キャンプ場の麓へ
長又を過ぎると家々が増えはじめ、バス停の間隔も短くなってくる。山伏峠をサミットとして神奈川へ向かい下ってゆく道志川に沿い、「道志みち」も下り坂が続く。
川を下ってゆくにつれ、わずかずつ平地も広がってくるのが見える。「善の木」停留所の次は「下善の木」と、東西南北でなく上/下で表現するあたり、道志川がすべての基準になっていることがわかる。
このバスは「道志みち」から若干外れた村営温泉施設「道志の湯」にも立ち寄るため、高齢者の利用もあるのではないかと若干期待したが、バス停が近づいても乗務員さんはスピードを緩めない。途中バス停から道志小学校行きへの乗車など皆無なのだろう。
「明日もバスでお帰りですか」
「はい。中山15:20の山中湖旭日丘行きで帰る予定です」
「ああなるほど。道の駅には寄られますかな。お土産とかを買うんなら、あそこがいいと思うけども」
「そうですね、そういうのがあるなら、寄ってみます」
「道の駅最寄りだと『神地橋』になるけど、ちょーっと道の駅から離れているんでね。バス停でなくても、手を上げてもらえれば止まりますよ。明日の便なら私ですから(笑)、覚えておきますよ」
デマンドバスならではの取り扱いを、丁寧に教えてくれた。「手を上げれば止まるバス」なんて、いわゆる「都会の人」には馴染みがない。だからこその説明をしてくれた。この乗務員さん、まるでタクシーの運ちゃんの如く喋る喋る。こちらとしては飽きなくて良いけれども、こういうコミュニケーションもまた旅の醍醐味だ。
「はい、お疲れ様でした。到着ですよ」
やおらバス停でも何でもないところで止まった。ロードサイドの看板には、たしかにキャンプ場入口と書いてある。なるほど、これがデマンドバスの降り方か、と納得。
「どうもありがとうございました」
「道志の森キャンプ場」の最寄りは「中山」停留所であるが、停留所からだと歩く距離が増えるということで、キャンプ場への道に一番近いところで停めてくれた。PASMOをタッチし、下車。僕だけを降ろしたバスは、ほどなく道志小学校へ向けて去っていった。
「道志みち」を外れ、橋を渡る。清らかな道志川の眺めが広がるとともに、心地よい川風が鼻を通り抜けてゆく。無事に道志村へ着いた安堵を胸に、深い深い深呼吸をひとつ。
東京から幾ばくも離れていないところに、これほどの田舎があったとは。まだ知らない日本が、身の回りにも溢れている。
(つづく)