東北・北海道

【北海道】新千歳空港が北海道のローカル線を救う日――JR札沼線(学園都市線)(4) #53

「新千歳空港本線直結」でJR北海道は変わるか

そんな中、JR北海道にとってのキーポイントとなりそうなのが、「新千歳空港駅の大改修構想」である。

新千歳空港の利用者数は約2,300万人。直近10年で約800万人・約1.5倍の増加をみており、輸送量の増加に空港アクセス鉄道の増強が追い付いていない。

過去最多2331万人 胆振東部地震の影響回復-18年新千歳旅客数|ニュース|Webみんぽう https://www.tomamin.co.jp/news/area1/15516/

現在、新千歳空港駅は千歳線・南千歳駅から1駅分岐した終点となっており、ほぼ終日15分間隔で快速エアポートが走っている。しかし、この分岐線が単線であることでこれ以上の増発が難しい上、快速エアポートが直行する札幌・小樽方面以外へは、道東(帯広・釧路)および道南(室蘭・函館)方面へは隣の南千歳で、道北(旭川)方面へは札幌駅での乗り換えが必須である。このため、快速エアポートの増発もままならず、また他路線への直通運転も難しいといった、八方塞がりの状況にある。

新千歳空港駅が開業したのは1992年、当時の年間利用者数は1,300万人程度だった。東日本大震災に見舞われた2011年はさすがに落ち込んだものの、それ以外はほぼ一貫して増加を続けてきた。しかしながら、空港アクセスの主役をなす快速エアポートは6両編成・15分間隔運転でほぼ変わっていない。この航空旅客の増加に対し、JR北海道は転換クロスシート主体だった721系を順次退役させ、全席ロングシートとした733系を導入した程度。1両当たりの乗車定員を増加させただけで、「やらないよりマシ」程度の改善でしかない。今の3分の2の乗客数の時に構築された輸送体系が、JR北海道の経営難もあってそのままになっているのだ。

そこで、行き止まりの新千歳空港駅を貫通させ、苫小牧・室蘭・函館方面および帯広・釧路方面への直通列車を運行させるというプランが2015年に浮上。併せて1・2番線の隣に3・4番線を新設し、様々な列車の分岐・折り返しに対応させようという、空港アクセス輸送を根本から見直すものになっている。

新千歳空港駅、路線見直し検討 苫小牧・道東とのアクセス向上-JR北海道|ニュース|Webみんぽう https://www.tomamin.co.jp/news/main/13726/

これが完成すれば、南千歳を素通りしていく特急列車が新千歳空港を経由するようになり、道南・道東方面への乗り換え解消・所要時間短縮になるのはもちろん、快速エアポート以外の列車を新千歳空港駅へ引き込むことも容易になる。快速エアポートだけでなく、千歳線を走る全ての特急・普通にも、空港アクセスの役割を担わせることができるのだ。

特に、旭川方面への直通運転は、札幌発着の特急列車を快速エアポートとして延長する形(旭川―札幌間は特急=要特急料金、札幌―新千歳空港間は快速)で、1992年の新千歳空港駅開業以来続けられてきた。特急型車両を使用するがために千歳線区間での混雑が問題となり、2016年のダイヤ改正で直通運転が取りやめられてしまったという経緯がある。これらを復活させ、利便性を取り戻すと同時に、鉄道が通じているニセコ、富良野などの観光地を空港と直結させようというのが、この計画の趣旨だ。

快速エアポートの本数がそこまで多くなかった頃は、特急「ニセコスキーエクスプレス」などの気動車が新千歳空港駅に乗り入れていたこともあった。しかし、快速エアポートの増発に伴って発着枠が削られ、これらリゾート地を結ぶ特急列車は札幌駅発着に改められた。現在でも、特急「フラノラベンダーエクスプレス」などが札幌発着の季節列車として走るものの、バブル崩壊によるリゾート需要の減少などの影響もあって、往時ほどリゾート列車は走っていない。かつてのJR北海道は、魅力的なリゾート列車を次々と登場させ、リゾート特急の先進的な存在ですらあったのだが、今では見る影もない。

沿線に際立った観光地を持たない札沼線はともかく、青線で示された「上下分離方式の導入を検討」とされた根室本線滝川―富良野間、富良野線、および室蘭本線沼ノ端―岩見沢間などは、これによって観光地・富良野へのアクセス路線としての再生が期待できる。また、石北本線特急「オホーツク」や宗谷本線特急「宗谷」を札幌駅から新千歳空港まで延長することも容易になる。これら特急列車は、利用不振から半数が札幌はおろか旭川止まりとされてしまっており、利用促進が急務となっている。

青線路線の利用促進ばかりでなく、「廃止・バス転換を検討」とされる赤線で示された根室本線富良野―新得間も、富良野とその周辺を周遊する観光客が増加すれば、富良野と釧路湿原、納沙布岬、知床半島など道東の観光地を結ぶ路線として、てこ入れが期待できよう。(※現状では東鹿越ひがししかごえ―上落合信号場間17.4kmが土砂災害のため不通、幾寅いくとら駅・落合駅が営業休止。ただ、この区間は営業係数が約2,000という超赤字区間でもあり、JR北海道は今のところ復旧を前提とした行動を起こしていない。)

要は、新千歳空港駅の機能拡充によって、厳しい状況に追い込まれた多くのローカル線に対し、①大都市への特急や直通列車などのアクセス手段 ③起点・終点で他路線に繋がるネットワーク性 といった、鉄道活性化の必要条件を持たせることができる、というわけだ。

しかしながら、その他赤線で示された札沼線、夕張支線、留萌本線および青線の中でも日高本線は、新千歳空港直結が難しいこともあって、①③の意味合いを持たせることが難しい。残る道は④その路線自体が観光資源となり得るか・・・だが、これは納沙布岬へ至る花咲線や、釧路湿原や知床半島を繋ぐ釧網本線の独壇場であり、現にこれら路線では観光列車の運行が計画されつつある。沿線に有力な観光地を持たない現状では、④も厳しい。このため、鉄道存続は極めて厳しいと言わざるを得ない。

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「札沼線に送る言葉」

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