九州・沖縄

【沖縄】悩めるイリオモテヤマネコの島…エコツーリズムの最先端で──船浮海運フェリー(2) #73

“船でしか行けない集落”船浮をチャーター船で後にし、環境省西表野生生物保護センターへ。「イリオモテヤマネコの島」でもある西表島が、観光振興と環境保護で揺れている。エコツーリズムの最先端で、何が起きているのだろう。

【2日目】
浦内10:06発─(西表島交通バス白浜行き)─白浜10:23着…白浜港10:55発─(船浮海運フェリー船浮港行き)─船浮港11:00着…船浮港12:30発─(チャーター船)─白浜港12:35着…白浜12:40発─(西表島交通バス豊原行き)─大原港14:18着/14:25発─(西表島交通バス由布水牛車乗場行き)─野生生物保護センター14:39着…(環境省西表野生生物保護センター見学)…野生生物保護センター16:09発─(西表島交通バス白浜行き)─浦内17:12着

船浮の名所-イダの浜へ

船浮集落の片隅にあった「名もなき浜」から、船浮イチの名所である「イダの浜」まで歩いた。

ろくに下調べもせずに行ったため、船浮集落からイダの浜まではすぐなのかと思っていたら、要は船浮の半島の尾根を越えた先であったため、徒歩15分ほどを要した。

集落のはずれの草むらに「←イダの浜」とある立て札があり、いかにも地元の人が観光客のために手作りしたような雰囲気が漂っていた。確かにこの立て札がなければ道がわかりにくく、迷う人も多かったのだろう。

その立て札を過ぎると、いよいよ軽い山道に入っていく。竹富町による「落石注意」の掲示もあり、だんだんと地形が険しくなってくる。

坂道がきつくなってきたあたりに、小さな瀬と湧水を集めて石で堰き止め、水がめのようにしてある場所があった。堰き止められた石の一点に穴が開けられており、ここからちょうど神社の手水のように、こんこんと水が流れている。近代水道が普及するまで、こうした簡易的な水道は、集落全体の共有財産として大切に管理されていたことだろう。

「飲んではいけません」という札もなかったので、手で掬って飲んでみると、さすがに南の島だけあってキンキンに冷えているわけではないが、それでも適度に冷たく、気持ちいい。ついでに、汗がにじむ顔もひと流し。ゴールデンウィークだがそこは沖縄、30℃くらいはあるのだ。

尾根を越えて下り坂になったあたり、道の真ん中に立派なガジュマルの大木が鎮座していた。道を作ろうとしても、立派すぎて退かせなかったのだろう。無秩序にツルが絡み合いながら、上へ上へと伸びているガジュマルの様子は、まるで南の島の混沌を体現しているかのようだった。

イダの浜の少し手前に、「水底電話ケーブル埋設」についての立て札が、NTTによって設置されていた。電話線を損傷するほど深く地面を掘るようなこともないだろうが、注意喚起をしておくに越したことはない。「損傷しますと電話が通じなくなります」という警告もあり、こういった立て札があるのも離島ならではなのかもしれないと思う。

電話が通じなくなるということは、救急対応もできなくなってしまうということであり、特に診療所がない船浮では文字通り命取りになる。最寄りの診療所は、白浜港まで船で渡った先の祖納にある「沖縄県立八重山病院附属西表西部診療所」であり、船浮からはフェリーとバスを乗り継いで最低30分はかかる。しかも夜間や休日は休診なので、そうした場合は石垣島まで行かなければならなくなることもあり得る。離島での医療には、こうした救急対応の難しさもつきまとうものだ。

さて、トレッキングにも近いイダの浜への道のりを歩ききると、それはそれは清らかな、美しい浜が僕を迎えてくれた。

さすがは西表島でも屈指のビーチであり、イダの浜目当ての観光客も少なくないという。それだけあって、ビーチではさっきの船で到着したらしい、10人くらいが海と戯れていた。

しばらく観察していると、沖からグラスボートがやってきた。波打ち際で乗客を降ろしてそのまま座礁したかと思うと、そのまま船長が船を浜へ引っ張り上げていく。すごい力だ。本格的な係留施設がない船浮では、こうして浜へ船を引っ張り上げてしまうのが、ある種合理的な保管方法なのかもしれない。

ビーチでは若い男女のグループが酒を片手に話に興じていた。うち1人の男は何度も西表へ訪れているようで、GWの航空券を安く手に入れたことを仲間へ自慢していた。沖縄通の間では「どれだけ沖縄を訪れたか」が、一つの指標になることもあるらしいが、わざわざこんな所まで来てマウントを取らなくてもいいじゃないか、とも思う。せっかくこれだけ静かで美しいビーチが目の前に広がっているんだから、女の子ばかりでなく海も眺めればいいのにね。

砂浜に目を転じると、ただの貝殻かと思っていた貝殻が、もそもそと動いているではないか。よく見ると、それらはすべて大小のヤドカリであった。これだけ密集しているとは恐れ入る。NHK・Eテレ「2355」の劇中歌、「ヤドカリ『ドカリー』のうた」でも、BEGINの比嘉栄昇さんが沖縄に暮らすヤドカリを歌っていたのを思い出す。浜辺をよちよちと歩くヤドカリは、沖縄県人の心にも刻まれている景色のようだ。

もしイダの浜を訪れる機会があれば、軽いトレッキングのような山道を片道15分程度歩くことを記憶に留めておいた方が良い。少なくとも、ビーチサンダルのような履物で来ることはオススメしないので、ご注意を。

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チャーター船はモーターボート!

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