谷間の小さな接続駅・有馬口
峠の手前にある1面1線の小さな駅・五社を過ぎると、右に左にギリギリと峠越えのカーブを曲がっていく。さしもの新鋭・6000系もこの峠越え区間ではVVVFインバータ制御のモーター音を唸らせ、クォーンという音が車内に響く。レールと車輪がこすれるフランジ音も響いてくる。カーブを曲がりながら勾配を下っているのだから猶更だ。そして、そのカーブが尽きた所のわずかな平地に構えているのが、有馬口駅。三田線と有馬線の接続駅…というよりも有馬・三田線と「有馬支線」の接続駅と言った方が実態に合っている。設備としては2面4線ではあるがその規模は小さく、ホーム幅も狭い。三田から20分、17:28に有馬口着。
北から順に、1番線に有馬・三田線三田行き、3番線に新開地行きが発着し、有馬口―有馬温泉間の折り返し列車は4番線。3番線発着の新開地行きと4番線の有馬温泉行きは同じホームで乗り換えができるが、1番線発着の三田行きからは構内踏切を渡っての乗り換え。
朝方の新開地行きは三田からの列車に加え、有馬温泉始発が6〜7時台にかけ15分間隔で運行されるため、有馬口からは本数がほぼ倍増する。朝夕のみ運転の急行は三田発で、有馬口─新開地間が急行運転となるため、有馬温泉発の普通が通過駅をカバーする形だ。設備もこのダイヤを反映しており、ここから本数が増える有馬線は、ここから全線複線となって新開地へ至るが、三田線は基本的に単線。このように、有馬口は神戸からの輸送に一区切りがつく駅であり、設備の差は輸送量の差を如実に示しているといえる。
接続の有馬温泉行きは17:33で、あまり人がいないホームで5分ほど待った。三田行きの到着は17:32で、これを受けて発車する設定。三田→有馬温泉の5分接続に対し、新開地→有馬温泉は1分接続とロスがないダイヤになっているあたり、やはり神戸側からの流れのほうが強いであろうことが察せられる。逆方向も、有馬温泉→三田が5分接続なのに対し、有馬温泉→新開地は1分接続であり、こちらも新開地方面が優先。
待っていた有馬温泉行きは、神鉄初のアルミ車・3000系の4両だった。三田からの公園都市線が3両だったのに対し、こちらはわずか1駅間の短距離支線ながら、有馬・三田線と同等の4両が充てられていた。需要量からして4両が必要になるほど乗客は多くないだろうが、1駅間を往復するだけなので、この区間には1編成を配置しておけばよく、1両多いのは承知で、有馬・三田線と車両を共用する方が合理的なのだろう。
やがて1番線に三田行きが到着。三田→有馬温泉行きへの乗り換えは5人ほどしかいなかったが、新開地→有馬温泉行きへの乗り換えは20人ほどいた。構内踏切が先頭車両と接する位置に設けられているのに加え、有馬温泉駅の改札口は頭端式のため、先頭車両に乗客が固まる。この時間から有馬温泉入りする観光客はおらず、乗客はみな軽装。それに大阪・三宮からは高速バスが頻発していることもあり、大阪はもとより神戸からでも乗り換えを要する神鉄は、地元の利用者が多いのだろう。17:33、有馬口発。
外がすでに暗かったこともあり、長年にわたる休止駅として知られた新有馬駅の痕跡はわからずじまい。車窓には街灯すら流れず、ほとんど真っ暗。三宮まで20分程度で到達してしまう距離だというのに、嘘のような深山幽谷である。
トンネルを抜けると、有馬口から3分で終点・有馬温泉に到着。ホームで記念写真を撮る観光客の姿はなく、皆足早に改札を抜けていった。
僕らだけが残されたホームには提灯が揺れ、ゆらゆらと観光客を迎えている。
(つづく)