九州・沖縄

【沖縄】昔はフェリー、今はバス――共和バス【7】伊良部佐良浜平良線(2) #57

静かな町と静かな浜…佐和田車庫

乗務員さんは、降車点検を終えると、「時間までに戻ってきてね」と一言だけ残し、さっさと営業所に引っ込んでいってしまった。折り返し16:30の発車まで約40分、佐和田の町を少しだけ歩くことにした。

木造平屋に赤瓦…といった古典的な景色が立ち並んでいるわけではないが、年季を重ねたコンクリート塀に、これまた年季を重ねた背の低いコンクリート建築の戸建が連なり、これぞ沖縄の田舎、といった素朴な景色。騒々しい人工音は聞こえず、さとうきびがざわわと揺れ、ただただ風が通り抜けるだけ。ひと気もないので、どことなく寂寥感を催すものがあるが、そこはやはり沖縄。日差しの穏やかさが、その寂しさを打ち消してくれる。

小さな佐和田の町を通り抜けると、「佐和田の浜」に出る。ここまで来ると多少観光要素が出てきて、立派なリゾートのコテージが立ち並んでいたりする。さっきまで見ていた黒ずんだコンクリート建築とは明らかに異質な、眩いほどに白いコテージ。この「フェリスヴィラスイート伊良部島・佐和田」は2018年にオープンしたばかりだそう。やはり伊良部大橋の開通が、こうした観光開発の呼び水になっていることは間違いない。何もない、静かな浜であるからこそ、こうした「プライベート」「静かさ」を売りにした開発の波が届く、というわけだ。

松林に沿って歩くと、佐和田の浜の正面に出た。佐和田車庫から徒歩10分くらいか。透き通るエメラルドグリーンが印象的な東急ホテル前の与那覇前浜ビーチと違い、佐和田の浜の海は深みのある、朝顔の花のような青色。ところどころに在る、三角形の岩が景色のアクセントになっている。なるほど、これは景勝地と言ってもいい、素敵な浜だ。

与那覇前浜ビーチと違い、観光客の嬌声も聞こえない。聞こえるのは、ただ浜に打ち寄せる波音と、たまに聞こえる海鳥の声だけ。しばし時を忘れ、ビーチに身を横たえた。目を閉じれば、癒しの波音が、身体に染み入ってくる。なぜか波音に癒しの力を感じるのは、胎児の記憶が残っているからだろうか。

もと来た道を引き返し、佐和田車庫へ戻る。街路樹が植わった歩道まである立派な県道であるが、交通量はごく少なく、たま〜にオジイ運転の軽トラが、自転車のようなスピードでノロノロと走るだけ。島にはそんなに急ぐ用事がないのだ。

台風に備えた質実剛健なコンクリート建築が連なる家並みは、現代沖縄の景色であると思う。煌びやかなリゾートだけを見ていたのでは決してわからない、島の生活が見えてくる。突起物を極力造らず、突風を受け流すように角を丸く造ってあるのも、沖縄コンクリート建築の特徴と言える。そういう家並みゆえにあまり家ごとの個性がなく、屋根や外壁の色が違うといったことも少ない。

同じようなグレーの建物が延々と連なり、しかも突風避けのためにこれまたコンクリート壁で覆ってあるものだから、視界一面グレーの景色と言ってもいい。青い空に白い雲に琉球建築の赤瓦…なんて景色とは程遠いが、これもまた沖縄の景色なのだと思う。しかし、そういった無味乾燥な景色の中にこそ、ごく普通の沖縄の暮らしがあるということも、意識の中に留めておきたいものである。

(次ページ)
「宮古のファミマまで!」

1 2 3 4