関西

【兵庫】ニュータウン開発に消えた渓谷をゆく鉄道──国鉄福知山線廃線跡(生瀬─武田尾) #36

廃線跡巡りスタート地点へ

生瀬バス停を出て、武庫川に沿った国道176号を歩く。国道を往来するクルマは多く、歩道があるとはいえ人ひとり分の幅しかないくらいのところもあり、歩行環境はあまりよくない。路肩を歩かされるよりはマシだけれども。

国道をビュンビュンとクルマがすっ飛ばしていき、天には中国自動車道の巨大な高架橋が山々を貫いている。スタート地点あたりまでは福知山線もあまりルートが変わっていないので、国道のすぐ裏を走っているのだが、線形改良のため鉄道は既にトンネルに入った後で、鉄道の痕跡はあまり感じられない。しかし、国道から緩い角度で分かれ、ゆっくりと武庫川の川面に近づいていく道路があった。これは旧福知山線の線路跡とみていいだろう。旧福知山線は生瀬駅を出ると、あとはひたすら武庫川のすぐ横を走っていくルートであったからだ。

中国自動車道の高架をくぐると、「木ノ元このもと」バス停に着く。廃線跡巡りの場合は、ここで国道から武庫川沿いへと下るよう、生瀬駅で貰った地図に書いてあった。宝塚駅から木ノ元バス停までは1時間2〜3本程度の運転があり、武庫川の対岸にはこのバス停を起点とした住宅地も広がっている。ただ、武庫川に向かって落ち込む山の斜面を切り開いた場所であろうことは容易に想像でき、二階建ての一軒一軒がきれいに階段状に並んでいるのは、かなりの傾斜である証拠。横浜や横須賀の丘陵地でも似たような景色を見るが、ここまでの深山にまで開発が及んでいる景色にはあまりお目にかからないのは、やはり関東平野の中であり、標高が大したことないからだろうか。

国道から外れると、古くからの集落の中を通っていく。いよいよ廃線跡という段になると案内板が現れ、「ここから先 武田尾駅までトイレ・脱出路はありません」といった旨を強調していた。確かに、ルート変更前の生瀬─武田尾間に途中駅はなく、並行する道路や集落もない。そのため、廃線跡を歩いている途中で体調を崩しても救急車は近づけないし、用を足したくなってもトイレはない。要は登山と同じで、歩き切るか引き返すかしかないのだ。

「最後のトイレ」を過ぎ、かつての保線作業用と思しき急な石段を下りると、いよいよ廃線跡。急峻な渓谷にあって線路の幅ぶんの平地が伸び、それも登坂能力に劣る蒸気機関車に合わせ、勾配も少ない線路跡が、まっすぐ伸びていた。おお、これぞ線路跡だ。

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国策遂行のための鉄道だった福知山線

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