅東口ロータリーは、ニュータウンへの帰宅客を乗せたバスと、大学から帰宅する学生を乗せたバス、さらには佐貫駅へのマイカー送迎(キスアンドライド)でかなり混雑しており、車両数の抑制策が求められるところ。
もとはといえば、佐貫駅―流経大線が走る県道271号は、竜ヶ崎線の南側を並行する茨城県道5号(龍ケ崎潮来線)の混雑緩和のために建設されたもの。現在の区間3.8kmが全通したのは2006年と比較的近年のことであり、県道5号の渋滞緩和が喫緊の課題であったことが、このことからもわかる。佐貫駅―流経大線の経路とはやや外れるが、国土交通省公表の「茨城県における主要渋滞箇所」でも、竜ヶ崎ニュータウン区域内の「中根台4丁目」交差点がリストアップされており、この地域の車両数の多さが窺えよう。
そこで提案したいのが、学生輸送への竜ヶ崎線の活用だ。
竜ヶ崎駅のバスターミナルは、先述のとおりのバス路線網の衰退によって、その機能と敷地を持て余しており、学生輸送を受け入れる余地は十分ある。佐貫駅―竜ヶ崎駅間は竜ヶ崎線で7分、竜ヶ崎駅―流経大間も7分程度であり、乗り換え時間1分を含めて約15分。現行の直行バスと変わらないが、県道271号の渋滞に左右されなくなるため、定時性の向上が期待できよう。竜ヶ崎駅―流経大前間の運賃は、現行のコミュニティバス環状ルートが100円で結んでいるため、同額の100円とすればよい。おまけに、佐貫駅―流経大間の運賃は、竜ヶ崎線220円+竜ヶ崎駅―流経大シャトルバス100円=合計320円となり、現行の佐貫駅―流経大線よりも20円安くなる。乗り換えが1回増えてしまう代わりに、運賃の(実質的な)値下げによって学生の負担を還元するという理屈だ。
しかしながら、竜ヶ崎駅のバスターミナルをそのまま利用する案では、竜ヶ崎駅前の中心市街地を通過せざるを得ない。このため、信号が連続する市街地区間の通過に時間がかかるばかりでなく、多数のバスの通過による歩行環境の悪化なども懸念される。竜ヶ崎駅―県道までの区間は道幅も狭く、渋滞することもある。渋滞の状況によっては、渋滞に左右されない竜ヶ崎線の利用によって浮かせた時間を、竜ヶ崎駅付近の渋滞によって相殺してしまうということになりかねない。現行の佐貫駅―流経大線よりも時間がかかるようでは、本末転倒である。もっとも、竜ヶ崎駅付近が渋滞している状況では県道271号も例外なく渋滞しており、結果的に鉄道を利用した方が早いのであるが。
そこでもう一つの提案が、竜ヶ崎駅の0.5km手前、竜ヶ崎線と県道48号の陸橋が交差する地点への新駅(仮称・馴柴駅)と、列車・バス乗り継ぎに対応するバスターミナルの新設である。
馴柴駅候補地は、主要道路である県道48号の陸橋の直下にあたり、陸橋の下にUターンレーンがある。このUターンレーンを活用し、馴柴駅に到着した列車から、大学へ向かうシャトルバスがダイレクトに接続できるようにするのだ。
馴柴駅~流経大間のバスの経路は、走行環境の良いバイパス道路が殆どとなるため、渋滞の発生も少ない。このため、バスの走行距離は竜ヶ崎駅~流経大間よりも当然長くなるのだが、佐貫駅からの所要時間は竜ヶ崎線5分+乗り換え1分+バス8分=14分と、総所要時間では逆に短くなる。渋滞の少ない区間だけを走るようになるので、定時性の向上が期待できるのは言うまでもないところだ。片面ホームとバス乗降場を陸橋下に設置するだけなので、事業費も抑制できる。
また、馴柴駅から600mほど北には、龍ケ崎市文化会館・龍ケ崎市中央図書館、および龍ケ崎市歴史民俗資料館など、公共施設が集積する一帯がある。龍ケ崎市役所こそ竜ヶ崎駅最寄りで変わらないが、現状これら公共施設群へは竜ヶ崎駅から徒歩15分を要し、コミュニティバスもAルート(1日5便・片方向のみ運転)が経由し、頼みの循環ルートも掠めるのみで、交通至便とは言えない状況にある。これが馴柴駅の開業によって徒歩7分程度となるため、学生輸送だけではない駅の活用も十分見込める。竜ヶ崎駅から僅か0.5kmの位置であるが、新駅の開設によって副次的な効果も得られるのだ。
運賃面では、竜ヶ崎駅と0.5kmしか離れていないため、竜ヶ崎駅と同駅扱いでもよいだろう。同駅扱いとすることで、IC乗車券のシステム改修にかかる費用を削減できる。この手法は、JR南武支線小田栄駅(2016年開業、0.7km離れた川崎新町駅と同駅扱い)、JR両毛線あしかがフラワーパーク駅(2018年開業、0.9km離れた富田駅と同駅扱い)など、近年開業しているJRの新駅にも見られるものだ。
課題としては、流経大の学生の理解を得られるかどうかということと、朝夕の通学ラッシュに耐えられるかということの二点だ。若干スピードアップし、若干運賃も値下がりするとはいえ、今までは佐貫駅からバスに乗り継いでさえしまえば大学構内まで直行できたところ、馴柴駅での乗り換えが1回増えてしまう。また、交換設備を持たない竜ヶ崎線は20分間隔運転が限度で、時間帯によっては5本/hのバスが出る学生輸送のボリュームに対応できるかも懸念ではある。細かな点としては、馴柴駅は北側にホームを設置することになるため、南側にしかホームがない竜ヶ崎線の環境に特化したキハ2000形の若干の改修が必要(北側に乗務員扉を設置し、乗務員室を半室から全室へと拡大)になるといった点もある。
しかしながら、その心配は払拭できるものではないだろうか。常磐線の電車にちゃんと接続できるか…という不安を抱えながら乗るバスよりも、列車・バスの簡便な乗り換え1回で定時性が向上し、おまけに運賃も安くなるとあらば、学生の理解も得られるのではないかと思う。混雑への対応という側面においても、現行では平日朝のみである2両編成へ増結する時間帯を拡大することで、十分対処できる。ラッシュの方向も、通学と通勤では逆方向となるため、現在の利用者に迷惑がかかるわけでもない。
また、広大な敷地を活かしたスポーツが盛んな龍ケ崎キャンパスと、敷地が駅前のビルのみでほぼ講義が専門の新松戸キャンパスでは、学生層があまり被らない。加えてどちらのキャンパスでも同等の講義が受けられるため、龍ケ崎キャンパスへのアクセスの変更が、学生の流出を招いたり、マイカー・バイク通学の増加を招いたりといった懸念も薄いものと思う。
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学生輸送に竜ヶ崎線を活用することで、竜ヶ崎線に新たな顧客を呼び込みつつ、佐貫駅周辺の渋滞緩和にもつながる。龍ケ崎市全体で、地元のために走る鉄道を支える取り組みを盛り上げることは、マイカーに頼り切らない、健全な社会をつくっていくことにもなるはずだ。
(つづく)