九州・沖縄

【沖縄】フェリーに代わって伊良部島へ――共和バス【7】伊良部佐良浜平良線(1) #56

宮古病院から高校生で満席に

平良港を出たバスは、次の「公設市場前」まで他社のバスと同じように下里通りを通っていく。以前は公設市場前を経由せず、海岸沿いの「マティダ市民劇場前」を経由していたため、共和バスを利用して市役所などの平良市街へ向かうには、平良港から坂道を上がらなければならなかった。しかし、2018年に公設市場前経由に改められたことで、市役所へは公設市場前から徒歩数分と短縮され、坂道を上がる必要もなくなったのは改善点だ。2015年の伊良部大橋開通当初は、平良港―公設市場前の1区間とはいえ、既存の宮古協栄バスとルートが被らないように市民劇場前経由としたのだろうが、やはり利用者の要望は多かったのだろう。共和バスが宮古島を走り始めて3年が経ち、協栄バスとの連携体制が整いつつあるということなのかもしれない。

ちなみに、共和バスの経路変更によって、「マティダ市民劇場前」を経由するバスが一旦消滅していたものの、3/30から宮古協栄バス【9】みやこ下地島空港リゾート線の途中停留所へ再利用されることとなった。【9】は平良港バスターミナルを経由しない代わり、平良港ターミナルビルを挟んで徒歩1分程度の市民劇場前停車としたものと思われる。ただ、他路線との連携を考えると、積極的に案内でもされない限り、旅行者が「マティダ市民劇場前」と「平良港」がほぼ同一停留所であることはわからない。運行面では効率的だが、不慣れな乗客が多いエアポートバスでそのような扱いをすることに、いささか疑問を覚える。

▲伊良部大橋開通後の2015年から、2016年の(旧)宮古協栄バス【7】久松線(駐車場前―久松)廃止までのバス路線図(宮古島市役所HPより)。末期の久松線は1往復のみの運行だった。(現)共和バス【7】伊良部佐良浜平良線が近接したルートで前年から走り始めたのも廃止の一因だろう。2017年に共和バス【7】がマティダ市民劇場前経由から公設市場前経由に変更されたことで、(旧)宮古協栄バス【7】久松線のバス停は大部分が共和バス【7】でカバーされた。

その公設市場前では2名が乗車。いずれも手に買い物袋を提げており、平良市街からの買い物帰りということがわかる。ルート変更の面目躍如といったところ。

ちなみに、マイクロバスとあっては整理券も(自動の)運賃箱もなければ、アナウンスも当然ない。運転席横に小銭がザッと置かれているほか、手押し式の簡易的な両替機があるだけだ。顔を見れば、どこから乗ってどこで降りるかはすぐわかるからだろう。毎日のように乗る高校生や、病院へ通う高齢者はそれこそ乗る停留所も降りる停留所も決まりきっているし、旅行者はそもそも殆ど乗らない。どれもこのマイクロバスには必要ないものなのだ。

次は「実業高校前」。その名の通り沖縄県立宮古実業高校の最寄りで、普通科がなく農林・水産系の学科で占められる。伊良部島は「漁師の島」としても知られることから、この高校で水産系を学ぶ伊良部島民は、きっと多いはずだ。

宮古島の高校はそのほか県立宮古高校(普通科)・県立宮古工業高校(工業科)の3校で、いずれも平良市街に立地する。

ただ、宮古高校は公設市場から徒歩16分となんとか徒歩圏内だが、宮古工業高校は同じく公設市場前から徒歩32分とかなり遠い。最寄りは宮古協栄バス「下地鮮魚店前」となり、ここからは徒歩7分程度だが、佐和田車庫7:00発→平良港7:50着の共和バスから乗り継げる協栄バスはない。唯一8:10発がその方向へ向かうが一つ手前の平良(車庫)止まりで、8:15着の平良(車庫)から工業高校までは徒歩16分を要し、8:30の始業には間に合わない。

このため、伊良部島から工業高校へ通うには、7:48(頃)着の公設市場前から32分を歩かなければならないのが実情である。バスの設定が噛み合っていないせいで、高校生に負担を強いていたり、あまつさえ進路選択の幅を狭めているのには、もう少し何とかならないものかと思う。もっとも、伊良部島から工業高校に通う生徒がどれほどいるかは、よくわからないが。

また、伊良部島に県立伊良部高校があるが、2019年度以降の募集停止が確定しており、在校生が卒業すれば廃校となってしまう。

伊良部高校 来年度から募集停止/県教委が正式決定 | 宮古毎日新聞社http://www.miyakomainichi.com/2018/07/110749/

伊良部の子どもは伊良部で育てるべきだという意見もあれば、より充実した教育を受けられる宮古へ通わせるべきだという意見もあったことだろうが、一学年の人数が10名を切るような状況であれば、集団行動が身につきにくくなり、学校の存続が難しくなるのも道理。新聞を読んでみても、「生徒数が少なすぎて部活動ができないのは可哀想」「宮古へ通いやすくなったのだから、宮古へ流れるのは仕方ない」といった意見が多かった。

共和バスにとっては、伊良部島から平良へ通う高校生は大切な乗客であり、伊良部大橋の開通は乗客増に貢献している。しかし、伊良部島の人口減少もさることながら、伊良部高校にとっては、伊良部大橋の開通・バスの運行開始が、高校の存続にとどめを刺す形となってしまった。ある種の弊害と言えるのかもしれない。

視界に沖縄県立宮古実業高校が見えると、やおらマイクロバスは高校に背を向け、向かいの沖縄県立宮古病院へと入っていった。路線図にない動きであり、どうしたことかと思っていると、病院の正面玄関に高校生が大挙して待っていたのだった。

実業高校前バス停は、なんと高校向かいにある沖縄県立宮古病院の正面玄関に設けられている。確かに病院の正面玄関であればスペースも広く、余裕を持ってバスを待つことができる上、高校生と並ぶバスの主要な乗客である高齢者にとっても、便利なことこの上ない。高校が病院の向かいにあるという立地を活かした方策であり、その柔軟な運用には感心する。

この便は平良港15時発と、放課後の第1便であったために高校生が15名ほど乗り込み、病院帰りの高齢者も2名乗車。運転席横の補助席にも高校生がかまわずどっかりと座り込み、うずくまってうたた寝を始めてしまった。何も知らない旅行者は、その光景に思わず呆気にとられてしまう。

平良港・公設市場前で自分を含め5名が乗っていたため、正座席の定員が22名しかない三菱ふそう・ローザはたちまち満席になった。まさか満席になるほど乗るとはなぁ…。マイクロバスらしからぬ熱気に包まれ、転回して病院の敷地を出る。15:08、実業高校前発。

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「伊良部ブルーの海を渡る」

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