九州・沖縄

【沖縄】ローカル路線バスで巡る石垣島・明石食堂/川平湾の旅──東バス【6】平野線・【3】東回り一周線 #78

最高のソーキを求めて・・・明石食堂

宿に入ってしばし休憩し、夕刻のバスで出直すことにした。

目指す先は伊原間の先、明石集落にある「明石食堂」。ここはが付く八重山そばの人気店で、軟骨までとろけるまで煮込まれたソーキが名物。これといって観光スポットがない平久保半島にあって、平久保崎灯台までレンタカーで向かった後、明石食堂に立ち寄るのが観光ルートになっていたそう。

しかし人気の度が過ぎて、数台しかない駐車場にレンタカーを収容しきれず、明石集落の広場がレンタカーで埋め尽くされ、生活道路にまで行列が伸び、ありつけるまで3時間待ちが当たり前…という事態になっていたそう。これほど行列が伸び、路上駐車が横行するのでは集落の迷惑になるし、店主もお客も疲弊してしまう。こうした事情から、2019年5月をもって昼間の営業を取りやめ、17:30~21:00(LO)のみの営業となっている。この措置により、日帰り観光ルートに組み込みにくくなったことから、元の”集落の食堂”としての立ち位置に戻りつつあるそうだ。

明石集落は大きくなく、【5】平野伊原間線・【6】平野線が経由する明石停留所も集落の中心部にあり、明石食堂へは徒歩2分という近さで、バス旅でも訪れやすいのはありがたい・・・が、そのバスが少ないのが困りもの。夕方の営業時間に間に合いそうなバスは、以下の2往復しかない。

  • 下り明石16:52着(平野行き)→上り18:08発(バスターミナル行き)
  • 下り明石19:27着(平野行き)→上り20:38発(バスターミナル行き)上り便は土曜および祝前日のみ運行

このため、16:52着→18:08発で帰ってくることができなければ、これといって時間を潰すところもない明石集落で2時間半を過ごすほかない。しかも上り20:38発は土曜以外運休(祝前日を除く)で、開店は17:30なので、30分弱で店を出なくてはならないということになり、相当厳しい。少しでも混んでいたり、そばが出てくるのが遅くなればアウトだ。タクシーにしても、この人口希薄な石垣島北部に流しのタクシーなどあるはずがなく、リゾートホテルも少ないというか無いため、客待ちのタクシーもいないエリアである。

もしバスで訪れるならば、帰ってこれないという事態を避けられるよう、上り20:38発の運転日に下り16:52着で訪れ、なるべく上り18:08発で帰る方向にもっていくのがいいだろう。もし上り18:08発を逃すと2時間半待ちになるが、あまりヒマなら(意味もなく)下り19:27発→平野19:45着/上り20:20発→と往復して時間を潰す手も、あるにはある。もしくは、観光客がまず訪れないであろう時間帯の、下り19:27着→上り20:38発で訪れるかのどちらかだ。

訪れたのは2019/8/11(日祝)であり、翌8/12(月祝)が祝日だったため、上り20:38発も運行する日であった。そのため、下り16:52着で訪れればまず帰れないことはないだろうが、いくら何でも夜の2時間半待ちは避けたかった。・・・とあらば、取るべき行動は一つしかない。

・・・と思っていたら、宿のオバアが様子を見にやって来た。

オ「夕飯はどうするの?」S「明石食堂までバスで行こうと思ってるんですけど、帰りのバスが18:08を逃すと、20:38まで無いんですよね。2時間半待ちはやだなあ、と思っているんですけど」オ「そんなら、8時くらいまでだったら、電話くれれば迎えに行ってあげるよ」

・・・なんと優しいオバアだろう。ちなみにこのオバア、昼間は果樹園を営む傍ら宿(貸別荘のような感じ)の面倒を見て、夜は運転代行という、なかなか忙しい生活をしているそうだ。沖縄のオバアは本当によく働く。

こうして保険を得たので、舟越16:43→明石16:52の【6】平野線・平野行きに揺られた。乗車は例によって宿の目の前から。フリー乗降なのでバスに向かって手をあげ、停車してもらう。乗客はやはり5人ほどで、夕方とあって観光客はいなかった。

16:52、明石着。明石集落は県道206号平野伊原間線から300mほど外れた位置にあるため、バスも集落中央の停留所まで300mを寄り道してくれる。

1日2~5往復しか発着しないが、赤瓦の立派な上屋が整備されており、集落の玄関口としての機能を果たしている。停留所の目の前には、沖縄の田舎にはつきものの共同売店もちゃんとあった。簡易郵便局併設の、割としっかりした店構えである。

停留所の反対側は共同の広場になっており、幅50mほどとかなり広い。しかしこの広場が明石食堂目当てのレンタカーで埋め尽くされ、生活道路にまで溢れていたというから、その”オーバーツーリズム”っぷりは甚だしいものであったことがわかる。

▲バス停の近くにある開拓記念碑。沖縄本島などからの移住が記録されていた

開店30分前、17:00頃に店の前に着いた。一番乗りだろう・・・と思っていたら、観光客1組が既に並んでいた。さすが噂に聞きし人気店である。

暫く待っていると、数人の待ち客を見てか、かなり早くに店を開けてくれた。店の中は広く、座敷と合わせて15卓程度あるものの、さすがに本来の開店時間より早くとあっては、3卓くらいしか埋まっていない。

「お待たせしました。いらっしゃいませ、ご注文は」「ソーキを一つと、野菜そばをひとつで」「はい、少々お待ちくださいねー」

お冷を持ってきてくれた(若)オバアは、さすがに17時台とあっては余裕である。

「お昼の営業を止められたと伺いまして。変わりましたか?」「ええ、もう、楽になりました。良かったですよ」

この言葉が店主の偽らざる心情を現しているだろう。美味しいものを提供するのは食堂としてあるべき姿だが、人気が出すぎて、集落は観光客だらけになるし、店主の方も多すぎる客を捌ききれずに疲弊してしまう。店内を見る限り、若干の観光客は見られるが完全に”集落の食堂”に戻っており、ゆったりした店内で、皆思い思いの時間を過ごしていた。

「はい、お待ちどうさま。野菜そばと、ソーキね」

これが明石食堂名物の野菜そばとソーキである。特にソーキ(500円)はあばら骨にあたる軟骨までもとろっとろ。下手な三枚肉よりも、豚の甘みを実感できるだろう。何しろ、このソーキを求めて全国からファンがやってくるといい、「一生に一度は食べるべきソーキ」との評価もあるくらい。その高い評価は、伊達ではなかった。

野菜がてんこ盛りの「野菜そば(小600円)」も、ソーキに負けず劣らずの明石食堂名物。豚骨ベースの八重山そばに、野菜のみずみずしさをこれでもかと感じられる一杯であった。

店を早くに開けてくれたため、17:50頃には店を出ることができた。(※当然ながら、毎回早く開けてくれるとは限らないので、17:30開店と思っておくに越したことはない)

▲ちょうど甲子園の中継で花咲徳栄(埼玉)―明石商業(兵庫)の試合が映っていた。明石(あかいし)食堂に明石(あかし)商業の選手が映る。

明石停留所でのんびりバスを待っていると、奥の広場から琉球民謡が流れてきた。遠めに見ると10名ほどの地元の方々が琉球舞踊を練習しており、指導役からの檄が飛んでいる様子。秋祭りの準備だろうか。BEGINの「島人の宝」にある、「♪誰よりも知っている 祝いの夜も 祭りの朝も どこからか聞こえてくる この歌を」という一節を思い出す。

▲奥の舞台で練習が行われていた

石垣島北部のごく普通の田舎であるが、それでもこの町に伝統芸能はしっかり根付いている。この裾野の広さこそが、沖縄を沖縄たらしめる伝統芸能を守っているのだと、感じ入るところがあった。

明石18:08発平野行きは、やはり時間通りやって来た。乗客はやはり5名程度で、海で遊んできたのか、観光帰りの客もいて、8名程度乗っていた。

「おっ、もうお帰りですか」

当たり前だが、先ほど明石で降りた下り平野行きと同じ乗務員さんであった。「ええ、明石食堂で夕飯を済ませまして、伊原間の宿へ帰るところですよ」「明石食堂!おいしいですよね、あそこ。伊原間の町中にも”新垣食堂”ってのがあって、こちらも人気なんですけど、お昼だけなんですよね。バスが目の前を通りますから、ぜひ見てってください」

バスで明石を訪れる客があまりいないのか、乗務員さんはどことなく嬉しそう。

「左手にね、島田紳助の店があります。島田紳助の像がありますから、ぜひご覧ください」

▲島田紳助像が建つ

観光バスのようなアナウンスまで入れてくれるサービスぶりだった。観光客は当然、店の前に立っている島田紳助に、目が釘付けである。「当店のお客様以外撮影禁止」とあるが、バス車内からもアウトなんだろうか。それにしてもどうやって取り締まるんだ。

伊原間の町中に戻ると、やはり2名ほど乗車があった。夕刻の石垣市街へお出かけだろうか。先ほどと同じくフリー乗降制度を利用し、舟越の先「コーラルリゾート石垣島」の前で降ろしてもらった。18:19着、明石から10分ほどの乗車であった。本来は地元客向けのサービスだろうが、こうして宿の前で降ろしてもらえるのはありがたい。

このフリー乗降制度、観光客への知名度がもっと上がればいいと思うが、こうも本数が少なくては、あまりに制約が大きい。明石食堂にしても、早めに店を開けてくれたから往復ともバスを利用できたが、時間通りの開店であったら送迎を頼んでいたところだ。もっとも、こうして地元の空気を存分に体感できるところが、制約だらけであっても路線バスの旅が面白い点なのだが。

(次ページ)
早朝1本のみ!【3】東回り一周線

1 2 3