九州・沖縄

【沖縄】石垣島:平久保崎・・・南の島の”北の灯台”へ──東バス【6】平野線 #77

北の灯台。その言葉からは、どんな景色が想像されるだろう。どんよりとした曇り空をバックにした、荒れ狂う日本海か。あるいは、津軽海峡冬景色さながらの、傷心の女性の一人旅か。いずれにせよ、その響きからは、どこか物悲しいイメージが掻き立てられる。

しかし今回訪れた「北の灯台」は、日本海でも北海道でも津軽海峡でもなく、”南の島”石垣島。その名も、平久保崎灯台という。その灯台が建つ、石垣島の北の果て。そこに向かう、黄色いバスに揺られてみた。

▲潮風を受けて走る【6】平野線

石垣島の公共交通を担う東バス

日本最西端の、沖縄県・八重山諸島。その主島たる石垣島は、全域が石垣市に属し、人口は48,000人ほど。沖縄県内最高峰となる於茂登岳が聳えるほか、島の周囲には豊かな珊瑚礁が発達し、シュノーケリング、ダイビング、カヌーなど、国内屈指のマリンレジャーが盛んな地である。西表いりおもて島、竹富たけとみ島など、八重山諸島の離島との間の航路が発達しており、これら離島から石垣島へ買い出しに来る離島住民も多い。石垣市民に加え、竹富町民4,000人、与那国町民2,000人の計54,000人の、八重山諸島の経済の中心である。

▲ユーグレナ石垣港離島ターミナル。数多の離島航路および石垣島内各地を結ぶ数多のバスが集まる、八重山諸島の中心である

その石垣島の公共交通を一手に担うのが、あずま運輸株式会社(以下『東バス』とする)の路線バスである。日本最西端の南の島にして「東バス」とはこれいかに、という気もするが、その社名の由来はどうもはっきりしない。

▲石垣港離島ターミナルの向かいに構える東バス本社および「バスターミナル」全てのバスがここを起終点とする

1935年に設立された「八重山自動車商会」が東バスの原点であり、現在に至る「東運輸株式会社」が設立されたのは戦後の1950年。どちらも代表は糸州長勝という人物であり、「東」の字は入っていない。沖縄では代表者の人名の一部を社名に組み込む例が結構あり、石垣島においても離島航路の運営を担う安栄あんえい観光も、代表者は森田”安”高氏という。しかし、東バスにおいては、これに当てはまらないものだ。

設立当時の株主に石垣島”東”部の大浜や白保しらほといった集落の住民が多く、現にこれら集落は1964年の合併までは石垣市ではなく、八重山郡大浜町という独立した自治体であった。おそらく、大浜町民に支えられて、現在に至るまで主要路線となっている石垣─白保線の運行から始まったという経緯から、「石垣から東へ向かう」意味を込めたものと思う。

▲石垣空港―バスターミナル間を各ホテル経由で結ぶ【10】空港線。東バスの特徴として、こうしたホテルの車寄せまで直接乗り入れる例が多いことが挙げられる(ANAインターコンチネンタルホテル)

現在の東バスのドル箱路線といえば、系統番号【4】【10】の2系統からなる「空港線」である。詳しくは過去記事を参照いただきたいが(リンク→【沖縄】どちらに乗る?石垣空港から離島ターミナルへ──東バス④⑩空港線 #68)、石垣市街地の経由地が異なるものの、2系統合わせて15分間隔運行という高い利便性を有するため、空港客のみならず地元客の利用も多い。石垣市民48,000人のうち、殆どの人口がこの空港線沿線に集中しているため、運行時間帯も6〜21時と幅広い。

▲バスターミナルで待機するローカル系統専用車。空港線とは全く違う塗装な上、路線ごとでも塗装が分けられているため、識別は容易である

さて、その空港線以外の路線はというと、一転してローカル路線そのものとなる。一部を除き、基本的には島の東はずれの空港ではなく、南端の石垣市街地の中心部に位置する「バスターミナル」(※『石垣バスターミナル』とかではない)を起点とし、各地へ向かうという放射型の路線である。

▲宮古島にはない島内一周路線。ただし本数は非常に少ない

なお、島全体が平坦で人の流れが拡散する宮古島と違い、石垣島は中央部に於茂登岳おもとだけが聳えており、川も多い。このため、人の流れは基本的に海岸部に沿う形となることから、宮古島にはない「一周線」も存在する。これについては後述する。

ローカル路線の中で最も運行本数が多いのは、島の北西部へ向かう【9】川平かびらリゾート線。バスターミナルを起点に、リゾートホテルが集中する石垣島西海岸、景勝地として名高い川平湾に面した「川平公園前」を経由し、終点はその先の川平石崎に面する島一番のリゾートホテル、クラブメッド石垣島前の「クラブメッド」となる。

▲リゾートホテルが集中する石垣島西海岸を縦断する【9】川平リゾート線。空港線と似た塗装だが、飛行機や船のイラストがない(クラブメッド)

地元民の利用もあるが観光客の利用に特化した系統であり、多くのリゾートホテルの車寄せに立ち寄る。川平湾は石垣島を代表する観光地の一つであり、「カビラブルー」と称されるその海の景色を求め、外国人の利用も多い。このため、英語放送が完備されている。

▲川平湾の最寄りとなる「川平公園前」停留所。石垣市街へ向かうバスは、全ての系統を合わせて1時間1本程度の運行である

バスターミナル〜クラブメッド間の【9】単独では1〜2時間に1本の6往復/日(7/1〜9/30の観光シーズンは2往復/日増えて8往復/日)だが、バスターミナル〜川平公園前までは、経路が異なるものの、これに加えて【2】【3】西回り・東回り一周線、【7】吉原よしはら線、【8】西回り伊原間いばるま線、【11】米原よねはらキャンプ場線も利用できる。ただし、これらを合わせても8往復/日程度であり、【9】川平リゾート線を足して漸く1時間1本程度である。

▲終点・平野へ到着した【6】平野線

そして、今回乗車したのが【6】平野ひらの線。石垣島の北東部に突き出た平久保ひらくぼ半島の突端、平野へとバスターミナルから東海岸を経由して向かう系統であり、3〜5往復/日の運行。

なお、バスターミナル〜平野を結ぶ系統には【5】平野伊原間線も含まれ、運行区間は末端区間にあたる朝1往復の伊原間─平野間の区間運行を除き【6】平野線と同一であるが、【5】は深夜の下りで平野へ向かいそのまま滞泊、翌朝の上りでバスターミナルへ折り返すという、乗務員・車両の滞泊を含む行路となるため、別路線扱いとなっている模様。

▲北部の拠点となる伊原間(いばるま)の転回場。複数のバスが接続する活気ある様子が見られることもある

なお、半島の付け根にあたる伊原間までは【2】【3】西回り・東回り一周線、【8】西回り伊原間線も利用できるが、これらを足しても、伊原間までですら2時間に1本程度であり、伊原間から先、平野へ向かうのは【6】平野線・【5】平野伊原間線しかない。

▲石垣島の北端、平久保崎灯台への分岐点

なお、平久保崎灯台の目の前まで行くわけではなく、灯台までは平野終点から農道の中を歩くこと20分ほどを要する。ただ、ローカル区間にあたる石垣空港─伊原間─平野間はフリー乗降制度が設けられており、どこでも乗降ができる。灯台徒歩15分ほどの最寄り地点は停留所こそないが、ここを目的地とする観光客が多いこともあり、実質的に停留所として機能している面もあるようだ。

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空港連絡の機能も持つ近郊区間

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