九州・沖縄

【沖縄】遥かなる”果てうるま”への旅路──安栄観光波照間島航路 #74

ニシ浜に魅せられて

一周道路をそのまま反時計回りに進むと、高那崎から15分ほどで島の東端の波照間空港へ至る。新築のまま使われていない旅客ターミナルをひとしきり見物し、なおも一周道路を進んでゆく。

空港は低地にあるため、またもきつい坂を上がっていく。上がりきったところが集落で、やはり波照間空港から15分ほど。

ここらがちょうどお昼時であり、集落内のカフェ兼染物工房「あやふふぁみ」でラフテー定食(800円)を頂いた。疲れた身体に、柔らかなラフテーの味が染み入っていく。沖縄の気候と豚肉の相性の良さは、折り紙つきのものだ。

あやふふぁみを出たすぐ近くにある、「モンパの木」なる不思議なTシャツ店。店主のオジイオリジナルのデザインTシャツを販売しており、どれも南十字星や海など、波照間島を象徴するものがあしらわれている。「日本最南端 波照間島」などと字が入ったものもあり、お土産としても好適だ。なかには、毎年買いに来る常連さんもいるのだそう。僕も一枚、波照間島らしい淡い水色のデザインのTシャツを買い求めた。

そして最後、島の北側にある「ニシ浜」へ向かった。ニシとは、東(アガリ)・西(イリ)・南(パイ)・北(ニシ)という沖縄ならではの方角の表現によるもので、「北の浜」といった意味合い。海の先には、北に浮かぶ西表島が見渡せる。

このニシ浜は、トリップアドバイザーをはじめとした旅行関係のサイトに「日本国内で最も美しいビーチ」として度々選ばれており、透明度が極めて高い。また熱帯魚やウミガメといった海の生き物たちが自然と寄ってくるということもあり、多くの観光客を魅了している。

その現実離れした美しさの海を、シュノーケルを装着して楽しんだ。熱帯魚とともに泳いだり、生きたナマコを発見して驚いたり。こんな海が日本にもあったのかと、時を忘れてひたすら海を全身で体感した。

***

16時を過ぎれば、そろそろ石垣港行き最終高速船の時間である。

波照間港に戻って自転車を返し、多くの乗船客が旅客ターミナル内の畳で雑魚寝をしているなか、ターミナル内の小さな売店で波照間島の泡盛「泡波」を買い求めた。

「泡波」は島外にほぼ流通しない「幻の泡盛」として知られる。後日飲んでみたら、その爽やかな、喉に抜ける風味が格別のものであった。

17:10頃、夕陽のなか、石垣港行きの「ぱいじま2」が入港してきた。

石垣市内で買い物を済ませてきた波照間島民と入れ替わりに、一日中島を満喫した観光客が乗り込んでゆく。出航は17:20だが、30分以上前から岸壁に行列ができており、ずっと立って待っている人も少なくない。よほど窓側に座りたいのか。17:20、波照間港発。

帰りの船は行きほど揺れなかった。海況の変化は、それだけ運航状況に及ぼす影響が大きいということなのだろう。波照間島の期待感に沸き立っていた行きの船と比べ、帰りは遊び疲れて寝入っている客が多かった。寝入ってしまうほど穏やかな航行だったということもあるだろうか。

石垣島からもっとも遠い分、もっとも素朴な八重山の暮らしが残っている波照間島。観光客が増加を続けているのは、こうした点に魅力を感じる人が多い所以であろう。

波照間島への観光客はリピーターが多いという。「船が出るか出ないか気を揉みつつ、出なくても、それはそれでいい思い出。また来ればいいさ、そのくらいの気持ちでいいんだよね。あの波がなくちゃ波照間に来た気がしない、なんて人もいるんだから」と、モンパの木のオジイは語っていた。

今度はぜひ泊まりで来て、かの有名な南十字星を眺めてみたい。フェリーから遠ざかる波照間島の影は、どこまでも自然で、どこまでも優しいものであった。

(つづく)

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