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【山梨】「道志バスみち」と特急「富士回遊」の行く未来――富士急山梨バス道志線・富士急行線 #49

富士急行という大手企業の片隅で、ひっそりと走る道志村の路線バス。実際、収支としては赤字に決まっているし、営利企業として何が何でも維持しなくてはならない道理はない。

しかし、富士山麓の観光開発を通じての運輸・レジャー事業を企業の大黒柱としている以上、地域貢献という道義的責任が求められるところ。もし親会社が富士急行でなかったら、道志村の路線バスは早々に姿を消していたかもしれない。

▲最大でも1日4本の「道志小学校行き」

道志村の愉快なバス運転士

翌、10/14(日)。キャンプ場を出て麓の「道志みち」国道413号に戻り、「道の駅どうし」の脇にあるバス停「神地橋かんじばし」から、再び富士急山梨バス道志線・山中湖旭日丘ゆきに揺られた。

この日は日曜日であり、同じ富士急山梨バスの都留市―道志線、および神奈川県側の神奈川中央交通[三56]三ケ木―月夜野線も運休。また、平日であれば、朝夕1往復ずつ走る富士山駅―道志小学校直通便も、この日は日曜日のために運休。従って、日曜日に公共交通機関で村の外に出るには、4~11月のみ毎日運行となる、道志小学校10:40→山中湖旭日丘11:30か、道志小学校15:00→山中湖旭日丘15:50の2便に乗るしかない。

バス停付近に立つと、月夜野・相模原方面の車線にはポールが立っているが、山中湖・富士吉田方面の車線には何もない。しかし、そのポールに近寄ってみると、上下両方の時刻が書いてあった。つまり、2本立てるほどの本数がないので、1本のポールを上下共用としているのだ。まあ、そもそもが自由乗降区間だし、ポールがどこに立っていようが関係ないといえば、関係ないのだが。

しばらく待っていると、定刻通りバスがやってきた。扉が開き、PASMOをタッチ。案の定、他に乗客はいなかった。

「あれ、15:09発で帰るんじゃなかったでしたっけ?ははは」

昨日と同じ、愉快な乗務員さんだった。「いや、キャンプの引けが早くって」

なぜここまで乗客の行動を気にするかといえば、1日2便しかないために、逃したら行き倒れるという可能性もさることながら、「行方不明になる」ことを防ぐためだろう。これだけ深い山の中、降ろした観光客が戻ってこなかったら大変だ。そういえば、伊豆の山中で乗ったバスでも、「●人のグループを登山口で降ろした」ということを、降ろしたバスの乗務員さんがすぐさま無線で他のバスや営業所へ情報共有していたのを思い出した。

10:59、神地橋発。富士急山梨バス道志線、山中湖旭日丘ゆき。

道志みちを淡々と走る。他に乗客がいないので、自然と乗務員さんとの会話が弾む。

「山中湖のあたりで昼飯どこにしようか考えているんですけど、どこかいいところありますかね?」

「和食だったら、浅間茶屋せんげんぢゃやってのがあって、ほうとうなんか食べられるね。その先にイタリアンのマ・メゾンってのがあって、ここなんかはゆっくりできるんじゃないかな。ピンとこなかったら、その先にガストがある。ロイヤルホストもあったんだけど、撤退しちゃってね。若い人は、ほうとうなんか好きじゃないんじゃないの?」

さすがは地元の乗務員さん、観光案内もお手の物だ。

「でも、やっぱり山梨に来たんですから、ほうとうもいいなって思いますよ」

「そんだったら、このバスは旭日丘に11:30に着きますから、11:47発の河口湖行きに乗り換えて、『一の橋』ってとこで降りれば、浅間茶屋が目の前ですから。ちょっとお店の様子を見てみて、気に入らなかったらマ・メゾン、その先にガスト。あそこも自由乗降だから、乗るときは手を振ってくれれば停まりますんでね」

月夜野―長又線の折り返し、長又の近くに、「スクールバス」サインが掲出された観光車が停まっていた。平日は道志小学校、中学校へのスクールバスになるのだろう。

▲せせらぎの傍らを走る
▲山伏峠に近づくにつれ険しい道になってゆく

気になっていた、1本しかないバスポールについて聞いてみた。

「神地橋から乗るとき、ポールが反対側にしかなくて、探しちゃったんですよ。そしたら、上下共通なんですね、あれ。近寄って見たら、上下の時刻が書いてあるから、やっぱり1本しかないんだって。そんなに来ないから、1本で足りちゃうのかなって思いました」

「あー、あれね。本当はね、国道だったら上下に置かないといけないって決まってるんだよ。なんだけどね、道志村は国道扱いされていない(笑)ローカルのところはね、本当に1本なんですよ。国道は2本ないとダメなんだよ、ここも国道413号なんだけどね。だから、山中湖平野を過ぎると、2本になるんだ」

確かに、最大でも片道4本しか走らない路線に、上下1本ずつのポールを置くのはムダなようにも思う。しかしまあ、幹線とローカル線でポールの扱いが違うとは思わなかった。

▲台風復旧の工事を予告する看板
▲修復されたばかりの法面が痛々しい。神奈川県側の被害が目立つが、山梨県側も台風の被害は大きかった

いつしか、乗務員さんの身の上話になった。

「道志村の担当になって、長いんですか?」

「いや、これで11か月になるかな。富士急行を定年になって、それで富士急山梨バスに来てね。アルバイトみたいなもんだよ。富士急行にいた頃は御殿場の営業所にいてね。イベントのすんごい多いところだったから、波動がすごくて大変だったよ。アウトレットだったり、富士スピードウェイだったり。あとは、年に1回の総火演ね」

ベテランの乗務員さんは、往時を懐かしむように語ってくれた。そのうちに山伏トンネルを越え、道志村を離れた。

▲山伏トンネルを抜けると山中湖村に入る

トンネルを抜けると、すぐに「山伏峠」停留所。バスが待避できるスペースがあり、一般車が追い越していく。停留所というよりも、バスが道を譲るための待避所としての機能が大きいだろう。周囲を見渡しても、急斜面の山林が広がっているだけだ。

▲山伏峠停留所で道を譲る

「道を開けないと苦情が来るんだよ。富士急の道路じゃないんですから、ってね。」

バスが待避所に入るのを待ちかねたように、佐川急便のトラックが駆け抜けていった。こんな山道であっても、いや、山道であるからこそ、通販の需要もあるだろう。バスが肩身の狭い思いをするのは、法定速度を守って走る以上、致し方のないことなのかもしれない。

▲災害時の交通を規制するためのゲートが用意されていた。災害の多さを物語る

「冬は嫌ですよ、このカーブ。私が来る前は、ほかの運転手さんは交代で道志村に来ていたからね。私が道志村専属になって、みんな喜んで。会社の運行管理者も、いやー、あなたが来てくれて助かるよー、ってね。絶対事故しないし、安心しましたって。もう38年無事故やってるから、それが私の自慢」

積雪時の峠越えなど、ヒヤリとすることもあるに違いない。その中でも無事故を貫けるのは、ベテラン乗務員さんならではの技術あってのことなのだろう。

▲山中湖へ近づき、コンビニの看板が現れ始めた
▲山中湖村へ入っても「道志みち」

「私は昭和○年にバスの運転手になったんだけど、そのころは東京の営業所にいたの。高速やって、そのあと貸切になって。もう、冬になると、毎日スキー場。新宿、池袋、東京駅八重洲口、その辺から、毎晩だよ。碓氷峠うすいとうげで事故になったところあるでしょう、あの辺なんて毎晩通っていたよ。あの頃はまだ上信越道がなかった。高速を使っていいツアーだと、前橋まで使っていいよ、とか。中には、往復・全区間高速使っていいよ、って会社もあったから。スキー場に着くのは、19時くらいに出発するけど下道で行く会社のツアーより、0時過ぎに出発するけども高速を使っていい会社のほうが早かった。我々にしてみれば、一番いい仕事だったよ。だけど、稼ぎたい運転手さんなんかは、下道のほうが拘束時間が長いから、そっちのがいいって人もいた。やっぱり、ハンドル握ってなんぼの業界だからね」

バスの事故というと、群馬・長野県境の国道17号碓氷バイパスで2016年に発生した「軽井沢スキーバス転落事故」が記憶に新しい。無理な行程、不慣れな乗務員、夜間の雪道という悪条件が祟って事故に至ったものであるが、この事故をきっかけとして、バス乗務員の待遇や、貸切バスの旅程に踏み込んだ規制がかかった。この乗務員さんにとっても、無縁ではなかっただろう。

▲はるか「小田原」「御殿場」が控える山中湖平野

石割山ハイキングコース入口を過ぎると、まもなく山中湖平野バスターミナル。山伏峠から山を下ること5分ほど。だんだんと建物が増えてきて、すっかり地形の険しさは影を潜めてしまった。

「昨日、ここの石割山ハイキングコースで降ろした人が戻ってこないなあって思っていたら、山中湖の方に縦走していったみたいでね。営業所に戻ってそれを聞いて、安心したよ」

降りた乗客の行方は、かなり心配するらしい。この言葉からも、それを感じた。

山中湖平野バスターミナルでは、始発の高速バス新宿行きが待機していた。富士急と相互乗り入れの関係にある、京王の高速バスだった。

▲京王の高速バスが待機する山中湖平野バスターミナル

例によってバスターミナル内を一周すると、京王の乗務員さんが「○」のサインを出していた。「山中湖平野からの乗客無し」という意味合いだろう。待機中の高速バスに隠れて見通しが効かないところを、乗務員さん自らフォローしているというわけだ。

▲他社であってもバス乗務員さんのコミュニケーションは欠かせない

「すいませーん、ありがとうございまーす」と、富士急の乗務員さんが、京王の乗務員さんへ、車外スピーカーで答えた。バス会社を越えた連携がなされており、感心する。

「暖房止めてもいいですかな。暑くなってきちゃった」

地形の関係だろうか、標高差はそれほどもないのに、山中湖村は道志村よりもやや暖かかった。乗務員さんも腕まくりをし、終点・山中湖旭日丘バスターミナルまでのラストコースへと踏み出す。

「お兄さん。ここからは、高速バスで帰るんですか」

「いえ、富士山駅か河口湖駅まで路線バスで出て、それから電車で帰ります」

「ああ、高速バスじゃないんだね。路線バスだったら、あの辺も自由乗降だから、バスが来たら大きく手を振ってくれれば、止まりますよ。なかにはあそこが自由乗降だって知らない運転手もいるからね。自由乗降だってわかんないで、行っちゃうのがいるから、気を付けてね。もう、思いっきり手を振ってもらって。止まれ止まれー、って」

▲山中湖畔の立派なこの道路も「道志みち」と同じ国道413号

終点・山中湖旭日丘まであとわずかの「撫岳荘前ぶがくそうまえ」で、時ならぬ多くの乗客が待っていた。道志村を出て以来ずっと貸切だったので、終点を目前にようやく新たな乗客を、それも10名以上迎えるかと思いきや、誰も乗らない。

▲思いがけず出会った多くの乗客

「高速バスですか?京王さんがこの後来ますんで、もう少々お待ちください」

車外スピーカーでバス停の乗客に呼びかけると、さっさと出発してしまった。さっき山中湖平野で待機していた、京王高速バスの乗客だったようだ。

▲山中湖旭日丘バスターミナルの近くで待機する高速バスたち

最後に、積雪地ならではの質問をしてみた。

「富士五湖のあたりは雪が降ると思いますが、スキー場ってあまり聞かないですよね。スキー場は無いんですか?」

「スキー場は確かにあんまり聞かないね。御殿場のイエティがあるくらいで。鳴沢村に富士天神山スキー場(現・ふじてんスノーリゾート)、御坂峠を越えた先にカムイみさかスキー場・・・くらいかな。御坂のは、ドームになってて夏でもできるんだよ」

考えてみれば当たり前だが、富士山のあの裾野の長さではあまりに緩斜面過ぎて、スキー場には不向きなのだろう。もっと起伏のある地形の方が、スキー場には有利だ。

▲山中湖旭日丘バスターミナルへ到着
▲富士急の原点、山中湖の別荘地開発はいまだ健在

道志村から50分弱。僕だけを乗せたバスは、とうとう僕以外の乗客を乗せないままだった。

「大変お疲れ様でした。次は終点、山中湖旭日丘、山中湖旭日丘でございます」

11:30、山中湖旭日丘バスターミナル着。

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「道志バスみち」を観光ルートに

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