九州・沖縄

【沖縄】島から島へ…ブーゲンビレア色のバスに乗って──宮古協栄バス【4】与那覇嘉手苅線 #55

乗客のいない回り道

「来間支線」から「嘉手苅支線」へ立ち返り、嘉手苅へと一周するラケット状区間へと入っていく。「棚根」を過ぎると、宮古島唯一のラグーンである入江湾を渡る。入江湾と海はごく狭い水路で繋がっているのみで、波が奥まで届かないため、湾内にはマングローブ林が発達している。その景観は、いかにも沖縄ならでは。

▲奥に入江湾が覗く

入江湾を渡った東側の湾奥部に、「クバタイーバタ」という珍名バス停がある。付近には「クバカ城跡」という史跡があるようだが、グーグルマップにすらヒットしない。どうやらクバカ按司と呼ばれた豪族の本拠地だったようだが、「クバタ」はともかく「イーバタ」の方は由来が判然としない。

入江湾を過ぎて右手に折れ、さとうきび畑を抜けると折り返し地点、「嘉手苅」停留所。

ここを出る平良行きは1日4本(土休日・学休日3本)で、さすがに来間島よりは多いが、それでも最終は17:05。平良港を16:35に出なければならず、最終にしてはいささか早い。高校生の帰宅にしても早いが、来間はともかく嘉手苅でも高校生の通学に対応できているのかどうか。辺りは結構密集した住宅地なのだが、ここでもやはり乗車はゼロ。一応起終点なので1分ほど停車し、時間調整。ここで乗務員さんが「与那覇 来間 嘉手苅」行きだった方向幕を「平良行」に変えた。

▲ここもさとうきび畑に囲まれた「嘉手苅」停留所

嘉手苅から国道390号に戻り、ここから平良市街まではほぼ国道に沿ってゆく。国道ゆえ、さとうきび畑の中を行く農道よりもスピードが上がる。

下地庁舎前まで戻ると二重のラケット状区間は終わるが、この区間の乗客はゼロだった。つまり、自分の他には上地南から乗ったオバア2名しか乗客がおらず、その全員が平良市街へ向かうわけで、この寄り道は全員にとって無駄だったことになる。直行すれば20分のところ、倍以上の45分がかかっており、「バスは時間がかかる」というイメージを持たれはしないだろうか。

▲宮古空港への通りが分岐する「空港南」交差点 しかし停留所はない

国道を平良市街へ向かう。「川満」を過ぎると、次は平良市街外縁の「イオンタウン南店」まで4分にわたり停留所がないが、実はこの中間あたりに「空港南」交差点がある。ここに停留所があれば空港ターミナルまで1.7km・徒歩20分程度になるが、そのような配慮はなされていない。需要がないと言えばそれまでだが、これだけ近くを通っているのに素通りというのももどかしい。空港ターミナル経由としてもいいように思うが。

▲空港への道路。立派な歩道があるが歩行者は殆どいない

「イオンタウン南店」を過ぎると、いよいよ平良市街を貫く「マクラム通り」に入っていく。東京の「マッカーサー道路」よろしく、戦後、米軍のマクラム中佐が平良港から平良市街を貫く道路として切り開いたことに由来する通りなのだという。宮古島には今に続く米軍基地はないものの、戦後の米軍施政下において、当時の宮古島は自動車通行が容易ならざるものだったことが想像できる。マクラム通りは平良市街の中核を為す道路であり、30年弱の米軍施政の置き土産が、今でも有効に機能している。

▲道路標識にかつての「平良市」の表記が残っていた

県立宮古病院の最寄り(※平日朝のみ病院構内乗り入れあり)となる「ほがらか理容館前」を過ぎると、マクラム通りから「下里通り」へ左折。それにしても、「ほがらか理容館前」の辺りに理容室は見当たらないが、かつてランドマーク的に存在した店の名がそのまま残っているのだろうか。沖縄本島・うるま市石川の「琉映前」を思い出す。

▲交通量は多いがどことなくのんびりした雰囲気が漂う下里通り

沖縄県内のみに展開するハンバーガーショップ「A&W 宮古下里通り店」を見ると、いよいよ中心市街。しかし、本島の国際通りのような活気はなく、かといって寂れている感じでもなく、おだやかな雰囲気なのは、やはり宮古島が「離島」である故か。人通りもちらほらあり、寂しい感じはない。

▲正面は平良港。宮古島最大の港湾だけあってコンテナが多い

平良港に向かって、下り坂を降りていく。いくら島の標高が低いとはいえ、港との間にはそれなりの高低差がある。下り坂を降りきると、目の前には平良港の景色が広がる。

かつて伊良部島をはじめ宮古諸島各地へのフェリーが発着した平良港は、今では多良間島へのフェリーが1日1便発着するのみ。その余力を活かし、伊良部大橋開通後は市内に散らばっていたバス停留所を集約し、バスターミナルとして機能している。

▲ロータリーを取り囲むようにバスが並ぶ平良港結節地点

平良港でバスを降りた。45分乗ってきて、運賃たったの310円。まあ、直行した分、9.1kmの運賃しかかかっていないというのもあるけれども。運賃箱は両替機含めて機能しておらず、すべて乗務員さんへの手渡しである。サングラスがキマっているアンマーは、にっこり笑って運賃を受け取ってくれた。

▲接続を取る宮古協栄バス【4】与那覇嘉手苅線・平良(車庫)行き(前)と、共和バス【7】伊良部佐良浜平良線・佐和田車庫行き(後)。協栄バスはよく見ると「ノーステップパス」

上地南から乗ってきたオバア2名はまだ降りず、このバスの終点・平良(車庫)方面へと乗り通していった。この先には市役所やショッピングセンター・サンエーがあり、おそらくはサンエーまで買い物に行くのだろう。

(次ページ)
「機能不十分な平良港結節地点」

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