西鉄香椎までの暫定直通をすべきでは
さて、貝塚線の混雑緩和ならびに利便性向上策を考えたとき、どうするのが一番良いのかを考えると、「地下鉄車両の西鉄香椎までの直通運転」ではないかと思う。「地下鉄←→貝塚←→西鉄香椎」の直通電車と「西鉄香椎←→西鉄新宮」の区間列車が、西鉄香椎で接続するといったイメージだ。
直通運転に際しての最大の課題は、貝塚線と箱崎線の輸送力に大きな開きがある点。貝塚線は2両編成なのに対し、箱崎線は6両。単純比較で3倍である。混雑緩和だけを解決するならば、貝塚線を3両編成に増強すれば混雑率は100%程度に落ち着く計算にはなるが、それだと末端区間の輸送力が過大になってしまう。
現在の貝塚線の混雑は千早の開発に伴うもので、貝塚口に偏っていると言える。香椎宮前〜西鉄新宮の乗降客数は、部分廃止後は概ね横ばいか微増で推移しているのに対し、千早は3,100人→5,700人、名島1,600人→2,900人と大きな伸びを見せている。従って、混雑緩和策は全線でなく千早近辺に重点的に手を打てば、小さな投資で効果を挙げられると言える。
そして、西鉄千早〜西鉄香椎間の連続立体交差化が2006年に完了しており、この際に地下鉄車両の6両編成が乗り入れるためのホーム延伸スペースが確保されている。これを活用しない手はないだろう。
従って、現在の貝塚線の混雑が貝塚近辺に偏っていること、および地下鉄直通のためのホーム延伸が準備されていることの2点を踏まえると、地下鉄車両の6両編成を西鉄香椎まで直通させ、西鉄香椎で2両編成の線内折り返し列車にホーム対面で接続とするのがベターではないかと思う。西鉄香椎のホームは島式1面2線であり、接続を取るには適した構造になっているのも好ましい点だ。
こうすることで、貝塚〜西鉄千早の混雑緩和になるばかりでなく、地下鉄箱崎線〜千早・香椎という線内で最も多くの需要を持つ旅客動向に合わせた運転系統になる。ただ、全線直通ではないため、香椎花園前〜西鉄新宮間の利用者にとっては、乗り換え地点が貝塚から西鉄香椎へとずれるだけになってしまうが、それでも貝塚〜西鉄香椎の混雑緩和、および乗り換え距離の短縮(最短60m→3m程度)というメリットは享受できる。
現行案では、地下鉄が4両、西鉄が2両の直通用車両を用意し、貝塚で分割併合。地下鉄線内は6両、西鉄線内は貝塚で4両を切り離して2両の運転とすることで、西鉄側のホーム延伸をはじめとした設備投資を極力抑制する案となっている。事業費として50億円が見込まれている。
貝塚駅で連結・分離の新案、福岡市営地下鉄・西鉄直通運転計画 : お出かけ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
メリットとしては西鉄側の設備投資が抑えられ、また西鉄新宮までの全線直通が可能なこと、および現行の箱崎線〜空港線直通電車と同じく西新・姪浜までの直通運転が可能で、中洲川端止まりでなく天神まで乗り換え無しのダイヤを維持できる、といったことが挙げられる。しかし、車両数は増えないため、千早→貝塚の混雑が解消できないのはデメリットである。直通運転による乗り換え解消・時間短縮による誘客効果も見込めるだけに、この案では千早→貝塚の混雑がさらに悪化する懸念がある。折衷案として2+4両ではなく3+3両とする案も考えられなくないが、今度は混雑が酷いとは言えない新宮寄りの末端区間までホーム延伸が必要になる上、日中は輸送力が過大になってしまう。
また、それまで検討されていた案としては、地下鉄・西鉄がそれぞれ3両編成を用意し、直通電車は3両、箱崎線内折り返し列車は6両とするもの。3両編成では地下鉄線内の混雑に対応できないため、天神に折り返し設備を新設するとしていた。
しかし、貝塚線直通と箱崎線内折り返し列車の混雑率の差が甚だしくなるのは目に見えている上、ラッシュ時は3両編成が空港線内に割り込めないために中洲川端止まりとなる可能性が高く、現行の貝塚乗り換えが中洲川端乗り換えに移るだけとなる公算が強かった。また、繁華街の天神に折り返し設備をわざわざ新設するため、事業費も250億円と高額であった。
この点、西鉄香椎までの直通運転とすれば、ホーム延伸はすでにスペースが確保されている名島・西鉄千早・香椎宮前・西鉄香椎のみで済み、編成も6両となるので千早→貝塚の混雑緩和にも寄与する。西鉄側で用意すべき直通運転用車両は6両編成×3本程度と見込まれ、この案であれば分割併合などの特殊装備も必要ないため、福岡市地下鉄と同じ車両を導入すれば良い。些細に検討したわけではないが、おそらく現行案とそう事業費が変わることはないだろう。
問題としては、並行して走る都心直通のバスを走らせている西鉄の同意をいかにして得るかに尽きる。先述したように、貝塚線利用者と比べてバス利用者は倍近い運賃を西鉄に払ってくれるわけで、そのバスの乗客を奪う提案に、西鉄がやすやすと乗ってくれるとは思えない。
しかし、ここで取り上げなくてはならないのが、バス運転士の慢性的な不足という問題。当の西鉄も、運転士不足を理由としてバスの本数の増発どころか維持ができず、福岡都心でも深夜帯の減便や、渡辺通りなど複数系統が束になる区間の減便などが断行されている。
今までは「西鉄バスが運びきれない乗客を貝塚線がフォローしている」体制といっても過言では無かったが、昨今のバス運転士不足という情勢を鑑みると、地下鉄・貝塚線に並行するバス路線についても、その維持は容易ではないだろう。箱崎線・貝塚線という既存インフラがありながら、並行する西鉄バスの存在のために、鉄道はその機能を満足に果たせていない。幹線的輸送は鉄道に任せ、バスは鉄道が行き届かない地域や、鉄道では乗り換えが避けられない路線などに注力してゆくべきではないだろうか。
天神直通のバスが当たり前であった渡辺通りのバスですら西鉄大橋駅乗り継ぎに改められたという出来事は、西鉄バスの在り方の大転換を象徴している。貝塚線もそれに続くと考えるのは、早計だろうか。
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貝塚駅で足早に西鉄と地下鉄の改札口を行き来する人の波を見ていると、貝塚線が北九州まで繋がっていれば、こんなことにはなっていなかったのになあ…と、天神大牟田線との生まれの違いから来る不遇ぶりを思わずにはいられなかった。
傍流の存在が生きながらえるのは、人も鉄道もなかなか難しい。
(西九州編 おわり)