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【千葉】”オリエンタルランド交通”から地域輸送へ──浦安物語(3):東京ベイシティ交通バス #82

TDRと二人三脚…東京ベイシティ交通バス

さて、話を東京ディズニーリゾート(TDR)周辺に戻そう。1983年の東京ディズニーランド(TDL)開園当時、TDL周辺にホテルはなく、またJR京葉線も開通していなかったため、パークへのアクセスは東西線浦安駅からの直行バスに頼るほか無かった。

▲京葉線開通によりその役割が薄れたとはいえ、今でも東西線「浦安駅入口」バス停にはTDR方面行きの案内が掲げられている

浦安町内のバスを運行していたのは京成バス(主に総武線本八幡駅行き、他に今井行きなど)であったが、浦安橋にほど近い一部の区間では都営バス(東京都交通局)も都県境を越え、総武線新小岩駅・平井駅・亀戸駅行き、果ては東京駅までを運行していた。ただ、人口19,000人程度の漁師町の日常利用に対応するものでしかなく、TDLの大量輸送を受け入れる余力はなかった。

▲かつて浦安へ乗り入れていた都営バス【亀29】。現在は亀戸駅─西葛西駅・(葛西駅通り)なぎさニュータウンまでと、都内のみの運行になっている。

また、都営は1969年の東西線開通によって大きく影響を受け、1978年には浦安町内から撤退した。浦安橋東詰にあった都営バス浦安分車庫は東京都交通局浦安寮となったものの、現在ではそれも姿を消し、跡地は病院やマンションになっている。

こうした状況を踏まえ、開園前から工事関係者の輸送需要が多数存在したこと、東西線開通後より埋立地の宅地開発が進み人口が増加していたこと、京葉線の開通がTDL開園に間に合わず当面は東西線浦安駅からのバス輸送となるのが確定していたこと、また浦安町内のバス路線がそこまで発達したものではなかったことなどの複数の要因から、この需要増加分の受け皿となるべく、当時はTDR関連のみならず舞浜の宅地開発も手がけていたオリエンタルランド自らがバス事業を展開することとなり、1976年に「オリエンタルランド交通株式会社」が設立。翌1977年から、浦安駅入口─舞浜車庫(現・舞浜三丁目)間(現在の【6】市役所線:浦安駅入口─舞浜駅に近い)のバス運行を始めている。

▲「日本の路線バス・フォトライブラリー」様( www7a.biglobe.ne.jp/~rosenbus/index.html )より引用。現在は移転し「千鳥車庫」となったが、この当時は「舞浜車庫行き」だった。

社名が「東京ディズニーランド交通」とかにならなかったのは、こうした地域輸送を出発点とし、自社で開発した埋立地へのアクセス手段として出発したことによるものだ。車体には「オリエンタルランド交通」と、親会社であるオリエンタルランドと同じフォントで堂々と記載されていた。現在、舞浜に降り立っても「オリエンタルランド」の社名を目にする機会は少なく、「オリエンタルランド本社前」のバス停か、駐車場・駐輪場の管理者としての掲示くらいしか目にしないが、当時は一般客もこの社名を目にしていたというわけだ。

▲「日本の路線バス・フォトライブラリー」様( www7a.biglobe.ne.jp/~rosenbus/index.html )より引用。収容力に勝る3扉車を標準として導入していた。京葉線開通までの混雑がいかに激しいものだったかがわかる。

1983年のTDL開園に伴い、オリエンタルランド交通は浦安駅入口─TDL間をノンストップ(一部はオリエンタルランド本社前にも停車)で結ぶシャトルバスの運行を開始する。浦安駅前のロータリーが狭く、大量の乗客を受け入れる余地がなかったこともあり、浦安駅から東へ徒歩5分ほど離れた、やなぎ通り沿いの「浦安バスターミナル」を起点とした。ここは浦安バスターミナルの設置まで京成バス浦安車庫であったところで、TDL開園に合わせて浦安駅近くにバスターミナルが必要とされたことから、京成がオリエンタルランドへ譲渡したものだ。浦安駅から浦安バスターミナルへ向かう道には「ディズニー通り」の名がつき、当時はミッキーのコスチュームにちなんだ赤と黄色の舗装が続いていたという。

▲現在のディズニー通り。奥に東西線浦安駅が見える。

なお、現在のディズニー通りは名前こそ残っているが、至って普通の歩行者用道路になっており、お世辞にも「ディズニー通り」の雰囲気は感じられない。浦安駅からTDRへのバスに乗ろうにも、この通りは乗り換えルートになっていないため、完全に過去の遺物といったところである。

▲ディズニー通りを歩いていくとダイエー浦安駅前店に出る。かつてはここが舞浜バスターミナルで、この道路に面して改札口が設けられていたという。

浦安バスターミナルは1988年の京葉線舞浜駅開業後、1996年まで存続したものの、現在はダイエー浦安駅前店となっている。ダイエーのオープンは2014年と比較的近年であるが、これは2000年にオリエンタルランドから地元組合が土地を取得して以降、土壌汚染が発覚したり、住環境の悪化を危惧する住民から反対運動を起こされたりと、様々なトラブルに見舞われたことによるもの。かつてはバス車庫、その後数年は国内有数の繁忙を極めるバスターミナルとして機能していたのだから、土壌汚染が発覚しても仕方なさそうな土地ではある。

▲紆余曲折を経て、浦安バスターミナル跡地へ2014年に開店したダイエー浦安駅前店。かつてダイエーが覇権を握った頃、新浦安駅前のダイエーショッパーズプラザ新浦安店は広く都内からも買い物客を集めた。浦安市民にとってダイエーとは新浦安のイメージが強く、新浦安店がイオンに転換された今でもダイエーといえばこちらではなく、新浦安を指すことが多い。

1988年の京葉線開通で浦安駅入口─TDLのシャトルバスは大幅減便となり、やがて地域輸送に包含されていった。現在では、先述の【6】市役所線をはじめ、浦安駅入口─舞浜駅は大別して3つの系統によって結ばれている。

  • 【4】富岡線/【8】富岡S線/【12】舞浜リゾート線:浦安駅入口─順天堂病院前─(【8】富岡S線・【12】舞浜リゾート線は東京ディズニーシー経由)─舞浜駅─東京ディズニーランド…毎時3本
  • 【6】市役所線/【26】弁天・市役所線:浦安駅入口─市役所前─(【6】:運動公園経由・【26】:弁天中央・舞浜小学校経由)─舞浜駅…毎時4本
  • 【9】舞浜線:浦安駅入口─(大三角線)堀江中学校前─舞浜駅…毎時3本
▲東京ディズニーシーへ到着した【8】富岡S線。「S」とはディズニーシーの「S」EAから取られたものと思われ、東京ディズニーシーへ立ち寄る便にSがつく。

これらを合わせると、経由違いを合わせると毎時10本程度が浦安駅入口─舞浜駅を結んでおり、途中停車の有無を除けば、舞浜駅開業から30年を経て、今なお高いサービスレベルを保っている。なお、このうち最短経路となる【9】舞浜線のみ190円(IC186円)だが、他路線は240円(IC237円)となるので注意。

▲舞浜駅南口に広がるバスターミナル。歩いてすぐの東京ディズニーランドのバスターミナルは高速バスやエアポートリムジンが主に使うのに対し、こちらは路線バスが中心。写っているのは浦安市コミュニティバス「おさんぽバス」。

京葉線開通から1年後の1989年に、オリエンタルランド交通は現在の「東京ベイシティ交通」に社名を変更した。京葉線開通によってTDLへの唯一のアクセスという役割が薄れ、地域輸送へ軸足を移してゆく過程で、親会社の親会社である京成電鉄の資本を受け入れたことによるものだ。これによってオリエンタルランド100%出資から京成電鉄65%・オリエンタルランド35%となり、京成グループの一員となった。

▲浦安駅入口で発車を待つバス。東西線浦安駅とはやや離れており、バス乗り場の改善は長年の課題となっている

それ以降、東京ベイシティ交通は引き続き浦安市内でほぼ独占的に路線バスの運行を担っているのに加え、羽田空港・成田空港─TDR・浦安市内のエアポートリムジンバス、また東京駅・秋葉原駅─TDRの短距離高速バスを運行している。これら高速道路経由のバスの運行に際しては、東京駅・羽田空港・成田空港の発着場所を京成バスと共有することでグループメリットを活かしているほか、繁忙期には車両の融通もしているようだ。また、浦安市内─東京駅の短距離高速バスは「マイタウン・ダイレクトバス」と呼ばれ、新浦安駅から離れたエリアと東京駅を乗り換えなし・完全着席で結ぶという利点をアピール。京葉線と完全に並行する路線でありながら、一定の需要を獲得している。

▲東京ディズニーランド・バスターミナルで待機する京成の高速バス。混雑する京葉線に対し、完全着席を保証するので一定の需要がある

現在の東京ベイシティ交通は、草創期のディズニーランド専属という役割は薄れたものの、短距離高速バスを通じてTDR直結という使命を果たしているほか、浦安市内の地域輸送には無くてはならない存在となっている。

▲浦安市役所へ到着したおさんぽバス。車体にもしっかり「東京ベイシティ交通」の文字が入る

2002年に運行を開始した浦安市コミュニティバス「おさんぽバス」の運行も受託しており、現在では3ルート4経路を各20分間隔運行という、コミュニティバスにしては最高に近いレベルにまで発展した。

▲浦安市役所構内に整備されたおさんぽバス専用のターミナル。おさんぽバスの全3系統はすべて市役所を経由する

すべて運賃100円であり、浦安市による助成がこの低運賃を支えていることは言うまでもない。全国有数の金持ち自治体である、浦安市ならではの市民サービスの一つと言えよう。

▲浦安市役所には発車標まで設けられていた。ここまで案内設備が充実しているコミュニティバスは大変珍しい

なお、一般路線バスとの競合を避けるため、市内3駅の駅同士を結ぶ路線は存在しない。また、市内各地をきめ細かく結ぶことを第一としているため、かなりクネクネの経路を辿ることから、一般路線バスと比べ、似たような距離でも相当の時間を要する。例えば、東西線浦安駅徒歩10分、「おさんぽバス舞浜線」における東西線浦安駅最寄りの「堀江認定こども園」から舞浜駅までは22分・運賃100円だが、【9】舞浜線なら浦安駅近くの「浦安駅入口」から舞浜駅まで20分・運賃190円。徒歩移動にかかる時間の分だけ速いと言える。

▲おさんぽバスの路線図。市内各所をくまなく周り、駅から離れた市役所へ集まってくる様子がわかる。

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浦安駅再開発で元町は変わるか

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