北の灯台。その言葉からは、どんな景色が想像されるだろう。どんよりとした曇り空をバックにした、荒れ狂う日本海か。あるいは、津軽海峡冬景色さながらの、傷心の女性の一人旅か。いずれにせよ、その響きからは、どこか物悲しいイメージが掻き立てられる。
しかし今回訪れた「北の灯台」は、日本海でも北海道でも津軽海峡でもなく、”南の島”石垣島。その名も、平久保崎灯台という。その灯台が建つ、石垣島の北の果て。そこに向かう、黄色いバスに揺られてみた。
石垣島の公共交通を担う東バス
日本最西端の、沖縄県・八重山諸島。その主島たる石垣島は、全域が石垣市に属し、人口は48,000人ほど。沖縄県内最高峰となる於茂登岳が聳えるほか、島の周囲には豊かな珊瑚礁が発達し、シュノーケリング、ダイビング、カヌーなど、国内屈指のマリンレジャーが盛んな地である。西表島、竹富島など、八重山諸島の離島との間の航路が発達しており、これら離島から石垣島へ買い出しに来る離島住民も多い。石垣市民に加え、竹富町民4,000人、与那国町民2,000人の計54,000人の、八重山諸島の経済の中心である。
その石垣島の公共交通を一手に担うのが、東運輸株式会社(以下『東バス』とする)の路線バスである。日本最西端の南の島にして「東バス」とはこれいかに、という気もするが、その社名の由来はどうもはっきりしない。
1935年に設立された「八重山自動車商会」が東バスの原点であり、現在に至る「東運輸株式会社」が設立されたのは戦後の1950年。どちらも代表は糸州長勝という人物であり、「東」の字は入っていない。沖縄では代表者の人名の一部を社名に組み込む例が結構あり、石垣島においても離島航路の運営を担う安栄観光も、代表者は森田”安”高氏という。しかし、東バスにおいては、これに当てはまらないものだ。
設立当時の株主に石垣島”東”部の大浜や白保といった集落の住民が多く、現にこれら集落は1964年の合併までは石垣市ではなく、八重山郡大浜町という独立した自治体であった。おそらく、大浜町民に支えられて、現在に至るまで主要路線となっている石垣─白保線の運行から始まったという経緯から、「石垣から東へ向かう」意味を込めたものと思う。
現在の東バスのドル箱路線といえば、系統番号【4】【10】の2系統からなる「空港線」である。詳しくは過去記事を参照いただきたいが(リンク→【沖縄】どちらに乗る?石垣空港から離島ターミナルへ──東バス④⑩空港線 #68)、石垣市街地の経由地が異なるものの、2系統合わせて15分間隔運行という高い利便性を有するため、空港客のみならず地元客の利用も多い。石垣市民48,000人のうち、殆どの人口がこの空港線沿線に集中しているため、運行時間帯も6〜21時と幅広い。
さて、その空港線以外の路線はというと、一転してローカル路線そのものとなる。一部を除き、基本的には島の東はずれの空港ではなく、南端の石垣市街地の中心部に位置する「バスターミナル」(※『石垣バスターミナル』とかではない)を起点とし、各地へ向かうという放射型の路線である。
なお、島全体が平坦で人の流れが拡散する宮古島と違い、石垣島は中央部に於茂登岳が聳えており、川も多い。このため、人の流れは基本的に海岸部に沿う形となることから、宮古島にはない「一周線」も存在する。これについては後述する。
ローカル路線の中で最も運行本数が多いのは、島の北西部へ向かう【9】川平リゾート線。バスターミナルを起点に、リゾートホテルが集中する石垣島西海岸、景勝地として名高い川平湾に面した「川平公園前」を経由し、終点はその先の川平石崎に面する島一番のリゾートホテル、クラブメッド石垣島前の「クラブメッド」となる。
地元民の利用もあるが観光客の利用に特化した系統であり、多くのリゾートホテルの車寄せに立ち寄る。川平湾は石垣島を代表する観光地の一つであり、「カビラブルー」と称されるその海の景色を求め、外国人の利用も多い。このため、英語放送が完備されている。
バスターミナル〜クラブメッド間の【9】単独では1〜2時間に1本の6往復/日(7/1〜9/30の観光シーズンは2往復/日増えて8往復/日)だが、バスターミナル〜川平公園前までは、経路が異なるものの、これに加えて【2】【3】西回り・東回り一周線、【7】吉原線、【8】西回り伊原間線、【11】米原キャンプ場線も利用できる。ただし、これらを合わせても8往復/日程度であり、【9】川平リゾート線を足して漸く1時間1本程度である。
そして、今回乗車したのが【6】平野線。石垣島の北東部に突き出た平久保半島の突端、平野へとバスターミナルから東海岸を経由して向かう系統であり、3〜5往復/日の運行。
なお、バスターミナル〜平野を結ぶ系統には【5】平野伊原間線も含まれ、運行区間は末端区間にあたる朝1往復の伊原間─平野間の区間運行を除き【6】平野線と同一であるが、【5】は深夜の下りで平野へ向かいそのまま滞泊、翌朝の上りでバスターミナルへ折り返すという、乗務員・車両の滞泊を含む行路となるため、別路線扱いとなっている模様。
なお、半島の付け根にあたる伊原間までは【2】【3】西回り・東回り一周線、【8】西回り伊原間線も利用できるが、これらを足しても、伊原間までですら2時間に1本程度であり、伊原間から先、平野へ向かうのは【6】平野線・【5】平野伊原間線しかない。
なお、平久保崎灯台の目の前まで行くわけではなく、灯台までは平野終点から農道の中を歩くこと20分ほどを要する。ただ、ローカル区間にあたる石垣空港─伊原間─平野間はフリー乗降制度が設けられており、どこでも乗降ができる。灯台徒歩15分ほどの最寄り地点は停留所こそないが、ここを目的地とする観光客が多いこともあり、実質的に停留所として機能している面もあるようだ。
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空港連絡の機能も持つ近郊区間