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【山梨】たった2台で道志村を走る――富士急山梨バス道志線 #48

バスがあるのに送迎が要る理由

下り坂を辿っていく。山中湖村内は割と直線的だった国道413号「道志みち」だったが、道志村内は渓流らしくうねうねと下る道志川に沿い、うねうねとしたルートになる。

▲下り勾配と緩いカーブがひたすら続く

道志村に入って最初の停留所、「道志ます釣場前どうしますつりばまえ」を過ぎると、次は「長又ながまた」。

▲長又で待機するバス。運用は平日のみ

最大で下り2本、上り3本が走り、道志村のほぼ全域を横断する月夜野―長又線の終着となる停留所である。しかしながら、特段何があるわけでもなく、小さなバス転回場があるだけ。僅か9分先の山中湖平野へ行くわけでもなく、なぜ唐突にもここが終点なのかと思っていたが、「ここが道志村の集落の西端だから」以上の理由は無さそう。山伏峠からここまではずっと山林だったが、長又まで来ると民家が出始め、生活のにおいがしてくる。

「ここが、月夜野から来ると終点なんですよ。ほら、あそこに1台停まっているでしょう。土日は動かないんだけどね」

同じ富士急山梨バスの車両が1台、転回場で休んでいた。「土日は動かない」とのことだが、平日は朝から運用に就くのだろう。

「朝、反対側までは行こうとしたんですよ。そしたら、神奈中の人に『月夜野までは行かない』って言われて。それで引き返して、大月に行って、富士山駅からバスに乗って、旭日丘で乗り換えて、何とかこのバスに間に合いました」

「これに乗り遅れると、次は4時間後だから、良かったね。土日は都留の方(都留市―道志線)も動いていないからね。土日はこれ(山中湖―道志線)だけ」

「月夜野からのバスに乗れれば、9時くらいにはキャンプ場に着いていたはずだったんですけどね。2時間遅れです」

「月夜野で接続すればやっぱりこのバスだったね。7:50発。神奈中が動いていないからね。長又から朝、月夜野へ行って、だけど、三ケ木みかげから両国橋(※月夜野のこと)までの神奈中に接続しないもんだからカラで走って、遊びで往復行ってきてね。そんで、長又から旭日丘まで回送で行って、この運用に入るんです。山道だからたまに土砂崩れがあって、迂回路をタクシーで繋いでくれることもあるんだけど、タクシーが出払っちゃってるのか、今回は代行もないね」

乗務員さんとの会話の中から、利用の実態が浮かび上がってくる。平常時は少ないながらも神奈中からの乗り継ぎ利用があること、神奈中との接続がない現状はほぼカラで走っていること。つまり、通学を除く道志村民の利用はほぼ皆無ということになる。現に、土曜の午前中という慣行に適した時間帯であるにも関わらず、このバスの乗客は自分だけなのだ。道志村内だけではカラになってしまうところ、橋本駅・相模湖駅からも首の皮一枚繋がっているからこそ、何とか系統を維持している様子が浮かび上がってくる。

▲下るにつれ、徐々に建物が増えてくる

「通学のお客さんは、皆顔なじみなんですか?」

「だいたいあの停留所で誰が乗って来るってのはわかるんだけどね。それよりも、帰りの便が問題なんだよ。最終が富士山駅16:55で早いでしょ、部活とか補習とかがあると、帰りのバスに間に合わないんだよ。それで、山中湖あたりか、場合によっちゃ吉田まで親御さんがクルマで迎えに行くってのが結構多くて、負担になっててね。村が学生用の送迎車を出すか、って話になってるんだけど…。バスも力になってあげたいんだけどね」

たしかに富士山駅16:55発では、最低でも17:00まで続く部活や補習の後では間に合わない。富士吉田の中心的な高校である、山梨県立吉田高校の最寄りとなる「吉田高校南口」停留所は17:13に山中湖旭日丘経由御殿場駅行き、18:16、19:16の富士山駅経由河口湖駅行きがあり、これら便は通学利用にも対応している。しかし、これらのバスで富士山駅や山中湖旭日丘へ向かっても、富士山駅16:55発の道志小学校行き最終は既に出た後。吉田高校は富士山駅徒歩15分なので、富士山駅へ歩いていったとしても、16:40頃には高校を出なければならない。

かといって、もう1便を出すほどには需要がないのだろう。始業時間が決まっている朝と違い、帰りの時間はどうしてもばらける。月夜野17:44発→長又18:33の最終を山中湖旭日丘まで延長すると18:55到着となり、河口湖駅18:30、富士山駅18:38→山中湖旭日丘19:08の便に接続させられる。この折り返しを、山中湖旭日丘19:10→道志小学校19:55の最終としてはどうだろうか。もっとも、現行に比べて乗務員の拘束時間が1時間以上増えるため、その要員を手当てしなければならない。

富士山駅17:23→山中湖平野18:10のふじっ湖号に接続させる手もあり、これなら旭日丘まで運行せずとも平野折り返しにでき、運行距離を削減できる。しかし現行に比べて終車延長は30分足らずであり、増発の効果に乏しい。

走行距離を増やさずして増発するためには、夕刻の富士山駅直通便をやめて山中湖旭日丘で折り返しとして河口湖駅─御殿場駅線の本線と接続させ、浮いた時間で道志小学校─山中湖旭日丘の折り返し便を増発…という手もある。4〜11月のデータイム便と同じ手法だ。しかし、地域の中心である富士吉田市からの直通をやめるというのは明らかにサービス低下である。少ないとはいえ通院・用務など、通学だけではない利用者がおり、しかもその利用者は高齢者が殆どとあれば、山中湖旭日丘での乗り換えは大きな負担になる。夕に1便残された直通をやめてまで増発するというのは、これもやはり現実的ではない。

バスの増発は制約が多い中で、乗客数はジャンボタクシーくらいあれば足りる。そうであれば、村が学生用のタクシーを1台手当てするのが合理的ということになるのだろう。「バスも力になってあげたいんだけどね」というのは本音にしても、増発するには制約が多すぎる。

しかし、同じ道路にはあれだけ便数が多い高速バスがある。富士山駅〜山中湖旭日丘、山中湖平野まで30〜60分間隔でコンスタントに走っているが、中央道上野原バス停から先は降車専用とされているため、乗車はできない。これをローカル利用に解放できないものかと思う。高速バス山中湖平野行きの最終は富士山駅20:07発と、ローカル路線バスより2時間以上遅い。山中湖平野までのローカル利用が解放されれば、観光客だけではない地域利用にも資することができる。道志村のすぐ近くの山中湖平野までのバスが増えるだけでも、道志村の負担軽減になるのである。

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