伊良部ブルーの海を渡る
実業高校前を出て、伊良部大橋を渡るまでの間には「ファミリーマート宮古久貝店前」「カーサフェリーチェ前」「ドリームキャッスル前」の3つの停留所があるが、どれも乗降ともなかった。
ファミマはともかく、後者2つはホテルか何かかと思っていたが、どうやら賃貸マンションらしい。賃貸マンションの名を停留所名にしてしまうとは…名付け方の流儀も、沖縄では一味違うようだ。もっとも、平良市街は別として、このあたりの久貝・久松あたりまで来ると3~4階建ての高層建築は少なくなるため、ランドマークとして機能するのだろう。ただ、宮古島最後のバス停である「ドリームキャッスル前」は廃止された(旧)宮古協栄バス【7】久松線・久松地区への最寄りであるため、「久松入口」など、「久松」を冠した名でもよかったのではないか、とも思う。
「ドリームキャッスル前」で久松地区への道路が分岐すると、いよいよ伊良部大橋への取り付け部分に入る。この先、停留所は伊良部島に入ったしばらく先の約9kmにわたり無いため、満員のローザはスピードを上げていく。
そして視界がぱっと開けると、今回のハイライト、全長3,350mの伊良部大橋に入る。
海流や地形の関係から、緩い弧を描く伊良部大橋。一直線でなく緩い弧を描くために、目の前に広がる「伊良部ブルー」の海が、より広大に感じられる。これほど爽快な道路橋は、そうお目にかかれるものではない。
しかしながら、毎日2回もこの橋を渡る高校生にとっては、海が青いことなど当たり前。彼らの殆どはスマホに画面を落とすか、うたた寝しているかのどちらかであり、東京の通勤電車とと何ら変わるところはない。右へ左へ忙しく首を動かしているのは、唯一の観光客たる自分だけ。余所者であることは隠せない。
来間大橋(1,690m)は片側に歩道があったものの、伊良部大橋は全長3,350mとほぼ2倍の長さがあるためか、歩道は整備されていない。その代わり、舗装面がベージュに色分けされた路肩が両側に設けられており、ここを自転車で走る高校生らしき人影とすれ違ったのには驚いた。中央部と伊良部島寄りのもう1か所、計2か所が船舶航行のため高くなっているため、伊良部大橋はそのイメージに反してアップダウンが激しく、洋上だけあって吹き付ける風も強い。ここを自転車やランニングで渡るとは、相当な健脚の持ち主である。
海の色が洋上のブルーから珊瑚礁の色になり、約5分で橋を渡り切った。島に取り付いたところがT字路になっており、左が長浜・佐和田・下地島方面、右が佐良浜方面に分かれる。このバスはまず佐良浜方面へ向かい、それから島を横断するルートを採るため右折。
正面は伊良部島の主峰・牧山(標高88m)が聳え、崖になっていることから、島に取り付いたら激突して左右に分かれるしかないのだ。この牧山からは宮古諸島がすべて見渡せるというが、展望台の入口は山の反対側であり、バスで訪れることはできない。
伊良部島に入っても佐良浜港までさしたる集落は無いため、3.5kmにわたり停留所がない。宮古島と違い、海の近くまで迫る崖の下をバスはスピードを落とさずに駆け抜けていく。
平良港から25分、伊良部大橋の手前・ドリームキャッスル前から15分で、伊良部島最初の停留所「みやげ品店ふるさと前」に到着。ここで早速2名が降りた。崖の中腹のような場所で、ここから崖を上るのかと思いきや、反対に転げ落ちるような急斜面を、そろりそろりと下りていく。車高が低いノンステップバスでは尻餅をつきそうなくらいだ。
崖を下りきったところがかつての伊良部島の玄関口「佐良浜港」。だが、漁港となった佐良浜港に、バスを待つ人の姿はなかった。漁協の建物をはじめ、周囲には漁師料理の店が立ち並んでおり、カーフェリーや高速船が発着した当時の賑わいを感じさせる。
「通り池」や「渡口の浜」「佐和田の浜」といった伊良部島の観光スポットは、伊良部大橋から下地島空港にかけての西部に集中するため、東部の佐良浜地区は観光ルートから外れてしまっている。3/30から走り始める宮古協栄バス【9】みやこ下地島空港リゾート線も、下地島・伊良部島に空港を含め5つの停留所が設けられるが、空港から宮古島を最短距離で結ぶため、遠回りになる佐良浜は経由しない。佐良浜を経由する【7】共和バスも空港への乗り入れはせず、【7】と【9】が接続する停留所も設けられない(※)ため、乗り継ぎもほぼ不可能なため、下地島空港と佐良浜の間はタクシーを利用するほかない。佐良浜港が玄関口でなくなり、観光ルートからも外れてしまった佐良浜地区が、今後どのように歩んでいくかは、気がかりなところだ。
※・・・共和バス【7】「ダキフガー」停留所と、宮古協栄バス【9】「渡口の浜入口」停留所は約950m・徒歩10~15分の距離。ただし、空港→佐良浜方向は「渡口の浜入口」11:07着→「ダキフガー」12:07(頃)と約1時間待ち。反対の佐良浜→空港方向も「ダキフガー」9:43(頃)着→「渡口の浜入口」9:53発とこちらはカツカツで、当然ではあるが接続が考慮されているとは言えない。【9】は既存の【7】共和バスに配慮してか、ルートが重複する区間においては停留所を設けていないため、今後はダキフガー等に【9】が停車して接続を図る、などの可能性はある。
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次回は、佐良浜地区に位置するマイクロバスならではの狭隘区間や、終点・佐和田車庫の様子を述べつつ、3/30のみやこ下地島空港再旅客化を控える伊良部島のバスの姿について、考えてみることとしたい。
(つづく)