貝塚駅の車止めを介して向き合う西鉄と地下鉄。素人目には直通運転しないのがおかしいくらいなのだが、そこには時代に翻弄され続けた西鉄貝塚線の歴史が影を落としている。
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他の西鉄各線と”違う”…西鉄貝塚線
西鉄貝塚線は福岡市地下鉄箱崎線の終点である貝塚(福岡市東区)を起点とし、東区の海側を縦断、福岡市から1駅外れた西鉄新宮(糟屋郡新宮町)を終点とする、全線11.0kmの短距離路線。起点の貝塚で地下鉄箱崎線と接続するほか、西鉄千早でJR鹿児島本線(JRは千早駅)、和白でJR香椎線と接続があり、短距離ながら接続路線が多いという都市型の特徴を持つ。
しかしながら、この貝塚線はかなり癖の強い路線だ。まず、西鉄の本線である天神大牟田線をはじめ他の西鉄各線との接続はなく、孤立した路線であること。西鉄各線の軌間が1,435mm(標準軌)であるのに対し、貝塚線のみはJRと同じ1,067mm(狭軌)であること。起点の貝塚で接続する福岡市地下鉄箱崎線との直通運転が準備されながら、1986年の箱崎線全通から一向に進展がないこと。それどころか、2007年に全線の半分近い西鉄新宮─津屋崎(つやざき、福岡県福津市)間9.9kmが廃止されるという憂き目に遭っている。
その他にも、専用の新車が全く導入されず車両はすべて天神大牟田線の旧型車で賄われていること、SFカード(ストアードフェアカード。関東でいうイオカードやパスネット)が最後まで導入されなかったこと(西鉄のICカードnimocaは天神大牟田線にやや遅れて導入された)など、貝塚線は本線である天神大牟田線に比べ、冷や飯を食わされてきた側面が大きい。
同じ福岡市内に乗り入れる西鉄電車なのになぜここまで扱いに差があるのかといえば、それは貝塚線の出自が天神大牟田線系統と違うことに端を発しているのではないかと思う。
しかしながら、貝塚線にはかつて筑豊方面への延伸計画があり、福岡市─北九州市を結ぶ幹線に発展したかもしれなかった。現在は福岡市の片隅で小さく走るのみであるが、今回は貝塚線が辿った数奇な歴史を辿ってみよう。
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「傍流故の冷遇」