古き下館から新しき筑西へ
その後も市街地を歩いたが、固く閉ざされたままの映画館跡や、時を重ねすぎたコンクリート建築がうらぶれた姿を晒しているのが、どうしても目立つ。それも、映画館は1件ではなく、複数件が複数件とも扉を閉ざしていた。
郊外のショッピングモールにシネマコンプレックスが建ち並ぶ今となっては、こうした街中の映画館はどこも厳しい。お隣、福島県いわき市のいわき駅前の映画館「ポレポレいわき」が、いわき市郊外にできたイオンモール小名浜へ、テナントとしてシネマコンプレックスを出店したという事例があるくらい。体力のある映画館はまだいいが、こうして下館のように市街中心部から映画館が姿を消してしまった街は多い。
こうして小さな映画館が何件も軒を連ねるあたり、かつての下館の繁栄ぶりが伺えるというものだ。ただ、どこも荒廃が進んでおり、景観もよくないし、場所によってはガラスの破片や朽ちた手すりが放置されていたりして、危険な状況になっている。下館駅から徒歩数分と交通至便な地にありながら、駐車場の問題からか、なかなか利活用が進んでいない様子なのは、なんとももどかしい。
しかしながら、下館駅から真北へ伸びる目抜き通りだけは、無電柱化や歩道の修復が終わり、新たな筑西市の景観を作り出しつつある。その中でも新生・筑西市のシンボルとして機能しているのは、しもだて地域交流センター・しもだて美術館を併設する「アルテリオ」だろう。
中に入ると、重さ2トンにものぼる下館羽黒神社の大神輿が展示されていた。あまり知られていないが、重さ2トンとは重いことで知られる浅草・三社祭の宮神輿(約1トン)を抑え、日本一の重量だそう。確かに、目の前で見るとすごい迫力だ。交流センターの真ん中に展示されているあたり、城下町・下館のシンボルであることが窺えた。隣には「ペットボトルで作られた宮神輿」も展示されており、こちらは「世界で最も多くのペットボトルを用いた作品」というカテゴリのギネス記録。ギネス認定証が誇らしげに展示されていた。
アルテリオ内には小さな喫茶店や、筑西市のお土産品を陳列したショップもあり、なかなか洒落た雰囲気だ。日曜日の昼過ぎだったが三々五々に人々が集まってきて、「ちょっとお茶しに来ました」みたいな家族連れもいた。決して大きくないながらも、近代的な外観とコミュニティ創出機能を両立しているようで、好ましい印象を覚えた。「ふれあい~」とか「ひだまり~」みたいなありがちな名前でなく、伊語「arte(芸術)」+「lilio(百合)」の造語で「アルテリオ」ってのも、潔くていい名前じゃないか。
ところで、アルテリオ北側の交差点は「田町」といい、西側は「本城町」、東側には「金井町」「桜町」といった交差点名が連なる。アルテリオも「末広町」に属するのだが、住所はなんとも無味乾燥な「筑西市丙372」。丙とは言わずもがな甲乙丙の丙であるが、決して丙だから格が劣るとかそんなことはなく、旧市内を便宜的に甲乙丙に区分したものがそのまま地名として採用され、1889年の真壁郡下館町発足以来変わっていないのだという。下館祇園祭の際には各町単位で神輿を出し、自治会も各町単位で運営されているというが、この住所は実態に合っていないとしか言いようがない。郵便物も「茨城県下館市本城町甲・・・」のように旧町名と甲乙丙を併記する例が多いといい、混乱を来している。
地元では甲乙丙を旧町名へ改称しようという署名運動が行われているというが、歴史ある「下館」の名が住所から消えたというのも残念であるし、「下館+(旧町名)」に改称してはどうだろうか。例えば、アルテリオであれば「茨城県筑西市下館末広町372」といった具合だ。こうすることで、旧町名を保存しつつ、「下館」の一体感を醸成できるように思うがいかがだろう。ただ単に旧町名に改めるよりも、外部へのアピール効果は高いと思う。
さて、丙ならぬ末広町のアルテリオから、乙ならぬ田中町の下館駅へは徒歩7分ほど。下館駅へは一本道で、ここが下館のメインストリートと言ってよい。古いままの建物もあるが、大部分は無電柱化と歩道の修復を完了しており、近代的なマンションが建っている区画もある。マンションの1階には地元不動産業者が入居しており、人の動きを感じさせる。
建物が新しいながらも歴史的景観に配慮した和菓子屋や、なまこ壁風の外観のレストランもあり、好ましい雰囲気。時代の要請に合わせながらも、旧城下町の歴史を感じさせる風景は、古い「下館」から新しい「筑西」へのステップアップを目指さんとする、町の底力を感じさせてくれた。新しいマンションや、近代的なレストランが建つほどには、下館…いや、筑西の街には元気がある。新しい時代への希望を、この駅前通りには感じた。
再びステンドグラスが印象的な下館駅に戻り、常総線ホームに立った。待っていたのは、守谷で見送った最新鋭のキハ5010形。やはり歴史を重ねた駅名標と、まだまだピカピカのキハ5010形が好対照だ。
地方都市の未来を考える、1時間ちょっとの下館歩き。まったく予備知識はなかったが、得るものは思いのほか多かった。長い歴史を持つ街ならではの美術館や博物館も下館には充実しており、今度訪れるときは、それらも巡ってみたいものだ。
15:06、下館発。関東鉄道常総線普通取手行き。10人ほどの乗客と共に、下館を後にした。
(つづく)