関東

【茨城】”関東の大阪”下館を歩く──関東鉄道常総線(2) #41

最期の時を待つ「下館市役所」

かましんの隣には、2017年にSPICAへその機能のすべてを移転したのち、無人と化した旧筑西市役所が姿を留めていた。

▲堂々たる風格を湛える筑西市役所旧市庁舎

現在は旧市役所の駐車場をそのまま時間貸しの平面駐車場として暫定利用されているのみで、建物の取り壊しなどの再開発が進んでいるようには見受けられない。旧市庁舎は、平凡な学校建築のような、四角いコンクリート建築そのままのような造作に見えて、実は市議会議事堂部分が出っ張っていたり、ガラス張りの部分がへこんでいたり、張り出していたりと、結構複雑な造形美を見せている。黒川紀章の名作、銀座の中銀カプセルタワービルのような雰囲気すらある。建物の裏手に回り込むと、また違った表情を見せてくれるから不思議だ。

▲単純なようでいて複雑な造形を持つ独特の構造

ただ、建物の老朽化を理由にSPICAへ移転しただけあって、使用されなくなった旧市庁舎内部は荒廃が進みつつあり、いかにも埃っぽい。日焼けしきったカーテンでビッチリと目隠しされた建物内の雰囲気は、もはやあまり窺えなかった。

▲見る面によって印象が変わる不思議な建築

定礎板を見ると、昭和49年7月31日竣工とあり、築44年であることがわかる。施工者に「下館市長 下條正雄」と刻まれているこの石盤は、かつてここが下館市であったことを静かに語っていた。

▲かつてここが「下館市役所」であった証拠が刻まれている

加えて、市庁舎入り口の脇にあった証明書発行機には「しもだて市民カード」の名前が残り、上から「筑西市民カード」のテプラが添えられていた。下館市および真壁まかべ関城町せきじょうまち明野町あけのまち協和町きょうわまちの1市3町が合併して筑西市が発足したのは2005年と、発足から10年少々しか経っていないこともあり、まだ「しもだて市民カード」からの切り替えが済んでいない、旧下館市民も多いのだろう。旧下館市には「下館」とつく住所が存在せず、町名の頭に「下館」を付けるといった町名変更も行われなかったため、筑西市となった今、「下館」と名乗る住所は存在しない。時代の波に消えゆくかと思われた「下館」の住所だが、こうして随所に面影が残っている。

しかし、旧市庁舎の取り壊しが始まってしまうと、いよいよ旧下館市の遺産は少なくなってくる。市役所はSPICAへ移転し、図書館は旧市庁舎向かいに新築され、「アルテリオ」なる地域交流センターも市街中心部に新築されたため、公共施設の類は市街中心部に充足しているので、築44年を超えた旧市庁舎がそのままの形で利活用されるとは考えにくい。おそらくは中低層のマンションが建つことになるのだろうが、果たしてこの場所が「下館市役所」であった、という痕跡が残るかどうかは、あまり期待できそうにない。市街中心部であり買い手がつかないということもないだろうが、場合によっては何年もそのまま、ということも考えられるが、それはそれで寂しい。

▲旧市庁舎向かいに立地する真新しい筑西市立中央図書館

これだけ堂々たる風格を湛え、これだけ凝った公共建築を完成させられたのは、さすがは「関東の大阪」と呼ばれし、旧下館市の力を誇示しているかのよう。これだけデザイン性に富んだ市庁舎は、全国広しといえどもそこまで多くないだけに、老朽化を理由に機能を失ってしまったのが残念なところだ。手直しすればまだまだ行けそうな気もするが、44年前の建物ではエレベーターなどバリアフリー設備の整備、またIT環境の整備などが追い付かない側面もあろうし、構造は堅牢であっても手放さざるを得なかったのも、また然り。

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古き下館から新しき筑西へ

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